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月夜の代行者  作者: うた
第一章 契約・修行
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20 情報

「ターエちゃん」

「……」


 タエの顔がゆがむ。下校途中、隣にいる涼香りょうかは全く気付いていない。

 夏休みも終わって二学期が始まった。代行者の仕事もだいぶ慣れてきたので、ハナと手分けをして、一人で戦えるようになった。通帳は聖域にあるタエとハナの部屋に置いてある。本当に必要な時に使うよう、家には置かないように決めたのだ。代行者には聖域本殿の中に部屋が与えられる。タエは夜しかいないので、詳しく知らなかった。そんなタエの行動を、高龗神タカオカミノカミこころよく思っている。しっかりとお金の管理をしているので、安心しているのだ。



「ねぇ、タエ聞いてる?」

「え? 何だっけ」

 紗楽しゃらくが付きまとっているので、そちらにばかり気を取られ、涼香の話を聞いていなかった。

「バイトの話。ファミレスのバイトなんだけど」

「ああ。やってみようと思うなら、良いと思うよ。でも、夜遅くまでは危ないから、やめてね」

「あはは。お母さんみたい」

「お母さんで結構。涼香ちゃんは可愛いから、絶対変な奴に狙われる。人通りの少ない道は、通ったらあかんよ」

「了解、お母さん。ありがとね。家でも相談してみる」

「うん」

 視界に余計な人物がチラチラ見えるが、気にしない。


 じゃあねと別れ、涼香が見えなくなると、Uターン。自分の家が紗楽にバレるのを恐れ、彼がいつもいる河原の方へ向かう。

「やーっと、こっちを向いてくれやしたねぇ」

「あの子には見えへんでしょ。独り言しゃべる、変な奴になるでしょ」

 河原に到着。紗楽はふわりと浮かびながらおかしそうに笑うと、キセルを取り出した。金色の筒、羅宇らうに手をかけ、火皿がある雁首がんくびまで長い指を沿わせている。スッと吸い込み、息を吐くと、何故かは分からないが煙が出て、点火されていた。

 彼は、その仕草がとても上品で、高貴な一面をのぞかせる時がある。ただの霊だとは思えない。だからこそ、油断できないと思えるのか。


「で、用は何?」

 タエが聞くと、紗楽がにこにこしている。面白くなく、怪訝けげんそうな顔をすると、彼は口を開いた。

「あの三匹が騒ぎ出してますよ」

「三匹?」

 タエには覚えがなかった。

「どの三匹?」

鬼門きもんの辺りに住む化け物なんですがね。昔、鴉天狗からすてんぐに手ひどくやられて、命からがら逃げたんですよ。鴉天狗も仕留め損ねた因縁のある奴で」



 鴉天狗。鞍馬山くらまやまに住む妖怪一族だ。彼らは鴉の頭を持ち、黒く大きな翼を持っている。そして、山伏やまぶしのような装束しょうぞくを身にまとっているらしい。力は強いと聞くが、代行者のように京都を守ろうとはしない。鞍馬山を守る事にしか興味がないのだと、高龗神から聞いた事があった。近くにいるのに、まだ会った事がない。



「ずっと大人しくしてたんですが、ケガが完治したようです。代行者のあなたから見ても、そんな化け物が三匹も暴れられちゃあ、困るでしょ? ちょっとした情報提供ってヤツですよ」

 それはそうだか、裏がありそうで怪しい。

「何であんたがそんな事知ってんの?」

「あたしは情報屋ですよ。高龗神様とは、あたしが情報を差し上げるという条件で取引をして、ここにいられる許可をいただいていますから。当然の事です」

「そうだったの」

 それでも、彼女は紗楽を信用してはいない。互いに利用している、そんな感じだ。

「ええ。でなきゃ、すぐにでもあの方の式によって、天界へ送られたでしょうから。あぁ、地獄かもしれませんねぇ」

 愉快ゆかいそうに笑っている。情報の内容が物騒なのに、まるで他人事だ。

(紗楽はいつもこんな感じか)

 あまり気にもならなくなってきた。タエはとりあえず礼を言う。

「分かった。私達も様子を見るよ。情報、ありがとう」

「いいえ。どうか、この地をお守りくださいね」

「分かってる」





 タエが背を向け、帰路きろに着いた。紗楽はキセルを吸いながら、その後ろ姿をじっと見つめている。


「少しずつ動き出している奴は、そいつらだけじゃあ、ありませんがね」


 ぽつりと呟き、ふう、と煙を吐いた。


読んでいただき、ありがとうございます!

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