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月夜の代行者  作者: うた
第三章
190/330

186 嵐

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

「お姉ちゃん、苦戦してるみたい」

 離れた所からタエを見た。いろんな場所に出現する、最後の道満の鬼。タエと幸成はまだ仕留められていない。ハナの所は、だいぶ余裕が出来た。味方の妖怪達のおかげで、数が減ったのだ。森からも、出て来る妖怪はいない。

「皆、ここを頼むわ」

「任せとけ!」

 ハナは野槌達に声をかけ、姉の元へ急いだ。

「俺は綱殿の所へ行く。皆は先に都へ向かえ!」

「はっ」

 保昌も兵達を先に撤退させ、竜杏達の所へ向かおうと駆け出した。平原の中心へと向かうほど、妖怪の数が多い。竜杏を狙って総攻撃しているのだ。保昌は、後ろから次々と斬り伏せて、我が隊長を目指す。



「藤虎殿!」

 ハナが藤虎の近くまで走って来た。彼は馬二頭を守りながら、周りの妖怪と戦っていた。鏡の力のおかげで、弱い妖怪は近付けない。そういう者は、味方の妖怪達が相手をしてくれている。実際に手を出してくるのは、それなりに強い妖怪だ。それでも結構な数がいる。

 到着したハナは、馬の背に煉が乗っている事に気付いた。

「煉もいたのね」

「ハナ様」

 藤虎は片手で刀を振り、赤い肌をして角が一本生えている鬼の首を落とした。馬に噛み付こうとする妖怪もいて、彼は即座に反応する。藤虎の剣の腕も一流だとよく分かる。彼の手が届かない所は、煉が炎で応戦していた。まだ傷は痛々しく、大技を出す事は出来ないが、ある程度の炎を出して、妖怪を燃やす事は可能だ。

 ハナは藤虎と煉と一緒に、馬に群がっていた妖怪を一掃する。二人は、ふう、とやっと息つく事が出来た。

「ハナ様。助かりました」

「わりぃ。俺が守られちまった」

 煉は悔しそうに、馬の背からハナを見る。ハナははっとした。煉の肩に大きな傷があり、体中も傷だらけだ。そして、車輪の所がキラリと光った。

「鏡! 竜杏、鏡を外したの!?」

「俺を守る為に……」

 煉がしゅんとしている。煉の体を見れば、竜杏が鏡を渡すほどの大ケガだったのだと、想像する事は簡単だった。


「藤虎さーん!」

 遠くから、タエが声をかけてきた。皆が振り向く。

「渡した紐、持ってますか?」

 タエと幸成が走って来たのだ。藤虎は幸成の姿を見て少し驚いたが、強力な助っ人だと悟り、礼をする。

「あの紐は、保昌に渡しました」

 上手く使うようにと手渡したが、戦闘の混乱で使えるはずもなく、そのままだった。

「保昌……あっ、こっちに来てる! 私が取りに行くわ!」

 俊敏性の高いハナが、保昌へ一直線に走って行く。

「タエ様、俺は先に行きます」

「幸成さん。お願いします!」

 幸成が、妖怪が密集している所へ飛び込んで行く。その中心に、竜杏と綱がいる。幸成が妖怪の中へ入ると、妖怪が一部吹き飛んだ。


「私も竜杏の所へ行きます。藤虎さんは煉ちゃん達をお願いします」

「分かりました」

「俺はまだ戦える! 俺も――っつ」

 煉が声を上げた。しかし、肩の傷に響いたらしく、痛みに顔を歪ませた。タエは煉の頭をなでる。

「今は傷を治すのが先やよ。煉ちゃんは、十分戦ってくれた。ありがとう」

「……」

 煉の悔しそうな顔を見て、ぽんと頭をなでると、タエは道満の鬼の位置を確認した。この鬼は、先に倒した鬼と比べて、あまり知能がある方ではなさそうだ。知能があれば、タエ達が追いつく間もなく竜杏の所へ行き、目的を達成していただろう。それが救いだった。今は、平原の隅の影からにゅっと体を出し、腕をぶらぶらさせている。

「あいつを捕まえられれば。あと少しで太陽が出ます。がんばって!」

 藤虎と煉に声をかけ、タエは妖怪を後ろから薙ぎ払う。人間の戦なら、背中を狙うなど卑怯だと言われるかもしれないが、今はそんな事関係ない。倒せば勝ちなのだ。



「保昌! 神様の紐を頂戴!」

 妖怪を倒しながら、ハナはこちらへ向かってくる保昌の元へ到着する。共に走りながら、保昌は鎧の中をごそごそすると、巾着を取り出した。

「この中です」

「ありがとう!」

 口に咥えると、タエの所へ向かった。その後ろ姿を見て、保昌は正直な感想を漏らす。

「速い……。いいなぁ」

 ガシャガシャと音を立てながら、保昌も必死に走っていた。


「お姉ちゃん、コレ!」

「ありがとう」

 巾着を投げ、タエが受け取る。紐を取り出し、見れば、やはり細い。そして、あの鬼を捕えるには短かった。

「足一本縛るくらいしか出来ないな。もっと太くて長かったらいいのに」

 ぽつりと呟くと、その紐は太い縄になり、長くなった。

「思った通りになってくれんの!? 良かった! ハナさん!」

 タエは走って来るハナに縄の端を投げた。ぱくっと口に咥えたハナは、タエの意図を理解して、縄をぴんと張り、群れている場所の外側を走る。

「いっくぞー!」

 タエも縄の端を持ち、ハナとの距離は約十メートル。縄を地面から五十センチほどの高さに持って来ると、ハナと一緒に一気に駆け抜けた。


「ぐおっ」

「なあ!?」

「ぎゃあ」


「竜杏達、飛んで!」

「!?」

 竜杏と綱は、妖怪達がいる中心にいて、背中合わせになりながら目の前の相手を斬り伏せていた。幸成も加わり妖怪の一部を叩き飛ばしたので、妖怪は警戒して距離を取る。

 すると、妖怪の叫び声が前方の外側から聞こえてきた。そして次々と後ろに倒れているのだ。何が起こっているのか分からず、三人は顔を見合わせた。そこにタエの声が聞こえる。

 幸成が、一番に気配で気付いた。

「下から縄が!」

「え?」

 双子がハミング。幸成の言った通り、ちょうどすねが当たる部分に張られた縄が見えたのだ。それは物凄いスピードでこちらに向かってくる。

「ぉわっ!」

 幸成は軽々と、竜杏と綱は縄を飛び越すようにジャンプした。若干よろける。その縄は、三人を通り過ぎると、勢いを弱める事無く、彼らの後ろにいる妖怪達の足に引っ掛け、引き倒していく。

「あれ、タエとハナ殿が?」

 竜杏が呆然としていると、幸成が声を上げた。

「今の内に、倒せるだけ倒しましょう!」

 妖怪が体勢を崩している今がチャンス。幸成は上体が低くなっている妖怪達へ真っ直ぐ進み、頭を叩き割った。

「確かに、武士道など言ってられない」

 綱もそれに続く。刀を横に振ると、妖怪の首が飛ぶ。竜杏もぐっと足を踏みしめ、同じく妖怪の首をねた。

 悲鳴が響き、逃げ出す妖怪が出る。しかし、竜杏達から背を向ければ、砂壺達が待っていた。逃げられる者は、いない。内と外から攻められ、闇の妖怪達は塵に還るしかなかった。


「妖怪達がバラバラになりだした!」

「さすがと言うか、何と言うか」

 よっしゃと拳を握るタエの隣で、ハナは苦笑していた。まだ互いに縄は持ったままだ。

「縄で足を払って妖怪の足並みを乱すなんて、よく考えたね」

「映画の戦闘シーンで、こういうのやってたんだ」

 周りを見回す。あの道満の鬼は、姿を消している。どこにもいない。

「あの鬼が現れたら、この縄で動きを封じる。竜杏の側に出たら妖怪が邪魔だったから、丁度よかった」


 ず……。


 黒い気配。タエとハナは縄を握りしめる。

「来た!」

 何度目かの移動で、ようやく竜杏の近くに移動してきた道満の鬼。竜杏と綱は、いきなり現れた事と、鬼の大きさに、驚いてただ見上げる事しか出来ない。

「道満の……鬼」

 竜杏をじっと見つめる鬼と、目が合った。その瞳の奥は、ただ混沌としていて、真っ暗だ。その闇に吸い込まれそうになる。

 鬼は、がばりと大きな口を開け、竜杏へ手を伸ばし、身を屈める。


「誰の夫に手ぇ出してんじゃああぁぁぁ!!」


 竜杏を飛び越え、タエとハナが突っ込んで来た。縄を空中で鬼の首に引っ掛け、ぐるりと巻き付ける。そして、勢いのままに後ろへと力の限り引っ張ると、鬼の巨体はのけ反った。

「捕まえた!」

 ぐぐ、と縄を引き寄せる。ハナも必死に引っ張っていた。

「タエ、ハナ殿!」

 竜杏が二人を呼んだ。鬼の目を見て動けなくなっていた自分に気付き、ぞっとする。タエの声で我に返れたのだ。

「幸成さんっ。お願いします!!」

 タエが頼むと、幸成は迷う事なく高くジャンプした。

「核は、頭だ!」

 幸成の手が、鬼の眉間に触れる寸前、ばくんと音がした。


「え……?」


 時間が止まったかのように静まり返る。キーンと耳鳴りがして、耳の奥や頭が痛くなった。タエは、痛む頭を振って紛らわせ振り返った。何が起きたのか、鬼の背中側にいたのでよく見えなかったが、鬼の肩の辺りで、幸成の体がぐらりと揺れるのを捉える。


 幸成が落ちて来た。右腕の肘から先が、ない。


「っぐ……!」

「幸成ぃ!!」

 竜杏が叫んだ。タエとハナも、彼に起きた事を理解した。先ほどの音は、鬼が幸成の腕を喰らった音だったのだ。強く俊敏な彼が反応出来ない程の速度で、鬼は動いたことになる。

「幸成さ――!?」

 タエも彼の名を呼ぼうとした。が、出来なかった。物凄い力で、逆に引っ張られたのだ。鬼は、タエとハナが持っている縄を手に持ち、ぐいっと引っ張ると、そのまま体を回転させる。

「うそでしょー!」

「お姉ちゃん、縄を離して!」

「わわ、分かってる!!」


「なっ!」

 風が巻き起こり、綱は刀を地面に突き刺して飛ばされるのを耐えていた。竜杏は、迷わず幸成の所へ走って行く。竜巻のような風に、吹き飛ばされる妖怪達。

「幸成!!」

 竜杏が幸成の右側から、傷に触らぬよう肩に手を回し、その場から離れようとするが、風の流れに呑まれそうになる。

「竜っ、行くぞ!」

 綱も駆け付け、幸成の左腕を掴んで退避しようとした。しかし、風の勢いは強くなるばかり。平原にいた者達は、鬼が作り出した大嵐に巻き込まれる。




 佐吉が夢に見た光景が、とうとう現実のものとなってしまった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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