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月夜の代行者  作者: うた
第三章
149/330

146 幸せ

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

 チュンチュン……。


「ん……」

 スズメの鳴き声に、目を覚ます。

(あったかい……)

 少しずつひんやりしてきた最近の朝だが、今日はとても温かい。しっかりとした温もりに包まれている。焦点が定まってきたタエは、辺りを見回した。

(竜杏の部屋……)

 そして思い出した。

(そうだっ! 私、昨日竜杏と――っっ!?)

 目の前に竜杏のドアップ。彼はまだ夢の中のようで、穏やかな寝息を立てている。その表情は、安心しきった優しい顔だ。

 そして気付く。何も着ていない。布団代わりの着物を掛けているだけだ。恥ずかしくなったタエは、少し離れた所にあった着物に手を伸ばすが、あとちょっとの所で届かない。

 もぞもぞしていると、タエを抱きしめる竜杏の腕に力が籠められた。


「まだこのままでいて」

 起きてしまったようだ。

「着物を着たいんで、ちょっと――」

「だめ」

 彼の腕の中から、まだ出られないらしい。




 タエが着物を着られたのは、それからしばらくしてだった。体を起こすと少しだるい。腰に鈍い痛みがある。

(これが初体験ってやつか。お父さん、お母さん、私は大人の階段を一歩上ってしまいました)

 後悔はない。むしろ清々しい。愛する人と一つになるという事が、これほどまでに幸せな事だったのかと、実感している。高龗神の秘薬のおかげもあって、まごつく事もなく、お互い素直な気持ちで愛し合えたと思う。タエの前には、竜杏が同じように着物に身を包んで座っていた。障子の間から差し込んでくる朝日に、部屋も明るくなっている。

「昨日は、ありがとう」

 竜杏が照れ臭そうに礼を言った。

「ううん。こちらこそ」

 そう答えると、竜杏の手が、タエの子宮の辺りに触れた。

「本当に、俺の魂がここに入ってるのかな……」

 実感が湧かないが、確かに高龗神の言う通りにしたので、タエの中にあるはずだ。

「魂が欠けた変化はない?」

 タエはそこが心配だった。少しとはいえ、魂を削ったのだ。

「別に何か変わったって感じはしない。心配になってくるよ」

「高様かハナさんに視てもらったら分かるかも。言われた通りにしたし、信じよう」

「ああ」

 しっかりと手を握る。この温かさは変わらない。ふんわりと笑ったタエを見て、竜杏がじっと見つめてきた。

「え、なに? 私の顔、変?」

 あまりに見つめられるので、あたふたする。またよだれを垂らして寝ていただろうか。

「いや、そうじゃなくて。……なんか、キレイになった?」

「へ?!」

「そう思っただけ。もうハナ殿戻ってるかな。顔洗ってくるよ。タエも支度しなよ」

 竜杏が照れたのか、そそくさと部屋を出た。




「よかったね」

 ハナも戻って来て、嬉しそうにしている。タエも顔を洗った所だ。

「うん。夢中だったけど、幸せだったな」

 思い出すだけで照れてしまうが、竜杏をがっかりさせなかったようだったので、そこは安心している。上司の術のおかげでもあるが、それで良しとした。

「魂魄解離術も発動できたし、安心やね」

「魂が入ってるって感覚がないから、ちょっと不安やけどね」

「そっか。今のお姉ちゃんは、悪霊は敏感に感じ取れるけど、人間の魂は、感じ取りにくいのか」

 タエは下腹部をなでてみる。ハナはその部分をじっと見た。

「私でも分かるよ。小さい魂の欠片が、お姉ちゃんの中にある。お姉ちゃんの魂とは、違う魂が。これが竜杏なんやね」

「本当!?」

「ハナ殿、今の話――」

 竜杏もハナが帰ってきたので庭に出てきたようだ。彼女の話に、思わず声を上げた。

「ちゃんとお姉ちゃんの中にあるよ。術は成功してる。よかったね!」

 タエと竜杏が顔を見合わせた。確約をもらい、希望の道が繋がったと、喜びが込み上げてくる。

「朝餉の用意が出来ましたよー」

 藤虎と煉が呼びに来てくれた。竜杏とタエが、手をつないで歩いていく。

「お姉ちゃん、キレイになったね」

 ハナが呟いた。

「そ、そう? 竜杏にも言われたけど」

「一つ大人になったから、かな」

 竜杏がふっと笑った。タエは思わず顔を赤く染め、俯くのだった。



「御館様」

「ん? 何」

 朝餉も終え、仕事に取り掛かろうとしていると、藤虎が声をかけてきた。

「魂を切り離す術、成功して良かったです」

「ああ。安心したよ。タエにも感謝してるんだ」

 藤虎が嬉しそうに微笑んだ。

「本当に、穏やかに笑えるようになりましたね。私も嬉しい限りです」

「そ、そう……」

 そう言われると、照れてしまう。

「それで、今夜はどうされるんですか?」

「……今夜?」


 今夜はタエが代行者の仕事で、自分は代行者の講義をハナから受けるつもりだ。藤虎も分かっているはずだったので、竜杏は何を言われているのか分からず、首を捻った。

「それは、私からも一つ提案が」

 いきなりハナが現れて、竜杏と藤虎は二人で「わっ」と驚いた。

「提案? 藤虎も何?」

 二人に詰め寄られ、竜杏は珍しくたじろいでいる。側にいる煉はじっと成り行きを見守っていた。

「分からない御館様ではありますまい」

「悪くない相談だから♪」




 昼間、竜杏は妖怪についての講義をハナから受け、続いてタエと鍛錬に勤しんだ。妊婦になったわけではないので、タエも激しい運動は大丈夫との事。高龗神に竜杏の魂を取り出してもらわない限り、子宮に魂は入ったままなので、特に気にする事もないらしい。タエも竜杏に戦闘技術を高めてもらおうと、全力で動いた。竜杏は、余計な事を考えないように全力で動く。



 そして、太陽が山に沈み、夕餉も終えると、タエが部屋に戻ってきた。竜杏は馬の世話に行っている。


「そんじゃ、今夜は私ね」

「待って、お姉ちゃん」

 寝る準備をしようとしていたタエに、待ったをかけるハナ。

「どうしたの?」

「今夜も私が行く」

「えぇ!? 連続なんて、悪いよ」

「いいの。ついでに言うと、明日も私が行くから」

「ど、どしたの、ハナさん?」

 かなり上機嫌だ。タエは、ハナの様子が理解できずにいた。

「ハナさん、私、行けるよ? 竜杏の魂は絶対守るし」

「そうじゃないの。今夜と明日は、お姉ちゃんと竜杏の為」

「私と、竜杏の?」

 竜杏と言われるとドキリとする。何かあっただろうか。考えてもよく分からない。



「お姉ちゃん、竜杏のお嫁さんになりたくない?」


読んでいただき、ありがとうございました!

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