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月夜の代行者  作者: うた
第三章
153/330

150 ゆきと佐吉

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

「あの、お邪魔でしたか?」

 ゆきが遠慮がちに聞いた。タエ達の服装がいつもと違うからだ。タエに至っては、初めて見る服装なので、二人はまじまじと見てしまった。

「いや、ちょっと運動しようかと思っただけだよ。暇してたから。入んなよ」

 竜杏は、彼らが気にしないよう口調軽く言い、二人を招き入れた。


「あれ?」

 ゆきが一つの事に気付く。

「タエ様、雰囲気が変わりました?」

「え? そう、かな」

 女の子はちょっとの変化にも敏感なのだろうか。タエは心当たりがあるだけに、返答に詰まってしまった。

「はい。おキレイになったなって、思ったんですけど。気を悪くしたなら、謝ります」

「間違ってないよ。最近、タエは前よりキレイになったんだ」

「り、竜杏!?」

 さらっと言ってのける竜杏に、顔を真っ赤にしたタエが声を上げた。ゆきは目の前の二人の空気をしっかり読み取り、恋仲になった事を察した。笑顔になる。

「じゃあ、お二人は婚姻されたんですね!」

「うん」

「おめでとうございます! 佐吉も、おめでとうって」

「おめでとーございますっ」

 照れ臭かったが、幼い二人の純粋な言葉に、タエと竜杏は微笑み、ありがとうと返した。

(幸せだな)

 二人は同じ事を感じていた。



 ゆきと佐吉は、たまに顔を見せてくれていた。門前を掃除していると、二人がそこを通りかかり、元気な姿を見て安心する。二人は、道で竜杏達を見かけても声をかけてくれた。妖怪屋敷の主だと知る周辺の民は、竜杏を避けていたが、ゆきと佐吉が笑顔で話しているので、周りは驚いていた。

 そして、この辺りの雰囲気や治安が良くなった理由を彼らが人々に話したので、竜杏に冷たい態度をとる人が大分少なくなってきた。軽く挨拶を交わした時は、竜杏はもとよりタエも驚いたほどだ。だからこそ、そのきっかけとなってくれたゆきと佐吉に、竜杏だけでなくタエ達も感謝している。


「あの、うちの畑でナスが取れたんです。山ではタラの芽もいっぱい取れたので、どうぞ」

 ゆきがザルに入れたナスとタラの芽を差し出した。竜杏が目を丸くする。

「いいの?」

「はい!」

 笑顔で頷くゆき。竜杏はふっと微笑み、目線を合わせてザルと受け取った。

「ぼくも取ったんだー!」

 佐吉が得意気に胸を張った。

「そうか、佐吉すごいな。ありがとう。大事に食べるよ」

 竜杏に頭をなでてもらい、嬉しそうに頬を染めた佐吉はとてもかわいい。タエも笑顔になった。


 ゆきと佐吉が一緒に庭に来た。そこで彼らが見たものに、目を輝かせる。

「すごい……」

「うわあぁ!」

 屋敷の庭に入るのは最初に来た時以来だ。そして、前に見た時と明らかに違う。小さい精霊達、森に生きる妖怪達が庭や屋敷のあちこちで、ゆったり寛ぎ過ごしているのだ。

 槌加の呪い騒動で、傷付いた者が少なからずいた。土地の邪気を祓い、真摯に治療をして、この屋敷が安心して過ごせる場所だと知った彼らは、各々の好きな時にこちらに遊びに来るようになったのだ。

「あれは、妖怪?」

「心優しい妖怪に精霊達よ。二人を傷付ける者は誰もいない」

「ハナ様!」

 ゆきと佐吉は、ハナを見て駆け寄った。そしてぎゅっと抱きしめる。ハナは穏やかに、二人にされるがままになっていた。その様子を見て、竜杏は微笑む。

「子供に優しいんだな」

「ハナさんがニコニコして触れさせるなんて、この時代に来て初めて見たよ」

「え、そうなの?」

 ハナを見てきて、意外だと竜杏は驚いた。タエはもらったナスとタラの芽を台所に持って行き、ゆき達のザルを返すべく、戻って来た所だった。

「うん。気高く、厳格にって感じの接し方をしてたかな。代行者として高様に恥じないように振舞ってるんだと思う。でもここでは竜杏達と対等に接してるから、丸くなったなぁって思ったよ」

「へぇ」

 ハナに認めてもらえていたという事が、嬉しい竜杏。

「竜杏は他の人とは違うって、最初から言ってたしね。ハナさんの言う通りだった。藤虎さんの事も、尊敬してるし。ゆきちゃんと佐吉くんに至っては、ただもう可愛いからやろうね」

 ははっと笑うタエ。竜杏は、タエとハナに認めてもらえた事と、出会えた幸運に胸が詰まる思いだった。そっとタエの頭をなでる。

「どしたの?」

「ん? タエに触れたかっただけ」

「え」

 タエの頬が赤く染まる。その反応を見るだけで竜杏の心も温かくなった。自然と顔も緩む。


「竜杏……」

「煉」

 竜杏の後ろから煉が顔をのぞかせた。ゆきと佐吉を初めて見て、どう対応すればいいのか分からないのだ。

「あっ、赤い子!」

 佐吉が目ざとく見つける。びくりと肩が上がり、竜杏の肩をぎゅっと握った。拳から若干煙が出ている。

「煉、肩熱いし、着物が燃える」

 竜杏が苦笑いだ。彼はしゃがんで、煉を二人に見えるようにした。

「この者は煉。俺の命を救ってくれた妖怪だ。炎を操る。俺の大事な家族で、仲間なんだ」

「火が出せるの!? すごーい!! ぼく佐吉!」

「ゆきです。よろしくね、煉」

「お、おうっ! 名前は竜杏に付けてもらった。な、仲良くしてやっても、いいぞ!!」

 子供達にすごいと言われ、煉はえへんとふんぞり返っている。名乗れる事が嬉しいのもあるかもしれない。そうしてすぐに仲良くなった。

「二人はまだここにいられるの? 遊んでいく?」

 タエが問うと、二人はぱあっと花が咲いたような笑顔になった。

「いいんですか!?」

「遊びたーい!」

「もちろん。竜杏も一緒に遊ぼ?」

「まぁ、いいけど。何をするの?」


「そうやねぇ。ここにいるみんなで鬼ごっこ?」


読んでいただき、ありがとうございました!

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