161 屋敷にて
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タエは、どうやって屋敷に戻って来たのか記憶にない。竜杏と共に馬に乗り、戻って来たタエの表情を見た藤虎とハナ、煉は、察しがついた。
「七日後、出陣ですか」
竜杏の部屋で話を聞いた藤虎が、頷いていた。
「小隊での出陣になる。もう隊の編成は出来ている。丹波の国で、不穏な動きがあるらしい」
「不穏な動き、とは」
「怪しい輩が、都の周りで何度か目撃されている。それが丹波の国に入ったと報告があった。そのまま京に入って来るつもりだろうと、宮中で噂されているらしい」
藤虎も腕を組み、眉を寄せ、難しい顔をした。
「武士ですかね。どこの国の者でしょう」
「分からない。帝を狙う輩だろうって話だけど」
は、と息を吐く竜杏。
「だから、俺に命令が下ったんだろう。宮中を騒がせる騒動を終息させれば、父上の株も上がる。正体が分からない奴の相手は、俺しかいない」
「影武者だから、ですか……。相手の人数も分からないので、余分に兵を出す事はない。後方の支援もないのでしょう?」
「様子を見てこいとは、言われなかった。これは戦だと」
それは、敵と見なせば、全滅してこいという事だ。小隊など、たかが知れている。
「敵が大勢で攻めて来たら? これでは、まるで捨て駒ではないですか!」
言葉を押し殺すように言う藤虎。拳をぐっと握っている。
「仕方ないよ。俺は、こういう時の為にいるんだから。こうなる事も予想してた。確実に勝てると保証されない戦に、世継ぎの綱を出陣させられないでしょ」
「しかしそれでは、御館様があまりにも――」
「不憫?」
はっと藤虎は竜杏を見た。しかし、彼が見た竜杏の目は、昔のように全てを諦めた目ではなかった。しっかりと、光を湛えている。
「俺は、自分の役目を果たそうと思う。父上の為じゃない。綱の為だ。綱なら、きっとあの家を良い家にするだろう。誰も不幸にする事はないと信じてる」
「御館様……」
「それに、タエの為にも、俺は生きる事を諦めない。道満の計画が一番気がかりだけど、全員で臨めば、きっと乗り越えられる。ずっとそうしてきたから」
幸成と千草を救った事、椎加との決死の戦い、それ以外にもたくさんの妖怪と戦ってきた。全て、皆で乗り越えてきたのだ。
「その為には、藤虎の力も必要だ。俺の為に、力を貸して欲しい」
藤虎は、両拳を床に着き、頭を下げた。
「私、渡辺藤虎。我が主に着いて行きまする! 命を賭して、お守り致します」
「命は賭けなくていいよ。藤虎にも、生きていて欲しい」
二人で、笑い合った。
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