145 契り
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この話では、途中に性的表現が含まれます。
がっつりとは書いていませんが、気になる方は、サラッと飛ばして下さい。
「まぁ、恋人同士なら、いつかは通る道なんだし、不思議じゃあないわよね」
竜杏は仕事があるので、自室にこもっている。タエは台所で食器の片付けだ。顔を真っ赤にして頷き、承諾の意を告げると、竜杏はぎゅっと抱きしめてくれた。その後の昼食は、頭が竜杏との会話でいっぱいになっており、緊張と不安で味が全く分からなかった。
「そりゃ、いつかは……とは思ってたけど、まさかそれが、いきなり今日とは……」
彼氏彼女の関係になれば、次の段階に入ることも分かっていたが、緊張で今から手が震えている。
「ハナさんっ、どうしよう!! 私、どうすればいいんか、全く知らんのやけどっっ」
涙目でハナに訴える。未知の領域なので、全くの勉強不足。
「こんなん恥ずかしくて人に聞けへんし、竜杏がっかりするかも……」
切羽詰まる姉を見るのも珍しい。ハナは、高龗神に聞いた話を思い出していた。
「高様はお互い初めてだって承知の上で、あの巾着を渡したんだって。そう手紙に書いてあったって」
「……それもなんか恥ずかしいな」
なんでもお見通しなので、何も言えない。
「だから、術の札に秘薬も籠めてあるから大丈夫だって言ってたよ」
「秘薬?」
「どうすればお互い幸せになれるか、本能に働きかけるから、不安に思う事はないって」
「本能……」
上司の言う事ならと、タエは信じることにした。緊張するが、なるようにしかならない。腹をくくらなければ。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「竜杏の魂魄解離術の為って思うだろうけど、二人が想い合っての事だって、忘れないでね」
「……うん!」
術を成功させる為だが、その前に、二人の幸せが大前提だとハナは言ってくれた。タエもそれをしっかりと胸に刻み込んだ。
この日は竜杏の仕事の為、鍛錬はお休みとなった。緊張でぐらぐらになっているタエと竜杏にとっては、とてもありがたかった。お互いの顔を見るなり赤面するので、ハナは苦笑するしかない。事態を知った藤虎は涙を流して喜び、夕餉は赤飯やら前祝いの食事を張り切って作っていた。
夜。
「体はいつもよりしっかりキレイにしたし、後はコレか……」
手の平に乗る小さな巾着袋。コレを使う時が来るとは。全てを知った上で、上司はコレを渡したのだと知り、タエは感謝した。コレがなければ、竜杏の魂を受け入れる事が出来なかったのだから。
(あとは高様と竜杏を信じよう!)
タエは腹を括った。
「お姉ちゃん。私、そろそろ行くね」
ハナが声をかけた。タエが縁側に出ると、今夜はキレイな満月だ。竜杏もハナを見送りに出ていて、目が合うとタエの心臓は痛いくらいに跳ねた。竜杏がハナに声をかける。
「気を付けてね」
「うん。二人とも、がんばって」
「う、うん……」
二人の初々しい反応に、ハナは笑顔になると、いつも通り夜空に消えていく。煉も空気を読み、今夜は藤虎と一緒にいる。
完全に二人きりだ。今夜も勉強どころではないので、もうやることは一つ。
「タエ」
名前を呼ばれてドキリと心臓が痛くなる。優しく手を握られて、竜杏の顔を見上げた。月明りに照らされたその顔は、とても優しく、かっこいい。タエも覚悟を決めて、竜杏の部屋に入った。
「こんな小さい紙に、すごい術が籠められてるなんて」
竜杏と話し合い、高龗神の術の札は二人一緒に飲もうと決めた。向かい合って座り、巾着の中の札を手に乗せる。小さい紙に、字が小さく一行縦に書かれている。達筆すぎて読めないが、とてもシンプルでスマートな札だ。タエも頷いた。
「さすが神様」
顔を見合わせ頷き合う。そして同時に口の中に入れると、一瞬で溶けてなくなった。それには二人とも驚いた。
「これで、いいんだよな……」
「う、うん……」
恥ずかしさが頂点に達し、二人とも、黙って俯いてしまった。タエは白の襦袢を着ている。拳を膝の上でぎゅっと握っていると、竜杏の手が触れた。
「あっ」
優しく手を引かれ、竜杏に抱きすくめられる。
「……ものすごく緊張してる。怖い?」
竜杏の体温が温かい。その温もりが気持ちを落ち着かせてくれる。タエは首を横に振った。
「ちょっと不安はあるけど、怖くはないよ。竜杏を、信じてるから」
ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。竜杏は唇をタエの耳に寄せる。直接注ぎ込まれるその声に、タエはぞくりと反応した。
「術の為だからって、思ってるかもしれないけど……思い違い、しないでよ。俺は……ずっと、こうしたいって思ってた」
「っ……りゅ……」
「タエは未来に帰るから、傷付けちゃいけないって……。正直我慢、してた。ごめん。俺は魂魄解離術を口実にしたのかも……」
魂を切り離す事は、竜杏がずっと考えていた事だ。タエは絶対賛成してくれるだろうと思っていた。術の発動方法をハナから聞き、戸惑った反面、喜んでしまった事も事実。そうしてタエの全てを手に入れる。全く愚かでバカな考えだと、自分を責めていた。タエに責められても仕方ない。
「私もね、いつかは、この時がくるかもって、ちょっと考えてたんだ……。恥ずかしいし、どうしたらいいか分かんなくて、竜杏をがっかりさせるかもしれないけど……。ちゃんと、覚悟してるから。竜杏は、自分を責めなくていいよ。私の事、ちゃんと想ってくれてるって分かってるし、私が竜杏を好きな気持ちは、変わらないから」
微笑むタエの顔は真っ赤だ。
「わ、私こそごめんっっ! い、今から謝っとく」
切羽詰まったタエを見て、竜杏はふっと笑うと、タエを強く抱きしめた。
「タエには敵わないな。……タエの全部が欲しい……良い?」
こくんと頷くタエ。頬に手を添え、唇を重ねた。
横たわる二つの影が重なる。
(竜杏に触れられる所……熱い。竜杏にも、触れたい……)
タエの体を滑る竜杏の長い指。その触れる所全てが熱く感じる。恥ずかしいのに、もっと触れてほしいと思う自分に気付く。着物がどんどん乱れていく。
「んっ」
思わず声が漏れた。自分でも初めて聞く声に、恥ずかしくて顔を覆いたくなった。
「顔、隠さないで。……こんなにキレイな体、初めて見た」
竜杏が余裕のない表情でタエを見下ろす。その表情だけでも、着物を脱がされたタエの体の芯は熱くなった。
(タエがどうしてほしいか分かる。どこをどう触れてほしいかも……)
触れる度に反応するタエの体。初めてのはずなのに、タエの体を知り尽くしているかのようだ。触れたタエの肌は、きめ細かで、滑らかで、触り心地が良い。ずっと求めていた。ずっと触れていたいと思える。
(秘薬の力、恐るべし……)
同じ事を思ったが、波のように押し寄せる欲求と快楽には逆らえない。二人は溺れるだけ、溺れてしまえと言わんばかりに、互いを求め、愛し合った。
「……いくよ」
竜杏が苦しそうに言った。タエも頷く。
(どうか、成功しますように!)
「っく……ぐあぁっ!」
「竜杏っ」
絶頂に達した竜杏が、タエの中に己の魂を流し込んだ。自身の魂を切り離す痛みは、かなりのもので、全身に電撃をくらったかのようだった。力が入らなくなり、タエの上にぐったりとのしかかる。タエはそんな竜杏をしっかりと受け止めた。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
そう言うが、まだ体と魂が痺れている感覚がある。汗だくになっている彼の額にそっと触れた。息を切らしているが、微笑むと、タエの頬に手を沿える。
「タエは、なんともない?」
「うん。私は大丈夫。ちゃんと竜杏の魂、受け止められたかな」
「信じよう。これできっと、未来でも会えるはずだ」
「うん!」
やれる事はやった。後は、望みを捨てない事だ。
「竜杏。私、幸せやよ」
「俺も」
二人は口付けを交わし、微笑み合いながら、抱き合った。
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