168 力封じの石
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竜杏とタエが、渡辺家に行っていた頃。
「晴明殿」
「あれか」
鬼門付近に群がる妖怪を倒し、ハナ、晴明、煉と精霊妖怪達は力封じの術の石の前にいた。不自然に四角い石が瘴気を纏っている。
「あれを割れば! 龍爪!」
ハナが爪を強化して石を割ろうとすると、纏う瘴気が人の形を成し、ハナに襲い掛かる。
「瘴気は実体がないぞ。ハナ殿」
「瘴気全てを呑み込めば。龍登滝!」
ハナの水龍が瘴気を喰らう。術が籠められた石はボロボロと崩れ、案外あっさりと消し去る事が出来た。石に辿り着くまでに妖怪と戦った方が疲れたくらいだ。
「やけに簡単だな」
晴明も訝しんでいる。それはハナも同じだった。
「とにかく石は壊した。力は戻ってる?」
ハナが問う。晴明は札を出して念じてみた。
「……だめだ。式を呼べん」
石を破壊しても、まだ力が戻らない。
「じゃあ、京を囲ってる術の石を、全部破壊しねぇとダメって事か?」
煉が眉を寄せながら言った。晴明も顎に手を当て、考えている。
「それもあり得る。しかし、石が簡単に割れるなど不可解だ。道満の事だから、さらに強い妖怪でも仕込んでいると思ったのだが……」
ハナも頷いた。
「瘴気だけだもんね。まだ何かありそう」
晴明は、懐から一枚の紙を取り出した。平安京とその周辺の地図だ。
「石を砕いて、わずかだが力が戻っている。占いはまだ出来んが、術の気配を地図から探る事は、出来るかもしれん」
言いながら、地図の上に手をかざし、ゆっくりと上下左右に動かしていく。
「術の気配は裏鬼門も強い。あとは、東西南北。今まで都の外側を捜索していたが、違う。四神の結界まで揺るがすつもりか」
京は、青龍、白虎、朱雀、玄武の四つの神様を東西南北に配し、都を守護している。晴明は集中し、地図に手をかざし続けている。
「四神相応。彼らが守護している場所ではない。道満は、そこへは近付かなかったらしい。都の外側の通りのようだ」
「四神……。嫌な予感しかしない」
ハナの眉間に皺が寄った。全員が同意する。
「危険因子は全て排除する。裏鬼門と四方へ向かおう」
次の目標が決まった。晴明が指示を出していく。
「裏鬼門の方は、ここと同じだろう。精霊達に頼みたいのだが、出来るか?」
木霊と榊の精霊は顔を見合わせ頷き合った。
「分かりました。散った仲間を集めて、すぐに向かいます」
「あいつらだけじゃ心配だ。俺も行く」
声を上げてくれたのは、妖狐だった。彼は煉と同じく炎を使い、幻術も得意で、よく人間を惑わせていた。
「頼もしい。よろしく頼む」
妖狐と木霊がさっと消えた。それを見届け、晴明は地図を指さした。
「西は煉、頼めるか? 火の属性は、今そなただけだが」
「任せとけ。属性を考えれば、万が一の場合、俺が適任だな」
「ああ、そうだ。次にハナ殿」
ハナを見た晴明。
「そなたは南を頼みたい」
「了解」
そして、一緒にいる妖怪の顔を見回した。
「土の属性の者はおるか?」
「私よ」
「おらも」
「砂壺と野槌か」
砂壺は、砂が入った壺を持つ女性の妖怪だ。銀杏色の着物を着て、腰までの黒髪を揺らしている。吊り上がった目は、とても気が強そうだ。もっと年を取ると、後に“砂かけ婆”と呼ばれるようになる。
野槌は砂色の肌をした大蛇だった。山道を歩いていると足元に転がって来て、噛み付く妖怪だ。鎌首をもたげれば、白千と並ぶほどの大きさ。
「そなた達は、北だ。大内裏の裏で、帝がおられる所。警備も強化している。妖怪だからと誤解を受けるやもしれん。その時は、この札を見せ、私の指示で動いていると言えば良い」
二人に晴明の札を手渡した。真ん中に五芒星が描かれており、一目で晴明の物だと分かる。
「分かったわ」
砂壺が頷いた。
「他の妖怪の者も、共に行ってくれると助かる」
晴明の言葉に、側にいた妖怪三匹が同意してくれた。彼らにも札を渡す。精霊妖怪、全員の分担が終わる。
「じゃあ、残った東は――」
ハナが晴明を見ると、彼は携えていた刀を持った。
「私が行こう」
皆が指示された場所へ向かう。京を守る力を取り戻すための戦いが、始まった。
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