156 煉との関わり
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(最近、寝つきが異様に良い……)
竜杏は、思案していた。代行者の実戦練習をするようになり、何度か妖怪を斬った。夜の鍛錬がない時もあるのだが、鍛錬から戻ると、すぐに眠りに落ちる。
ハナの計らいで、夜の鍛錬がない時は、タエも一緒に過ごしている。二人の時間も必要だと、限りある時を決して無駄にはしない。竜杏とタエは、それがとても有難かった。
(鍛錬の夜だ。タエと共に寝る時と違う、落ちるように眠る寝方……。その時はいつも――)
「鞍馬山に住む、鴉天狗の一族の皆さんは、すっごく頼りになるよ! 鞍馬山と一族を守る事を、第一に考えてる」
屋敷の縁側にて。タエとハナは、竜杏と煉に仲間について話をしていた。もう代行者の講義で教える事は、全て教えた。代行者の役目。神様と式神について。周りの土地にいる他の代行者の事。現世とのつながりと、そこでの役割。
「首領の名前は双風道。双風道様の息子さん、黒鉄さんは、私を強くしてくれた師匠なの」
「へえ」
「最初はお姉ちゃん、こてんぱんにやられたのよね。悔しくて、勝てるまで毎日勝負を挑んで」
「あったねぇ。懐かしい。弱い代行者はいらないって言われたもんね」
腕を組み、うんうんと頷くタエ。竜杏は、新人だった頃のタエに興味を持った。
「で、勝てたの?」
「私は、ちゃんと勝てた実感が欲しかったけどね。黒鉄さんの腕を腫れさせて、私の勝ちだって。勝負は終わり」
まだ少し納得していないのか、苦笑している。
「でもおかげで、私はもう一段強くなれた。ハナさんも修行をし直して、技を磨いたしね」
「うん」
「それから、煉ちゃん。現世に干渉して」
タエは煉を呼んだ。なんだと竜杏の膝の上に乗ると、タエが両手を伸ばし、煉を抱き上げた。
「なっ、なぁ!?」
ぎゅっと抱きしめた。温かい。煉は驚いていたが、火を出す事を我慢した。タエが火傷すると思ったのだ。
「ありがとう、煉ちゃん」
「え?」
小さな体をなでる。車輪、頭に触れた。
「戦いの基礎を教えてくれたのは、煉ちゃんだったの」
煉がタエを見た。タエは、優しく微笑んでいる。
「ハナさんの鍛錬の一環で、私の身体能力の向上と実戦練習をしてくれた。煉ちゃんが協力してくれたから、私は戦えるようになったんよ。この時代に来て、山で見つけた時はびっくりした。この時代の煉ちゃんにも、ありがとうって言いたかったんだ」
にっと笑うタエ。煉は、タエの強さに貢献していた事実を知り、胸が熱くなった。ハナを見てみれば、同じく頷いている。
「最初から私達を知ってて、力を貸してくれたのね。私が鍛錬に協力してくれる妖怪を探してた時、一番に声を上げてくれたのが、煉だったから」
今思い直して、ようやく納得できる事があった。初めて煉達と鬼ごっこをした時、あっさり捕まったタエに、彼は言っていた。
――なぁ、あんたはもっと早く動けるだろ? 本気出せよ――
――俺が知ってる奴は、もっと速く動いてたし、めちゃくちゃ強かったぞ――
タエは、先の代行者の事を言っていると思っていたが、先代を快く思っていなかった煉。このセリフは、全てタエの事を言っていたのだ。
「鍛錬だけじゃないんよ。叉濁丸――代行者だけじゃ敵わなかった妖怪も、一緒に戦ってくれて。私達は、本当にたくさん助けてもらってるの」
ちゅ。と、感謝の気持ちをこめて、煉の額に口付けた。
「!?」
煉は、もう我慢できずに、ぼんっと爆音を響かせ、その衝撃で空中に飛び上がる。頭から煙が出ていた。
「あちっ!」
「煉っ」
タエの手の中で爆発したので、普通に熱い。軽い火傷で済んだ。煉はと言えば、ふしゅーと音を出しながら、ゆらゆらと漂っている。仰向けに脱力して落ちて来たので、竜杏が受け止めた。目を回している。
「えっえ!? 私まずい事した!?」
「あーあ」
ハナが笑っている。
「タエの気持ちが、嬉しかったみたいだ」
竜杏の膝の上で、へちょりと横になっている煉。まだ現世に干渉しているので、竜杏も彼の頭を優しくなでる。
「煉は、未来で二人の力になってたんだね」
「うん。煉ちゃんがいなかったら、今の私はなかったよ」
「そうか」
(少し……、いや、かなり羨ましいな)
正直に思った竜杏。そして、安堵した。自分は消滅してしまうが、煉は生きていてくれた。そしてタエとハナに再会しているのだ。彼女達は、この時代に来て煉との関わりを初めて知ったようだが、それは煉が今まで話さなかったのだろう。いずれ二人は、過去へ行き、また出会うと知っていたから。煉の思慮深さには、頭が下がる。
「うん。安心した」
「え? 何か言った?」
小さく呟いた竜杏の言葉。タエは首を捻る。竜杏は、首を横に振った。
「ううん。他にもいろいろ聞かせてよ」
「えっと。晴明さんの子孫の人とも、関わりは深いね」
力を持つ者同士、力を合わせて戦う事もあるという話をしたりして、話は尽きない。叉焔丸、叉濁丸の話も、タエとハナが知る限りの情報を伝える。妖怪の戦い方や心臓の場所、倒し方。竜杏は、全てが自分の為になるので、しっかり聞いていた。
夜。今夜も竜杏は実戦練習だ。妖怪を何体か斬り、まだ星が光る時間に戻って来た。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ああ」
いつもと同じく、竜杏は煉と一緒に先に休むことになった。そして、いつもの通り、竜杏が眠ったと確認する。
「ハナさん、行こう」
「うん。今夜こそ、見つけてみせる」
「気を付けて行けよ」
「うん。行ってくるね」
小声で会話をし、タエとハナは再び夜空へ飛んで行く。
「ふぅ」
二人を見送った煉も、寝ようと横になろうとした。
が。
「!?」
煉の目が見開かれる。煉は、大きな手で小さな肩をがっちり掴まれていたのだ。
「り、竜杏……」
目の前には、竜杏がしっかり起きていて、煉を見据えている。
「煉。今の話、どういう事か、聞かせてもらうよ」
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