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月夜の代行者  作者: うた
第三章
160/330

156 煉との関わり

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

(最近、寝つきが異様に良い……)


 竜杏は、思案していた。代行者の実戦練習をするようになり、何度か妖怪を斬った。夜の鍛錬がない時もあるのだが、鍛錬から戻ると、すぐに眠りに落ちる。

 ハナの計らいで、夜の鍛錬がない時は、タエも一緒に過ごしている。二人の時間も必要だと、限りある時を決して無駄にはしない。竜杏とタエは、それがとても有難かった。


(鍛錬の夜だ。タエと共に寝る時と違う、落ちるように眠る寝方……。その時はいつも――)





「鞍馬山に住む、鴉天狗の一族の皆さんは、すっごく頼りになるよ! 鞍馬山と一族を守る事を、第一に考えてる」


 屋敷の縁側にて。タエとハナは、竜杏と煉に仲間について話をしていた。もう代行者の講義で教える事は、全て教えた。代行者の役目。神様と式神について。周りの土地にいる他の代行者の事。現世とのつながりと、そこでの役割。

「首領の名前は双風道。双風道様の息子さん、黒鉄さんは、私を強くしてくれた師匠なの」

「へえ」

「最初はお姉ちゃん、こてんぱんにやられたのよね。悔しくて、勝てるまで毎日勝負を挑んで」

「あったねぇ。懐かしい。弱い代行者はいらないって言われたもんね」

 腕を組み、うんうんと頷くタエ。竜杏は、新人だった頃のタエに興味を持った。

「で、勝てたの?」

「私は、ちゃんと勝てた実感が欲しかったけどね。黒鉄さんの腕を腫れさせて、私の勝ちだって。勝負は終わり」

 まだ少し納得していないのか、苦笑している。

「でもおかげで、私はもう一段強くなれた。ハナさんも修行をし直して、技を磨いたしね」

「うん」

「それから、煉ちゃん。現世に干渉して」

 タエは煉を呼んだ。なんだと竜杏の膝の上に乗ると、タエが両手を伸ばし、煉を抱き上げた。

「なっ、なぁ!?」

 ぎゅっと抱きしめた。温かい。煉は驚いていたが、火を出す事を我慢した。タエが火傷すると思ったのだ。

「ありがとう、煉ちゃん」

「え?」

 小さな体をなでる。車輪、頭に触れた。

「戦いの基礎を教えてくれたのは、煉ちゃんだったの」

 煉がタエを見た。タエは、優しく微笑んでいる。

「ハナさんの鍛錬の一環で、私の身体能力の向上と実戦練習をしてくれた。煉ちゃんが協力してくれたから、私は戦えるようになったんよ。この時代に来て、山で見つけた時はびっくりした。この時代の煉ちゃんにも、ありがとうって言いたかったんだ」

 にっと笑うタエ。煉は、タエの強さに貢献していた事実を知り、胸が熱くなった。ハナを見てみれば、同じく頷いている。

「最初から私達を知ってて、力を貸してくれたのね。私が鍛錬に協力してくれる妖怪を探してた時、一番に声を上げてくれたのが、煉だったから」


 今思い直して、ようやく納得できる事があった。初めて煉達と鬼ごっこをした時、あっさり捕まったタエに、彼は言っていた。


――なぁ、あんたはもっと早く動けるだろ? 本気出せよ――

――俺が知ってる奴は、もっと速く動いてたし、めちゃくちゃ強かったぞ――


 タエは、先の代行者の事を言っていると思っていたが、先代を快く思っていなかった煉。このセリフは、全てタエの事を言っていたのだ。

「鍛錬だけじゃないんよ。叉濁丸――代行者だけじゃ敵わなかった妖怪も、一緒に戦ってくれて。私達は、本当にたくさん助けてもらってるの」

 ちゅ。と、感謝の気持ちをこめて、煉の額に口付けた。

「!?」

 煉は、もう我慢できずに、ぼんっと爆音を響かせ、その衝撃で空中に飛び上がる。頭から煙が出ていた。

「あちっ!」

「煉っ」

 タエの手の中で爆発したので、普通に熱い。軽い火傷で済んだ。煉はと言えば、ふしゅーと音を出しながら、ゆらゆらと漂っている。仰向けに脱力して落ちて来たので、竜杏が受け止めた。目を回している。

「えっえ!? 私まずい事した!?」

「あーあ」

 ハナが笑っている。

「タエの気持ちが、嬉しかったみたいだ」

 竜杏の膝の上で、へちょりと横になっている煉。まだ現世に干渉しているので、竜杏も彼の頭を優しくなでる。

「煉は、未来で二人の力になってたんだね」

「うん。煉ちゃんがいなかったら、今の私はなかったよ」

「そうか」


(少し……、いや、かなり羨ましいな)


 正直に思った竜杏。そして、安堵した。自分は消滅してしまうが、煉は生きていてくれた。そしてタエとハナに再会しているのだ。彼女達は、この時代に来て煉との関わりを初めて知ったようだが、それは煉が今まで話さなかったのだろう。いずれ二人は、過去へ行き、また出会うと知っていたから。煉の思慮深さには、頭が下がる。


「うん。安心した」

「え? 何か言った?」

 小さく呟いた竜杏の言葉。タエは首を捻る。竜杏は、首を横に振った。

「ううん。他にもいろいろ聞かせてよ」

「えっと。晴明さんの子孫の人とも、関わりは深いね」

 力を持つ者同士、力を合わせて戦う事もあるという話をしたりして、話は尽きない。叉焔丸、叉濁丸の話も、タエとハナが知る限りの情報を伝える。妖怪の戦い方や心臓の場所、倒し方。竜杏は、全てが自分の為になるので、しっかり聞いていた。





 夜。今夜も竜杏は実戦練習だ。妖怪を何体か斬り、まだ星が光る時間に戻って来た。

「じゃあ、おやすみなさい」

「ああ」

 いつもと同じく、竜杏は煉と一緒に先に休むことになった。そして、いつもの通り、竜杏が眠ったと確認する。

「ハナさん、行こう」

「うん。今夜こそ、見つけてみせる」

「気を付けて行けよ」

「うん。行ってくるね」

 小声で会話をし、タエとハナは再び夜空へ飛んで行く。

「ふぅ」

 二人を見送った煉も、寝ようと横になろうとした。


 が。


「!?」

 煉の目が見開かれる。煉は、大きな手で小さな肩をがっちり掴まれていたのだ。

「り、竜杏……」

 目の前には、竜杏がしっかり起きていて、煉を見据えている。

「煉。今の話、どういう事か、聞かせてもらうよ」


読んでいただき、ありがとうございました!

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