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月夜の代行者  作者: うた
第三章
148/330

145 契り

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!


この話では、途中に性的表現が含まれます。

がっつりとは書いていませんが、気になる方は、サラッと飛ばして下さい。

「まぁ、恋人同士なら、いつかは通る道なんだし、不思議じゃあないわよね」


 竜杏は仕事があるので、自室にこもっている。タエは台所で食器の片付けだ。顔を真っ赤にして頷き、承諾の意を告げると、竜杏はぎゅっと抱きしめてくれた。その後の昼食は、頭が竜杏との会話でいっぱいになっており、緊張と不安で味が全く分からなかった。

「そりゃ、いつかは……とは思ってたけど、まさかそれが、いきなり今日とは……」

 彼氏彼女の関係になれば、次の段階に入ることも分かっていたが、緊張で今から手が震えている。

「ハナさんっ、どうしよう!! 私、どうすればいいんか、全く知らんのやけどっっ」

 涙目でハナに訴える。未知の領域なので、全くの勉強不足。

「こんなん恥ずかしくて人に聞けへんし、竜杏がっかりするかも……」

 切羽詰まる姉を見るのも珍しい。ハナは、高龗神に聞いた話を思い出していた。

「高様はお互い初めてだって承知の上で、あの巾着を渡したんだって。そう手紙に書いてあったって」

「……それもなんか恥ずかしいな」

 なんでもお見通しなので、何も言えない。

「だから、術の札に秘薬も籠めてあるから大丈夫だって言ってたよ」

「秘薬?」

「どうすればお互い幸せになれるか、本能に働きかけるから、不安に思う事はないって」

「本能……」

 上司の言う事ならと、タエは信じることにした。緊張するが、なるようにしかならない。腹をくくらなければ。

「お姉ちゃん」

「ん?」

「竜杏の魂魄解離術の為って思うだろうけど、二人が想い合っての事だって、忘れないでね」

「……うん!」

 術を成功させる為だが、その前に、二人の幸せが大前提だとハナは言ってくれた。タエもそれをしっかりと胸に刻み込んだ。


 この日は竜杏の仕事の為、鍛錬はお休みとなった。緊張でぐらぐらになっているタエと竜杏にとっては、とてもありがたかった。お互いの顔を見るなり赤面するので、ハナは苦笑するしかない。事態を知った藤虎は涙を流して喜び、夕餉は赤飯やら前祝いの食事を張り切って作っていた。





 夜。


「体はいつもよりしっかりキレイにしたし、後はコレか……」

 手の平に乗る小さな巾着袋。コレを使う時が来るとは。全てを知った上で、上司はコレを渡したのだと知り、タエは感謝した。コレがなければ、竜杏の魂を受け入れる事が出来なかったのだから。

(あとは高様と竜杏を信じよう!)

 タエは腹を括った。

「お姉ちゃん。私、そろそろ行くね」

 ハナが声をかけた。タエが縁側に出ると、今夜はキレイな満月だ。竜杏もハナを見送りに出ていて、目が合うとタエの心臓は痛いくらいに跳ねた。竜杏がハナに声をかける。

「気を付けてね」

「うん。二人とも、がんばって」

「う、うん……」

 二人の初々しい反応に、ハナは笑顔になると、いつも通り夜空に消えていく。煉も空気を読み、今夜は藤虎と一緒にいる。



 完全に二人きりだ。今夜も勉強どころではないので、もうやることは一つ。



「タエ」

 名前を呼ばれてドキリと心臓が痛くなる。優しく手を握られて、竜杏の顔を見上げた。月明りに照らされたその顔は、とても優しく、かっこいい。タエも覚悟を決めて、竜杏の部屋に入った。

「こんな小さい紙に、すごい術が籠められてるなんて」

 竜杏と話し合い、高龗神の術の札は二人一緒に飲もうと決めた。向かい合って座り、巾着の中の札を手に乗せる。小さい紙に、字が小さく一行縦に書かれている。達筆すぎて読めないが、とてもシンプルでスマートな札だ。タエも頷いた。

「さすが神様」

 顔を見合わせ頷き合う。そして同時に口の中に入れると、一瞬で溶けてなくなった。それには二人とも驚いた。

「これで、いいんだよな……」

「う、うん……」

 恥ずかしさが頂点に達し、二人とも、黙って俯いてしまった。タエは白の襦袢を着ている。拳を膝の上でぎゅっと握っていると、竜杏の手が触れた。

「あっ」

 優しく手を引かれ、竜杏に抱きすくめられる。

「……ものすごく緊張してる。怖い?」

 竜杏の体温が温かい。その温もりが気持ちを落ち着かせてくれる。タエは首を横に振った。

「ちょっと不安はあるけど、怖くはないよ。竜杏を、信じてるから」

 ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。竜杏は唇をタエの耳に寄せる。直接注ぎ込まれるその声に、タエはぞくりと反応した。

「術の為だからって、思ってるかもしれないけど……思い違い、しないでよ。俺は……ずっと、こうしたいって思ってた」

「っ……りゅ……」

「タエは未来に帰るから、傷付けちゃいけないって……。正直我慢、してた。ごめん。俺は魂魄解離術を口実にしたのかも……」


 魂を切り離す事は、竜杏がずっと考えていた事だ。タエは絶対賛成してくれるだろうと思っていた。術の発動方法をハナから聞き、戸惑った反面、喜んでしまった事も事実。そうしてタエの全てを手に入れる。全く愚かでバカな考えだと、自分を責めていた。タエに責められても仕方ない。


「私もね、いつかは、この時がくるかもって、ちょっと考えてたんだ……。恥ずかしいし、どうしたらいいか分かんなくて、竜杏をがっかりさせるかもしれないけど……。ちゃんと、覚悟してるから。竜杏は、自分を責めなくていいよ。私の事、ちゃんと想ってくれてるって分かってるし、私が竜杏を好きな気持ちは、変わらないから」

 微笑むタエの顔は真っ赤だ。

「わ、私こそごめんっっ! い、今から謝っとく」

 切羽詰まったタエを見て、竜杏はふっと笑うと、タエを強く抱きしめた。

「タエには敵わないな。……タエの全部が欲しい……良い?」

 こくんと頷くタエ。頬に手を添え、唇を重ねた。



 横たわる二つの影が重なる。



(竜杏に触れられる所……熱い。竜杏にも、触れたい……)

 タエの体を滑る竜杏の長い指。その触れる所全てが熱く感じる。恥ずかしいのに、もっと触れてほしいと思う自分に気付く。着物がどんどん乱れていく。

「んっ」

 思わず声が漏れた。自分でも初めて聞く声に、恥ずかしくて顔を覆いたくなった。

「顔、隠さないで。……こんなにキレイな体、初めて見た」

 竜杏が余裕のない表情でタエを見下ろす。その表情だけでも、着物を脱がされたタエの体の芯は熱くなった。

(タエがどうしてほしいか分かる。どこをどう触れてほしいかも……)

 触れる度に反応するタエの体。初めてのはずなのに、タエの体を知り尽くしているかのようだ。触れたタエの肌は、きめ細かで、滑らかで、触り心地が良い。ずっと求めていた。ずっと触れていたいと思える。


(秘薬の力、恐るべし……)


 同じ事を思ったが、波のように押し寄せる欲求と快楽には逆らえない。二人は溺れるだけ、溺れてしまえと言わんばかりに、互いを求め、愛し合った。


「……いくよ」

 竜杏が苦しそうに言った。タエも頷く。

(どうか、成功しますように!)

「っく……ぐあぁっ!」

「竜杏っ」

 絶頂に達した竜杏が、タエの中に己の魂を流し込んだ。自身の魂を切り離す痛みは、かなりのもので、全身に電撃をくらったかのようだった。力が入らなくなり、タエの上にぐったりとのしかかる。タエはそんな竜杏をしっかりと受け止めた。

「大丈夫?」

「あ、ああ……」

 そう言うが、まだ体と魂が痺れている感覚がある。汗だくになっている彼の額にそっと触れた。息を切らしているが、微笑むと、タエの頬に手を沿える。

「タエは、なんともない?」

「うん。私は大丈夫。ちゃんと竜杏の魂、受け止められたかな」

「信じよう。これできっと、未来でも会えるはずだ」

「うん!」


 やれる事はやった。後は、望みを捨てない事だ。


「竜杏。私、幸せやよ」

「俺も」


 二人は口付けを交わし、微笑み合いながら、抱き合った。


読んでいただき、ありがとうございました!

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