154 夢の意味
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佐吉の予知夢の話を聞いて、昼餉を食べた後、晴明の屋敷に皆で行く事になった。留守番の藤虎にも話をした。彼が冷静に聞いていたので、タエ達は少し意外だった。そこはさすが武士。可能性の話であると理解した上で、自分がどうすべきなのかを考え始めているようだった。
「佐吉という子供がねぇ」
晴明が目を丸くして感心していた。ハナに説明を聞いて、ふむ、と扇子を優雅に動かしている。そして、竜杏の肩に乗っている煉に向けて扇子の風を送り、煉の炎がぼぼっと爆ぜるの見て笑った。煉は眉間に皺を寄せていたが。
「道満が何を企んでいるのかは、今まで聞き出す事は出来なかった」
牢の中にいる彼に事情聴取をしてはいるが、黙秘を貫いている。臣下の中には拷問も辞さない考えの者もいるが、晴明は実行していない。力を封印していても、血一滴流す事は油断ならないからだ。実際、血の術を使い、巨大蛇を召喚している。舌を噛み切らないか、式神に見張らせていた。
「以前の実験体の鬼を、戦で本格的に動かすつもりか。完成させていたとはね」
「道満は牢にいて、力も封印されているのに、どうやって鬼を操れるんですか?」
タエが正直な質問をぶつけてみる。
「一番に思い当たるのは、特定の条件を満たす場合にのみ発動するよう、術に組み込む方法だ」
「特定の、条件……?」
竜杏が眉を寄せた。
「戦だよ」
全員がはっとする。
「奴は、占いで予知をしたのだろう。遠くない未来、その地で戦が起きると。だからあらかじめ、鬼を発動する呪符をその土地に隠す。今でも戦は各地で起きている。そこに鬼が現れないのは、呪符を設置していないか、まだ条件を満たしていなかったか」
扇子をぱしりと閉じる。
「操る必要はない。一度発動させれば、鬼が勝手に暴れる。夢でも戦の邪魔をしていたのだろう? どちらの軍の味方をするつもりもない。奴の目的は、京を滅ぼす事だからな」
道満が今の状態でも、術を発動できる仕組みは分かったが、気がかりがあった。
「その戦は、どこで起きるか分かりませんか?」
「占ってみるが、特定できるかは保証できんぞ」
道満が、前もって探知の邪魔をする術を施している可能性があるからだ。タエは頷いた。
「分かりました。でも、その戦に竜杏がいるなんて……」
「まだ竜杏を諦めておらんという事だ」
「え?」
タエ、竜杏が声を上げた。
「道満が、俺を?」
「忘れたか? 男山で、あの大蛇はお前さんを喰おうとしていただろう」
「そうだっけ……」
タエが大蛇の腹の中に入って行った事が衝撃的すぎて、自分が狙われていた事など、すっかり忘れていた。
「鬼出現の術に、竜杏がその場にいるという条件も組み込んでいるかもしれんな。鬼が竜杏を喰らうような事があれば、その鬼は鬼神となろう。行動も呪符で操れるならば、そのまま都を襲うかもしれん」
「竜杏を取り込んで、鬼神になったら、都を襲えって事ですか……?」
「奴なら、やりかねん」
最悪のシナリオだ。道満の思い通りになってしまったら、京はなくなってしまう。未来も、変わるかもしれない。
「阻止しないと」
ハナがタエを見て言った。タエも頷く。
「場所は、ハナさんが見てる。晴明さんが特定してくれればいいけど、私達も足で探そう。戦が始まる前に呪符を見つければ、最悪の事態を避けられる」
「うん」
決して諦めないタエとハナを見て、晴明はゆるりと微笑んだ。
「竜杏、良い伴侶に出会えたな」
「え……」
竜杏の頬が朱に染まる。
「そして、良い家族に恵まれた」
“家族”というのは、藤虎も含む、ハナ、煉の事だ。晴明の視線がそう言っていた。それを理解し、竜杏も柔らかい表情で頷いた。
「ああ。俺には、もったいないくらいだよ」
タエ達は、顔を見合わせ笑い合う。
「竜杏に、それだけの魅力があるからやよ! 自信持って」
竜杏の肩をぱしっと叩くタエ。照れ隠しに声も明るくなる。
「……ああ。ありがと」
彼も照れてしまった。晴明と側に控えていた美鬼も、笑顔になる。最初は重く、緊張する空気だったが、今は穏やかだ。実力者揃いなので、大丈夫だという気持ちになる。竜杏は、彼らを心の底から信頼していた。
(皆で力を合わせれば、困難もきっと乗り越えられる)
「佐吉に礼を言っておいてもらえるか。夢のおかげで、道満の企みを知る事が出来たのだからな。不安な時は、いつでも相談に乗ろう」
「ありがとう、晴明殿!」
ハナが頭を下げた。ハナが、佐吉を頼みたいと言ったのだ。晴明は、快く引き受けてくれた。
そして、竜杏達は、皆の屋敷へと帰る。タエは竜杏と同じ馬に乗り、ハナの背中に煉が乗って、並んで進んでいた。
タエは、竜杏の顔を見る。
「竜杏、絶対に守るから。呪符を見つけてみせる」
「俺も手伝う。生き抜いてみせるよ」
「うん」
タエの体を支えていた竜杏の手に、タエは自分の手を重ねる。ぎゅっと握り合う。決して離れてなるものかと、二人は思いを一つにした。
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