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月夜の代行者  作者: うた
第三章
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154 夢の意味

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

 佐吉の予知夢の話を聞いて、昼餉を食べた後、晴明の屋敷に皆で行く事になった。留守番の藤虎にも話をした。彼が冷静に聞いていたので、タエ達は少し意外だった。そこはさすが武士。可能性の話であると理解した上で、自分がどうすべきなのかを考え始めているようだった。




「佐吉という子供がねぇ」


 晴明が目を丸くして感心していた。ハナに説明を聞いて、ふむ、と扇子を優雅に動かしている。そして、竜杏の肩に乗っている煉に向けて扇子の風を送り、煉の炎がぼぼっと爆ぜるの見て笑った。煉は眉間に皺を寄せていたが。

「道満が何を企んでいるのかは、今まで聞き出す事は出来なかった」

 牢の中にいる彼に事情聴取をしてはいるが、黙秘を貫いている。臣下の中には拷問も辞さない考えの者もいるが、晴明は実行していない。力を封印していても、血一滴流す事は油断ならないからだ。実際、血の術を使い、巨大蛇を召喚している。舌を噛み切らないか、式神に見張らせていた。

「以前の実験体の鬼を、戦で本格的に動かすつもりか。完成させていたとはね」

「道満は牢にいて、力も封印されているのに、どうやって鬼を操れるんですか?」

 タエが正直な質問をぶつけてみる。

「一番に思い当たるのは、特定の条件を満たす場合にのみ発動するよう、術に組み込む方法だ」

「特定の、条件……?」

 竜杏が眉を寄せた。


「戦だよ」


 全員がはっとする。

「奴は、占いで予知をしたのだろう。遠くない未来、その地で戦が起きると。だからあらかじめ、鬼を発動する呪符をその土地に隠す。今でも戦は各地で起きている。そこに鬼が現れないのは、呪符を設置していないか、まだ条件を満たしていなかったか」

 扇子をぱしりと閉じる。

「操る必要はない。一度発動させれば、鬼が勝手に暴れる。夢でも戦の邪魔をしていたのだろう? どちらの軍の味方をするつもりもない。奴の目的は、京を滅ぼす事だからな」

 道満が今の状態でも、術を発動できる仕組みは分かったが、気がかりがあった。

「その戦は、どこで起きるか分かりませんか?」

「占ってみるが、特定できるかは保証できんぞ」

 道満が、前もって探知の邪魔をする術を施している可能性があるからだ。タエは頷いた。

「分かりました。でも、その戦に竜杏がいるなんて……」

「まだ竜杏を諦めておらんという事だ」

「え?」

 タエ、竜杏が声を上げた。

「道満が、俺を?」

「忘れたか? 男山で、あの大蛇はお前さんを喰おうとしていただろう」

「そうだっけ……」

 タエが大蛇の腹の中に入って行った事が衝撃的すぎて、自分が狙われていた事など、すっかり忘れていた。

「鬼出現の術に、竜杏がその場にいるという条件も組み込んでいるかもしれんな。鬼が竜杏を喰らうような事があれば、その鬼は鬼神となろう。行動も呪符で操れるならば、そのまま都を襲うかもしれん」

「竜杏を取り込んで、鬼神になったら、都を襲えって事ですか……?」

「奴なら、やりかねん」

 最悪のシナリオだ。道満の思い通りになってしまったら、京はなくなってしまう。未来も、変わるかもしれない。

「阻止しないと」

 ハナがタエを見て言った。タエも頷く。

「場所は、ハナさんが見てる。晴明さんが特定してくれればいいけど、私達も足で探そう。戦が始まる前に呪符を見つければ、最悪の事態を避けられる」

「うん」

 決して諦めないタエとハナを見て、晴明はゆるりと微笑んだ。


「竜杏、良い伴侶に出会えたな」


「え……」

 竜杏の頬が朱に染まる。

「そして、良い家族に恵まれた」

 “家族”というのは、藤虎も含む、ハナ、煉の事だ。晴明の視線がそう言っていた。それを理解し、竜杏も柔らかい表情で頷いた。

「ああ。俺には、もったいないくらいだよ」

 タエ達は、顔を見合わせ笑い合う。

「竜杏に、それだけの魅力があるからやよ! 自信持って」

 竜杏の肩をぱしっと叩くタエ。照れ隠しに声も明るくなる。

「……ああ。ありがと」

 彼も照れてしまった。晴明と側に控えていた美鬼も、笑顔になる。最初は重く、緊張する空気だったが、今は穏やかだ。実力者揃いなので、大丈夫だという気持ちになる。竜杏は、彼らを心の底から信頼していた。


(皆で力を合わせれば、困難もきっと乗り越えられる)



「佐吉に礼を言っておいてもらえるか。夢のおかげで、道満の企みを知る事が出来たのだからな。不安な時は、いつでも相談に乗ろう」

「ありがとう、晴明殿!」

 ハナが頭を下げた。ハナが、佐吉を頼みたいと言ったのだ。晴明は、快く引き受けてくれた。

 そして、竜杏達は、皆の屋敷へと帰る。タエは竜杏と同じ馬に乗り、ハナの背中に煉が乗って、並んで進んでいた。

 タエは、竜杏の顔を見る。

「竜杏、絶対に守るから。呪符を見つけてみせる」

「俺も手伝う。生き抜いてみせるよ」

「うん」


 タエの体を支えていた竜杏の手に、タエは自分の手を重ねる。ぎゅっと握り合う。決して離れてなるものかと、二人は思いを一つにした。


読んでいただき、ありがとうございました!

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