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月夜の代行者  作者: うた
第三章
175/330

171 妖怪達の気持ち

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「まだ力が戻らない!?」


 もう太陽が傾き、空が赤く染まる。竜杏とタエも屋敷に戻ってきており、都の各地で騒ぎが起きていた事は、気配で察していた。晴明とハナ達の事なので、とっくに解決しているものだと思っていたが、縁側で話を聞き、二人は驚いていた。


「封印していた四神の球は、全部壊したんでしょ?」

 竜杏の言葉に、ハナは頷いた。煉や野槌達妖怪も、すぐ側で疲れて休んでいる。精霊達も封印の石を破壊して、労をねぎらい、もう住処に戻っていた。

「うん。あの後、皆でもう一度球が割れてるのを確認しに行って、晴明殿も間違いないって。今日は、皆疲労もあるから、先に屋敷に帰っていいって言われて」

「で、晴明さんは?」

 タエが先を促した。煉はチリチリになっている髪の毛をいじっていた。

「気になる事があるから、街を歩いてくるって」

「気になる事?」

 タエが首を捻る。竜杏は、うむ、と考え、口を開く。

「ねぇ。四神て、五行の力を持ってるんだよね?」

「そう。だから、奴らの弱点の属性を持つ私達が、それぞれ割り振られたの」

 晴明の指示は的確だった。確実に仕留められる属性をぶつけたのだ。おかげで混乱も少なく、倒す事が出来たのだった。

「だったら、あと一つ力が残ってるんじゃ?」

 タエもようやく気が付いた。

「ほんとだ。えーっと、どの属性?」

「土よ」

 ハナが答えた。タエは、あはは、と笑って誤魔化している。

「きっと、晴明殿はその土の属性の封印を探しに行ったんだと思う。四神は東西南北。あとの一つは“中央”だから」

「中央……。それで街か」

「ええ」

 竜杏も、五行相剋について、しっかりと身に付けている。タエは行き当たりばったりの出たとこ勝負な所があるので、もっと勉強しなくてはと、密かに思った。

「中央の獣は、確か麒麟きりんだったね」

 竜杏の言葉に、ハナの目が丸くなった。

「よく覚えてたね。私、たぶん一回しか言ってないと思うのに。しかも軽く流した話で。お姉ちゃんは、すっかり忘れてたでしょ」

「あっははー」

「笑って誤魔化さないの」

「もう忘れません!」

 はぁ。ハナがため息をつく。そんなハナと、苦笑するタエを見て、竜杏がくすりと笑った。

「俺は、勉学と剣術しかしてこなかったから。覚えるのは得意なんだよ。それだけ」

「それがすごいよ」

 タエが渋い顔をして言った。竜杏と同じ頭脳を持っていたら、テストも赤点ギリギリなど取らなくてすむのに。むしろ試験勉強すらしなくてもいけるのでは? と思ったりしていた。


「話を戻すよ。きっと封印の球はあと一つ残ってるとみていいわね。晴明殿が見つけていればいいけど。じゃなきゃ、帝を守れない。道満の思うツボよ」

「竜杏が出陣したら、私達も行くもんね。悪い妖怪が出たら、京を守りきれない」

「高様の式様達も手伝ってくれるけど、守れる手は、多い方が良いわ」

 皆が頷き合う。

「今日はもう遅いから、明日、晴明の所に行こうと思う。皆、一緒に来てくれる?」

「もちろん!」

 タエ、ハナ、煉が元気に答えた。




 夜。今夜は、先に全員で竜杏を狙う鬼の呪符を探す事にした。野槌達も一緒に捜索に加わった。妖怪が暴れたら困るので、しばらくしたらハナが都に戻り、妖怪を殲滅していく段取りだ。

「出陣が早まるかもしれないって、言ってたよね?」

 ハナが問うた。竜杏が頷く。

「ああ。落ち武者は、昼夜問わず歩けるからな」

 もう探す場所は土の中だけ。皆で土を掘りながら、呪符を見つけていく。まだ落ち武者の位置は、ここまで距離があるらしく、タエ達の管轄外。先に攻める事は出来なかった。

「あった。まったく……道満は、どれだけ呪符を隠してるんだ?」

 正直、うんざりしていた。ハナ達も、いい加減にしてくれと叫びたい気分だ。煉に呪符を渡すと、ぼっと勢いよく炎が上がり、瞬時に呪符は灰になった。

「急ごう。出陣が早まれば、もう探せない」

 皆が確認し合い、手を動かし続ける。竜杏は、その光景を見て、ただ感謝しかなかった。


「ありがとう」


 側にいたハナや妖怪達は竜杏を見た。土を掘り返して、皆、体中が汚れている。

「俺が鬼に喰われたら、京は終わりだから。晴明の事も。力を貸してくれて、ありがとう」


「勘違いしたら困るよ。御館様」


 緑の肌の小鬼が、見つけた呪符で竜杏を差した。

「俺達が呪符を探したり、戦ったりすんのは、京の為でも、陰陽師の為でもないよ」

「え?」

 竜杏は小鬼を見つめた。


「皆、御館様が好きだから。御館様の為に、動いてんだ」


「……」

 竜杏は、周りを見回した。誰もが彼を温かい眼差しで見つめている。月明りと妖怪達の炎があるので、皆の顔がはっきり見えた。

「俺、の――?」

「ああ!」

 小鬼が照れたように笑う。

「御館様、代行者になるんだろ? それなら、この土地は安泰だ。困った事があれば、俺達に相談してよ。力になるからさ」

「……っ」

 胸が詰まる思いだった。ずっと苦しめられてきた妖怪という存在。嫌いだった。敵だった。

 それが今、自分の周りに集まってくれ、自分の為に体を泥だらけにしてくれている。


「良かったね、竜杏」


 タエとハナは笑っていた。

(ああ、そうだ……。二人が、俺を変えてくれた……)

 千草を助ける為に、タエと初めて意見がぶつかった。あの時は最初、理解できなかったが、タエとハナが妖怪に対等に接している姿を見て、今まで自分が見て来た世界と違う事に気付いたのだった。いつも近寄って来るのは、邪悪な妖怪ばかり。真っ黒の瘴気を発して、暴走していた幸成ですら救ってみせたのだ。その衝撃は、相当なものだった。

 それから煉を助け、妖怪達のケガを治療するようになり、用がなくても屋敷に彼らが来るようになった。再び妖怪屋敷になってしまったが、空気は澄んだまま。共に遊んだり、和やかな雰囲気は、竜杏も心地が良かった。


「大丈夫やよ。竜杏は、一人じゃない」

 砂にまみれた手で、タエは竜杏の手を握った。竜杏も握り返す。

「ああ。ありがたいな」

 表情を和らげ、妖怪達を見た。

「ありがとう。これからも、よろしく頼むよ」

「ああ!」

 彼らとも絆が出来た。代行者となる竜杏を、支えてくれる者がたくさんいて、タエとハナも嬉しくて涙が滲んだ。

「それじゃあ、私は都に戻るね」

「うん。よろしく!」

「気を付けて」

 タエと竜杏、そして多くの仲間達に見送られ、ハナは邪悪な妖怪退治へと向かった。



 必死に呪符を探す竜杏達。黒い足音は、徐々に、そして確実に近付いて来ていた。


読んでいただき、ありがとうございました!

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