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月夜の代行者  作者: うた
第三章
164/330

160 呪符

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

「見つけた!」

 タエが声を上げた。そして、晴明が使っている札と同じような紙を手に持っている。

「こっちもあった」

「こっちもよ」

「俺も見つけた!」

 竜杏とハナ、煉も同じく紙を手に取った。ここは夜の平原。ハナがここだと言った、夢で見た戦の舞台となる場所だ。

 約束通り竜杏も一緒に来て呪符を探す。木に張られていたもの、岩陰。よく見れば、白い紙がいくつも見え、違和感がある。

 タエは取った呪符を見た。ドーマンの九字の格子柄が真ん中に描いてあり、読めない文字の羅列が二列ある。晴明と同じく、とてもシンプルだ。四人で探して、既に十枚発見した。これを道満が隠して回ったと思えば、少し笑える。実際は、式神にやらせたのだろうが。


(でも、この札が、あの鬼を呼ぶんだ……)


 見つけた全ての呪符が発動した時を考えるとゾッとする。現れた鬼が全員、竜杏に襲い掛かれば、守るのは至難の業だ。

「全部、見つけなきゃ!」

 タエは足元の土を掘り出した。





「これが道満の呪符か」

 晴明は、ぴらりと一枚手に取った。タエ達は、仕事に支障を来たさない程度に急いで呪符を探し、一晩で二十三枚見つけた。彼らは晴明の屋敷で、それらを見せに来たのだ。呪符の扱いも伺う為だ。

 手に持つ呪符を、晴明は火鉢に突っ込んだ。じゅう、と音を立てて燃え、煙と共に黒いもやが立ち込める。一同、身構えたが、何をするでもなく、そのまま消えた。札も灰になる。

「ふむ。呪符が傷付くと、その場で鬼が召喚されるわけではないか」

「もしかして晴明、イチかバチかでやったの?」

 竜杏が眉を寄せた。晴明はしれっと答える。

「何事も、やってみないとな。ここに鬼が出ても、対妖怪の手練れがいるから大丈夫だろ」

 道満の術となると、晴明も慎重になるが、対応の仕方が雑だ。ある意味、思い切りも必要なのかもしれない。残りの呪符も、火鉢の中に放り込む。

「普通に燃やしても大丈夫だな。破っても良いだろうが、札の意味を知らない人間が拾うとよろしくないだろう。せっかく煉がいるんだ。全て燃やしてしまえ」

 煉は、自分に役目がある事が嬉しくて、張り切ると車輪からぽんと火花が出た。呪符の対応は理解したので、一安心だ。

「これで全てか?」

「分からない。一部は土に埋まっていた。広い平原だったから、何枚埋まってるか……」

 晴明はタエを見た。

「しかし、諦めないのだろう?」

「はい。全部土を掘り返してでも、見つけます。一枚残らず」

「ああ。そうだろうな。私の占いでは、場所を見つけられなかった。やはり探知妨害の術がかかっていたよ。そなた達が足で探したおかげだ」

 晴明が、皆を褒めてくれた。彼に褒められるなんて。タエは嬉しくて、つい、にやついてしまった。ハナも尻尾を振っている。


「竜杏様、急ぎの文です」


 部屋の外から美鬼の声がした。美鬼は、すっと障子を開けると、そこに屋敷によくいる榊の精霊が文を持っていた。竜杏の前まで来ると、差し出す。

「渡辺本家からの文だそうで、藤虎が焦っていたから、持って来ました」

「ありがとうございます」

 丁寧に礼を述べ、受け取る。

「ここで読めば良い。急ぎなのだろう?」

 晴明が了承したので、文を広げた。隣に座るタエにも見えたのだが、短い文だった。

「急いで本家に来るように言われた」

 竜杏は、胸騒ぎがしていた。タエ達も、直接の呼び出しなど、彼の立場を考えるとあまり良い話ではないだろうと思える。

「ならば、行きなさい。父上を待たせるものではない」

「……分かった」



 馬に乗り、帰路につく時、晴明の表情が険しくなった。美鬼と一緒に見送りに来てくれる事も珍しいが、いつもクールで飄々としている彼にしては、珍しい顔つきだ。

「竜杏、皆……。道満の力の影響で、うまく占えないのだが、一つ、気がかりな事がある」

 何でも知っている晴明が、不確定な事を言う事も、いつもと違う。

「何? 何かあるなら、全て聞いておきたい」

 竜杏が言った。晴明も頷き、決心したらしい。

「近い内、自然界で稀に見る現象が起きるだろう」

「稀に見る現象?」

 竜杏は意味が分からないと、首を捻る。

「空の観測が上手くいかんのだ。これも、道満の計画の内なのかもしれん。陰陽寮にも問い合わせたが、皆、観測や占いが曖昧になっている。ここまで周到に用意していたとは、驚きだ」

「どういう事? 何が起こるの?」

「はっきりとは分からん。観測できなくなるなど、初めての事だからな。ただ、太陽と月が関わってくるはずだ」

「太陽と、月……」

 タエも反復して呟いた。もっと平安時代に詳しければ、これから何が起こるのか分かったかもしれないのに。しかし、ここで悔やんでも仕方がない。

「忠告ありがとう。とりあえず、自分達の出来る事をやるよ」

「ああ。何か分かれば、連絡する」

「皆様、御気を付けて」

 美鬼も美しい微笑みで見送ってくれた。タエ達も礼をして、晴明の屋敷を後にする。

「ふぅ。私達も出来る事をするか」

 門をくぐろうとした時だった。いつも後ろにある気配がない。


「……美鬼?」


 今までそこにいた美鬼が、消えていた。





 渡辺家本家。タエは竜杏を守る巫女という事になっているので、急いで巫女衣装を着て、竜杏の馬に共に乗った。動きやすく十二単を二枚にして身軽にした。少し涼しいが、我慢できない事はない。

 竜杏の父、源宛の前に正座する。その後ろにタエは控えた。頭を下げているので、彼らの顔を見る事は出来ない。

「お前に任務を与える」

「は」

 竜杏は、短く返事をした。タエは心臓がどくどく音を立て、緊張していた。彼の父親なのだが、厳しい雰囲気に、体が固まってしまう。打ち解ける空気ではない。

 源宛が、口を開いた。




「綱として戦に赴き、恥じぬ戦いをせよ」




 タエの目の前が、真っ白になった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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