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月夜の代行者  作者: うた
第三章
187/330

183 強力な助っ人

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

 岩場の妖怪の数が減り、兵力に余裕が出た。一人の兵が、遠く離れていく竜杏の姿を捉え、走り出す。

「綱殿の援護に行きます!」

「えぇ!?」

 その兵は、保昌の馬を勝手に乗り、進行を邪魔する妖怪を斬りつけていく。

「俺の馬っ」

「私が追う。保昌殿はここを頼む!」

 藤虎も馬に乗り、兵の後を追いかけた。



「幸成!」

 驚くタエと側に立つ幸成の所へ、竜杏も駆け付けた。ハナも遠くにいたが、彼を見てびっくりしていた。

 妖怪がタエ達の周りを囲む。タエの神の気配、竜杏が持つ御神体の鏡、幸成の強力な鬼気に、煉の炎を警戒して、うかつに近付けないようだ。タエ達は妖怪と向かい合いながら、話を進める。

「千草の所にいなくていいのか?」

 竜杏が問うた。

「はい。千草は、住んでいた山の麓の村に嫁ぎました」

「え!?」

 タエと竜杏が声を上げる。

「心優しい青年で、娘が半妖だと知っても、気にせず幸せにすると言ってくれました。ここへ来るのも、娘は納得してくれていま――!」

 幸成の言葉が途切れた。竜杏が、幸成をハグしたのだ。鎧が当たり、ガシャンと音がした。

「お、御館様……?」

「ありがとう。心強いよ」

 幸成は、竜杏の背をぽんとなで、笑った。

「これが私達の、恩返しです」

 タエも感謝の気持ちでいっぱいだった。

(送り出すのも、辛かったはず。千草さんも、ありがとう……)

 全員が構えた。彼らの瞳には、数で敵わなくとも、決して負けず諦めないという強い光が宿っていた。

「太陽が出るまであと少し。皆、頼んだ!」

「おおっ」

 竜杏の言葉に、皆が答えた。




「龍登滝!」

 道満の鬼を一匹倒し、都へ続く森の道に群がる妖怪を、水龍が一掃した。道が開ける。

「今の内に、行って!」

 ハナが兵達に声を上げた。保昌が頷く。

「全員、平原を抜けるぞ!」

 村人を中心に、防御の陣形のまま移動を始めた。極度の緊張感に、全員の心は疲弊している。

「なんで……、なんで俺たちがこんな目に……」

 壮六はぼそりと呟いた。必死に逃げて来たのに、妖怪との戦の真ん中に出てしまったのだ。兵士として訓練を積んでいない普通の人間には、当然の気持ちだった。


「確かに、ここに妖怪がいなければ、とっくに逃げられたのになぁ……」


「っだ、誰だ!?」

 壮六は周りを見回したが、誰も自分に話しかけている様子はない。鎧や武器が当たる音、足音、息遣いが聞こえるだけだ。

「空耳?」


「死霊もいなければ、村が襲われる事もなかったのに……」


 確かに声がした。壮六に語り掛けている。彼は耳を澄ました。



「ちっ、また邪魔する!」

 ハナが悪態をついた。妖怪を一掃して道を開いたのに、また別の妖怪が道の前に立ち塞がってきたのだ。兵達はこちらへ向かっている。彼らを立ち止まらせず進ませる為に、ハナは爪と尻尾をもっと大きくした。




「おらおらおらぁっ!!」

「っぐ!」

 竜杏の側にいた煉が狙われた。彼をどうにかしなければ、竜杏に辿り着けないと思った妖怪達は、執拗に煉に攻撃を繰り出す。炎が追いつかなくなった煉は、妖怪の爪で肩を裂かれた。

「煉!」

 引き離された竜杏が、煉を助けに馬で向かって行く。妖怪は馬に噛み付き、引き倒す。受け身を取って着地をした竜杏。馬は妖怪に群がられ、可哀想だが奴らの餌になってしまった。

「今までありがとう。すまない!」

 馬に感謝の念を抱きながら、竜杏は煉の周りにいる妖怪を斬りつけていく。

「竜杏!」

(皆、自分の事で手一杯……。もっと、もっと私が動けたら。強かったら!)

 タエは幸成と共に道満の鬼の相手をしていた。今のタエに、竜杏を助けに行く余裕はない。心の中は、焦りが募る。

「核が見えた!」

 幸成が腕を鬼の背中にめり込ませた。彼の鬼の目は、タエの目には見えない、瘴気の奥を見る事が出来る。闇の者だからこそ、闇の中が見えた。鬼の核とは道満の呪符。タエを助けた時も、その呪符を体から抜き出し、握り潰したのだ。

 苦しみもがく鬼が、幸成を掴んで離す事がないように、タエが鬼の気を引き、攻撃を受け止める。この鬼には、両手の平に口があった。歪な体だ。間違えて掴まれた妖怪は、手の口であっという間に噛み砕かれ、ごくりと飲み込まれてしまった。

 肩まで鬼の体に腕を差し込んだ幸成。核を掴んだ瞬間、鬼の体がびくんと跳ね、硬直する。すぐに引き抜くと、拳よりも大きな黒い塊が、心臓のようにどくんと鼓動していた。


 ぐしゅっ


 幸成が力を籠めて握りしめると、核は黒い液体を吹き出しながら破裂した。すると、鬼の体も崩れ、塵に還る。

「あと二体。タエ様は御館様を!」

「はい。後で行きます!」

 幸成が先に鬼の元へ走って行く。タエは竜杏の所へ急いだ。


 竜杏は、煉を助けようと斬り進んでいた。鏡の力で怯んだ妖怪をひたすら斬って行く。

「煉!」

 必死に手を伸ばし、左腕で煉を抱きかかえる。彼は炎を体に纏わせ、その熱で妖怪の爪と牙を必死に溶かしていた。それでも傷を負い、体中から血を流している。竜杏の顔を見ると安心して、へらりと笑った。

「すまね……」

「十分守ってもらった。休んでいろ」

 右手で刀を持つ。片腕での攻撃力は、いくら鍛えても両腕の時より落ちてしまう。竜杏が仕留めやすくなったと判断した妖怪達は、にやりと不気味でいやらしい表情を見せながら、一斉に襲い掛かった。


「竜杏! 出て水龍。龍登滝!!」

 まだ彼まで少し距離がある。一気に進む為に、タエは水龍を呼び出そうとした。

 が。


 がくんっ!


「!?」

 いきなり、体の力が抜ける感覚に陥った。膝に力が入らず、立ち止まってしまう。

「代行者、死ねぇ!」

 タエの異変に気付いた妖怪が一匹飛び掛かってきたので、タエは晶華で首を斬った。体力がなくなったわけではない。刀で戦う事は出来るが、術が使えない。

「龍聖浄!」

 結界が出ない。タエは目の前が真っ暗になる思いだった。しかし、立ち止まってはいられない。竜杏と煉がいる所へ、タエは斬り進んでいく。

(何で術が出ないの!? 力を使い過ぎた? 叉濁丸と戦った時の方が、龍聖浄を何度も使ったのに――)

 一つの可能性に気付く。今までの戦いと違う所があった。

「龍登滝か……」

 ハナが何度も水龍を出すのは、力のコントロールをしているからだ。龍聖浄を使う時に力の制御など考えた事がなかったタエ。いつも全力だ。今になって恐ろしい事をしていたと気付く。力の配分を考えないと、こうなると思い知ったのだ。

 タエが出した水龍は暴れ龍だった。全力の力で呼び出した影響だろう。思い切りタエのエネルギーを喰らっていたのだ。力の塊である水龍を呼び出す方が、龍聖浄よりも難しい技だったらしい。


「だったら、斬りまくってやる!!」


 スピードを上げて妖怪の間をかいくぐる。タエが通った後は、妖怪が血しぶきを上げて倒れていた。

 竜杏が見えた。

「り――」

 タエが呼ぼうとした時、全く違う方向から、馬が思い切り突っ込んで来た。

「なっ!?」

 竜杏も驚いている。馬が妖怪とぶつかったはずみで、乗っていた人物の体がふわりと浮いた。

 兵士の恰好をしている。彼は手綱を離し、体を捻ると間合いに入った妖怪を三体一度に斬り伏せた。竜杏の側に着地し、妖怪へ攻撃の構えを見せる。

「あ、あんたは――?」

 これほど強い兵がいただろうかと、訓練場での様子を思い出す。しかし、当てはまる者はいない。


「ちょっと。この声、忘れたとは言わせないよ」


 その人物は、深くかぶっていた下級武士用の兜を取った。その顔を見て、竜杏はこれ以上にないまでの驚きの表情を見せた。



「つ、綱――!?」



 屋敷に隔離されていたはずの、綱本人がそこにいた。


読んでいただき、ありがとうございました!

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