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月夜の代行者  作者: うた
第三章
179/330

175 出陣

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

「神水はかけたか?」

「こっちまだです!」

 神水の小瓶を順番に回し、刀と矢にかけていく。竜杏と藤虎は、それを見つめていた。

「藤虎、手紙はちゃんと渡せた?」

「今、急ぎ向かっている所です。信頼できる者に頼みました故、必ず届くでしょう」

「それなら良い」

 竜杏は、小さく頷いた。

「綱殿。準備が出来次第、号令を」

「ああ」

 藤原保昌が竜杏達の所へやってきた。彼も副官として大鎧を身に付けているので、大きな体がもっと大きく見えた。一礼をする。

「綱殿、藤虎殿。ありがとうございました」

 小瓶を返しに来たのだ。それを竜杏は受け取り、巾着の中に入れる。そして紐を取り出した。保昌に差し出す。彼は首を捻った。

「細い紐ですが、これは?」

「妖怪を捕らえられる紐だ。絶対にちぎれない。保昌に渡しておく。上手く使ってくれ」

「これも、タエ殿の道具でしょうか?」

「ああ。すごいよな。暴走した鬼ですら、この紐を切る事は出来なかったんだ」

 幸成の事を思い出した。タエと初めて共闘した時だ。

「承知しました。して、タエ殿は?」

「自分のやるべき事をしに行った。戦場で落ち合うよ」

「お、女子が戦場に!?」

 びっくりする保昌を見て、竜杏と藤虎は、くすりと笑った。

「ああ。俺達と一緒に戦ってくれる神の使いだ」

「は、あ……」

 竜杏は真実を口にしたが、保昌は首を捻るばかりだった。兵達の準備も整い、整列する。後ろには父の宛が彼らを見ていた。


 竜杏、藤虎、保昌は馬に乗る。そこで藤虎が気付いた。

「御館様、指輪はどうされたのですか?」

 竜杏の左手薬指に、婚姻の証である指輪がなかったのだ。

「タエに預けてある。傷付いたら嫌だしね」

「なるほど」

 竜杏は一同を見た。宛の視線は、視界の片隅に捉えるだけにした。


「皆! 心の準備は良いか。此度の敵は死霊、妖怪だ。この京を守る為に、尽力せよ。 出陣!」

「おおっ!」

 竜杏を先頭に、兵が歩みを始める。目指すは、あの平原。



「り――じゃなかった。綱!」

「わっ!」

 屋敷を後にすると、ハナと煉がすぐに合流した。兵達の中にいると、彼らは妖怪が見えるだけに大騒ぎになると思ったのだ。案の定、保昌をはじめ兵達は一気に警戒の色を見せた。

「心配いらない。俺の家族だ」

 竜杏と藤虎の間を同じスピードで歩くハナに、竜杏の肩に乗る煉。馬達も全く恐れていない。ずっと同じ屋敷で暮らしてきたからだ。

「か、家族……」

「一緒に戦ってくれる。白い犬がハナ。貴船の神の使いだ。こっちが煉。炎を操る。頼もしいよ」

「よろしく!」

 ハナと煉が保昌達に、にっと笑った。「しゃべったあぁ!!」と一同騒然となったのは、言わずもがな。



 ハナや御神体の鏡のおかげか、平原に到着するまで、妖怪が襲ってくる事はなかった。むしろ、全く見かけなかったのが、とても不思議に思えた。

 広く開けた場所。草が茂っていたが、土が見え、草がひっくり返っていたのは、タエ達が皆で掘り返したからだ。足を取られないように、土を踏み固めていたが、少し違和感のある光景だった。

「明るい時に見ると、俺達、凄い事をしたんだね」

 竜杏がぽつりと呟いた。藤虎も感心していた。

「平原中、掘ったもんね」

 ハナが苦笑する。しかし、おかげで呪符をほぼ全て見つけられたはずだ。まだ残っていたとしても、数体なら余裕で対応できる。



 どおおぉぉんっ!!



 平原の先にある森から爆発音が響いた。大きく土煙が上がり、兵達は騒然となる。

「なんだ!?」

「敵かっ」

「綱殿」

 保昌も少し不安そうに竜杏を見たが、彼は全く動じていない。

「あぁ、大丈夫。あれは――」

 言う前に、その人物が脅威の跳躍で飛んで来た。着地すると、ざざざっと土を掘った。

「うちの管轄に入ったから、とりあえず吹っ飛ばしたよ!」

「タエ」

 竜杏の表情が柔らかくなる。タエがにっと笑った。彼女の代行者の姿を見て、保昌や兵達は目を丸くしていた。

「タエ殿……。その姿は」

「私の戦闘服です。私も一緒に戦います!」

 透明の刀身をびゅっと振り、汚れを落とす。美しい刀に見惚れる者もいる。

「本当に……?」

「タエはそこらの女とは違うんだよ」

 竜杏は、どことなく自慢げだ。タエは竜杏に現状を報告する。

「死霊の軍勢は、ざっと見て百以上はいるね。さっき私が半分以上吹っ飛ばしたけど、どんどん湧いてくる。奴らの中に大将がいるみたい」

「大将?」

 頷くタエ。藤虎、保昌達もじっと聞いている。

「一人、大きい体の死霊がいるの。そいつを斬ろうとしたら、周りの奴らが必死に守ってきた。分厚い壁になってたから、刀が届かなかった。だから周りを蹴散らしたけど、もう軍の人数は戻ってるかも。増えてるかもしれない」

「その大将を倒さないと、死霊は消えないってわけか」

「そういう事やね。あと、森の中で妖怪がたくさんこっちを見てる。話し合える奴らじゃなさそう。襲う隙を伺ってる」

 タエの話に、兵達は不安の色を浮かべていた。真正面から妖怪と向かい合う戦いが初めてなので、いつもの調子が出ないのだ。


「それともう一つ。死霊の軍行のせいで、村から逃げた人達があの森を抜けようとしてる。その内の何人かが、こっちに向かって来てる」


「村人が?」

 竜杏が片眉を上げた。目の前の平原を注意して見ていると、森から影が出てくるのが見えた。


読んでいただき、ありがとうございました!

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