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月夜の代行者  作者: うた
第三章
188/330

184 集合

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

「綱、なんでここに!?」


 いきなり妖怪をかき分け、綱が現れたので、竜杏は若干パニックを起こしかけていた。

「なんでって、来ようと思ったから」

「軽い……」

 話しながらも妖怪を斬る綱。さすが頼光四天王の筆頭。その強さは折り紙付きだ。乗って来た馬は、しっかり後ろに引き入れ守る。煉を抱っこする竜杏は呆れていた。そこにタエも駆け付け、目を丸くした。

「竜杏が二人!?」

「綱が屋敷を抜け出して来たんだよ」

「えぇ!?」

 驚くタエに、竜杏は頭を抱えていた。

「屋敷は大騒ぎしてるんじゃない?」

「だろうね」

 綱は全く気にしていない様子。

「兵士の一人と交渉して譲ってもらったの」

「交渉? 拉致したんじゃないの?」

「人聞き悪いな。ちょっと脅して、兵の編成を聞いただけだ。奉公人と一緒に縄で繋いである」

 綱が隔離されていた部屋で、二人が縄でグルグル巻きになっている様子が、ありありと思い浮かんだ。

「可哀想に……」

「ちゃんと帰れば問題ないでしょ」

「さすが綱様」

 三人が話しながら、刀を振るう。会話の外では、妖怪達の断末魔の声が響いていた。すると、そこに綱を追って来た藤虎が馬で駆けて来て、また目玉が飛び出んほどに驚いた。

「おいっ! 隊を抜けるなど――おおぉ、御館様が二人ぃ!?」

「藤虎、綱だよ」

「つつつ、綱様ぁ!?」

「やあ」

 綱は、この状況で爽やかな笑顔を見せた。彼の強さ、器の大きさが分かる。彼は柔らかい笑みを浮かべていたが、すっと目つきを変えた。

「今回の敵は人じゃない。俺達がいても、奴らは気にしないだろ? 今は兵も離れてる。だから俺は来たかったんだ」

 彼は獲物である刀を握り直した。妖怪に突き付ける。



「俺は、ずっとお前と並んで、共に戦いたかった」



「綱……」

 竜杏は綱の言葉に胸が熱くなった。そして、少し照れた。

「嬉しいか?」

 にやりと笑う兄。弟は、眉を寄せていたが、照れ隠しにしか見えない。

「別に。俺も、そう思ってたし……」

 タエは二人のやり取りを見て、目頭が熱くなったが、目の前の妖怪を一刀両断した。

「竜杏! 良かったね」

「まぁね」

「聞いてたタエの“キレイな姿”も、やっと見られて満足だよ」

「う……」

 綱はタエを見て、微笑みかけた。彼は上機嫌だ。そのイケメンスマイルを見てしまったタエは、少しドキリとしてしまう。

「ちょっと、人の奥さんに色目使うの、やめてくれる?」

 竜杏は、釘を刺すように綱をねめつけた。

「可愛い義妹ぎまいなんだから、しょうがないだろ」


 いたって平和な会話をしているが、周りは妖怪に囲まれている。一定の距離を保って竜杏達の出方を見ている様子だ。凶悪な顔をした者ばかりが、彼らを睨んでいる。


「はぁ。まぁいいや。綱も藤虎も、来てくれて感謝する」

「はっ」

 藤虎は綱が乗って来た馬の手綱も握っていた。竜杏は抱いていた煉を馬に乗せる。

「まだ干渉を解かないで。傷が深い。ここでじっとしてるんだ」

「でも――」

「失いたくないから。いいね」

 竜杏は、自分の胸に着けていた御神体の鏡を外すと、煉に差し出した。

「! ダメだ、竜杏。これはあんたが持ってないと!!」

 煉は受け取ろうとしない。タエも驚いた表情を見せたが、深く息を吐いて気持ちを落ち着けた。

 煉がそう言う事は分かっていたので、竜杏は鏡を煉の車輪に括り付けた。短い腕の煉は届かない。

「おいっ、竜杏!」

「今は煉が危険だろ。俺は大丈夫。藤虎、煉と馬を頼む」

「分かりました……」

 藤虎も、竜杏が鏡を手放した事を心配したが、主の判断を尊重した。それを見ていた綱。

「大事な物か?」

「ああ。貴船神社の御神体だ。持っていれば、基本妖怪は近付いて来ない」

「……良いんだな?」

 竜杏は頷いた。

「ああ。俺には、頼光四天王の綱がいるからね。タエ、ここは大丈夫だから、幸成の所へ行って。道満の鬼を頼む」

 ちゃんと周りを見ている竜杏。幸成は、二体の鬼を相手にしている。一人では対処が難しい。

「分かった。皆さん、気を付けて!」

 タエは後ろ髪を引かれる思いだったが、状況を打破する事が先決だ。一刻も早く道満の鬼を仕留め、竜杏の所に戻る。タエは、行く手を塞ぐ妖怪達をなぎ倒し、一匹でも彼らの負担を減らそうと、晶華を閃かせた。

「じゃ、やるか」

「ああ」

 綱がにやりと笑った。竜杏も、同じ笑みを浮かべる。二人は気持ちが高ぶり、緊張感がある中にもかかわらず、わくわくしていた。二人で並んでいる事が、嬉しくてしょうがないのだ。

「一匹残らず殲滅する!」





「まったく、どれだけいんのよ!」

 ハナはイライラしながら、兵達の周りに群がって来る妖怪を切り裂いて回っていた。森への道は開いたが、次は兵士と村人を喰らおうと妖怪が押し寄せ、ハナは対応に追われていたのだ。矢も底を尽き、槍と刀で応戦しているが、彼らにも限界がある。


 どどど……。


「今度は何!?」

 せっかく開いた平原の出口に、大量の妖気が近付いて来る気配がしたのだ。ハナが警戒していると、黒い瘴気が流れ込んで来る。新手かと、ハナは毛を逆立てた。


「よっしゃあ! 間に合ったかぁ!?」


「え、え!?」

 黒い瘴気の中から出てきたのは、見知った顔ばかり。

「野槌、砂壺、皆ぁ!!」

 ハナは笑顔になって叫んだ。

 都へ続く出口が騒がしいと気付いたタエや竜杏達も、そちらを見る。妖怪共も、なんだとざわついた。

「暗くて助かったわ」

「言ったろ、砂壺? 瘴気に乗れば、高速移動できるって」

 野槌は得意気に話している。

「行くぞ皆っ! 闇で強くなるのは、俺達も同じ。邪魔な妖怪をぶっ倒せ!!」

「おおっ!」

 竜杏の屋敷に町の人々を避難させた後、平原に向かった彼らは、妖怪の特性を生かし、瘴気の中を凄まじい速さで移動して来たのだった。目の前の凶悪な妖怪を手にかけていく。



「おうおう、俺も忘れんなよ!!」


「えっ」

「へぇ」

 こちらから目を逸らした妖怪をばっさり斬って、同じ方向を見る双子。竜杏は目を瞠り、綱は感心したような声を出した。


「俺の相手は、まだ残ってるだろうな?」


 馬を全力で駆り、長い槍を構える大きな体。真っ直ぐ突き進んで来るその目は、ギラギラと輝いていた。


「まさか本当に来るなんて。貞光さん!」


 竜杏がその名を呼んだ。

「当ったり前だろ。俺は、言った事は守る男だ!!」



「本当に、来てくれた……」

 ハナは驚きつつも、嬉しくて鳥肌が立つ。犬だが。


「皆が、集まった……」

 タエは目をこする。嬉しくて、感極まってしまった。竜杏の為に、人と妖怪が垣根を越えて共に戦ってくれる。これほどの奇跡はない。




 視界は少しずつ明るさを取り戻してくる。皆既日食の状態が解けてきたのだ。太陽の光がわずかだが地上に届き、煉の炎がなくても相手が見えるようになっていた。だからこそ、竜杏を喰らおうと、妖怪達は躍起になる。


 最後の正念場だ。


読んでいただき、ありがとうございました!

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