164 心を一つに
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「陰陽師の力を、封じた!?」
「美鬼さんや式神が消えたって……」
晴明と貞光は、竜杏の屋敷に赴き、道満との会話を話した。タエ達全員、驚いている。
「封じられた時、何か感じなかったの?」
竜杏は、素直な質問をした。晴明ほどの実力者ならば、すぐに察知しそうだからだ。
「悔しいが、何も。結界を張る時は、相手を逃がさぬよう一気に張る。壁がいきなり現れるのだ。見えなくとも、察知する事は簡単だ。だが、今回は薄い膜をゆっくり張られたようなのだ。陰陽寮でも、誰も異変に気付かなかった。式神ですら気付かせないとは、恐ろしい奴よ」
憎らしいが、その実力は認めているらしい。
「術の発生源を破壊しない限り、私の力は戻らない」
「呪符?」
「それか、力が籠められた石、鏡、そういう類だ。鬼のように、発動条件を細かく設定する時は呪符を使うだろうが、時限装置としての結界なら単純だ。呪符以外にも籠める事は可能。発動しているから、見つければすぐに分かるはずだ」
ふぅ、と晴明はため息をついた。
「私だけで探すのは時間が足りん。そこで、そなた達と仲が良い精霊や妖怪達に、協力を求めたいのだが」
「それは構わない。良いよね、タエ、ハナ殿?」
二人は頷いた。
「すぐにでも取り掛からないと」
「私、皆を呼んできます!」
タエが部屋を出て、庭に向かった。
それを見送り、貞光が竜杏に話しかけた。
「今度の出陣の話、聞いた」
「はい」
「不吉な夢の事も聞いた」
「はい」
「俺も行く」
「はい?」
竜杏が目を見開いた。
「誰が相手か知らんが、小隊で行くなんて無謀すぎる。俺も兵を集めて、一緒に行く。お前だけ危険な目に遭わせるわけにはいかねぇ!」
「それは有難いですが――」
「決めたからな!」
貞光の決意の表情が、とても頼もしい。竜杏と藤虎は苦笑していたが、ハナと煉は顔を見合わせ笑顔だ。
「頼光様に、許可を取って下さいよ」
「おうよ!」
「失礼します」
タエが戻って来た。榊の老人や、木霊、小鬼、狐や狸の妖怪達が揃う。晴明が訳を話し、力を貸して欲しいと頼むと、彼らは快く引き受けてくれた。
「ただ、相手は道満の術。危険だと思ったら、手を出さず、私に連絡してくれ。協力、感謝する」
「分かった」
精霊、妖怪達が散らばって行く。彼らなら、すぐに見つけてくれそうだ。貞光が晴明に問うた。
「晴明も足で探すのか?」
「仕方あるまい。彼らだけ動かして、私が寝て待つわけにもいかんだろう」
ちゃんと自分も動く。その姿勢は、彼らを軽んじている事もなく、とても好感が持てた。
「私も手伝う」
ハナが名乗りを上げる。
「ハナ殿、良いのか?」
「ええ。昼間は時間があるし、力になりたい」
「有難い」
晴明がハナに頭を垂れる。
「せ、晴明が頭を下げた!」
「初めて見た……」
貞光と竜杏が度肝を抜かれている。晴明は帝も信頼する陰陽師。頭を下げるのは帝くらいだった。
「失礼な。私も感謝すれば、礼くらいするぞ」
腕を組んで二人を見る。それでも、二人にとって先程の衝撃は、まだ冷めていない。
「いやいやいや、いつもふんぞり返ってるし」
「人を操って楽しんでるでしょ」
「そうそう。コロコロ手の平で」
「お前達なぁ……」
「ふっ」
彼らの会話を聞いて、タエが吹き出した。全員がタエを見る。
「すいません。いつもの雰囲気に戻った感じがして」
涙を拭っている。竜杏は、タエの笑顔を見て、ホッとした。
(いつもの笑顔、やっと見られた)
戦への不安からか、笑顔もぎこちなかったのだ。
「あの、私もお手伝いします」
タエが名乗りを上げたので、晴明は首を横に振った。
「いや、タエ殿は竜杏の側にいてやってくれ。戦の準備があるからな。そちらを手伝ってやって欲しい」
「そうだな。鎧と、馬具の準備もあるし。いろいろ行く所もある」
「分かりました」
タエはしっかりと頷く。竜杏を見れば、目が合い、優しく笑ってくれた。
「問題がいくつもある。だが、いつもの我らを忘れずに、それらを全て片付け、勝利を掴もう」
「おう!」
全員の心が一つになった。
出陣まで、あと六日。
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