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月夜の代行者  作者: うた
第三章
147/330

144 協力

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 翌日。タエは首を傾げて竜杏を見ていた。


「ハナさん。竜杏、どうしたの?」

 朝起きて、挨拶はいつも通りした。朝餉も一緒に食べた。さして変わらない雰囲気だったのだが、仕事が手につかないらしく、縁側で背中を丸めて「あー……」だの、「はぁ……」だの、唸ったり、ため息をついている。それが、しばらくずっと続いているのだ。今まで見たことのない様子に、話しかけようにも、話しかけづらい。

「人生で一番悩んでる時期みたい。そっとしといてあげよ」

「?」

 ハナも苦笑していた。




「覚悟、決めちまえば?」

「煉……」

 竜杏の悩みっぷりに、業を煮やした煉が隣に座った。昨夜煉も同じ部屋にいたので、全て知っている。

「ずっとタエと一緒にいたいんだろ? タエも同じ考えなら、悩む必要ないだろ」

 竜杏は煉を見た。

「タエを大事にしてる事はよく分かってる。でも今悩んでるのって、竜杏だけだ」

「俺だけ……」

 うんうんと頷く。

「二人の事だろう。ちゃんとタエに話せよ。それから二人で悩め」

 頭をがんと殴られたようだった。煉はちゃんと周りをよく見て、状況を把握している。小さいから幼いと思っていたのは間違いだったようだ。竜杏は申し訳なく思った。

「分かったよ。貞光さんにも言われたしな。煉は、しっかりしてるんだな」

「あったり前だ。百年は生きてるからな」

「ひゃ……!? 人生の大先輩じゃないか。すまない。見くびってた」

「ひひっ」

 にかっと笑うその顔の清々しさに、竜杏は、自分の悩みがどれだけ小さいかを思い知った。そして、それがどれだけ愚かな悩みかという事も。

「自分一人では無理な術だもんな。ちゃんと話すよ」

「そーしろ!」

 煉がとても頼もしい。竜杏は、彼と友になれて、本当に良かったと思った。




「うーーん……」

 タエは台所で包丁を持ったまま唸っていた。後ろでは、藤虎が昼餉の下準備をしている。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 ハナが不思議に思い、声をかけた。

「いやぁ。私、同じのばっかり作ってるやん? 他の料理も出来たらと思ったんやけど、思いつかなくて」

「こっちとあっちじゃ、調味料も違うし、難しいやんね。お姉ちゃん、よくやってる方やと思うよ?」

「そうですよ。いろいろ新しい調理法を教えてもらえて、料理の幅が広がりました」

 藤虎も笑顔でそう言ってくれる。

「なら良いんですけど。もっとお母さんに、教えてもらえば良かったなぁ」


「母君がどうしたの?」


「うわっ、びっくりした。竜杏」

 竜杏が台所にひょっこり顔を出したのだ。タエは完全に油断していたので、驚いた。

「お母さんに、料理をもっと教えてもらえば良かったなって」

 そうすれば、竜杏達に未来の料理を振舞えたのにと話す。そう考えている事を知った竜杏は、心がほわりと温かくなった。

「今でも十分だから、考え過ぎなくていいよ。藤虎、ちょっとタエを借りてもいい?」

「どうぞ。ごゆっくり」

 意味深な最後の一言に、眉を寄せるが、竜杏はタエの手を引いた。

「じゃ、来て」

「え、あ、お味噌汁が――」

「仕上げは私がやっておきます。タエ様は行ってください」

「じゃあ、お願いします」

 タエが藤虎に礼を言っていると、竜杏はハナと目を合わせた。

「話してくる」

「がんばって!」

 ハナのエールを受け、竜杏はタエを連れて部屋へと戻った。

「話、ですか」

 藤虎が首を捻った。

「藤虎殿。この時代の恋愛事情って、どういうものなの?」

 ハナと藤虎も話し出した。



「あの、話って?」

 竜杏の部屋に入ると誰もいない。煉は外にいるようだ。正面に向かい合って座るが、タエの左手は繋がれたまま。

 竜杏は、しばらく黙っていた。手は握ったままだ。緊張しているのか、彼の右手は汗ばんで来ている。

「どうしたの?」

 そう尋ねるも、竜杏は目が泳いでいて若干頬が赤い。見た事がない表情に、タエはじっと見入ってしまった。

「……あのさ」

 小さく話し出した竜杏。タエは笑顔で頷いた。

「うん。何?」

「俺の魂は、叉濁丸の戦いで消えるだろ?」

「うん……」

 その事実に、タエの表情も曇る。

「でも、消える魂とは別に、魂を残しておけるとしたら……」

「? どういう――」

 竜杏の言葉を、うまく解釈できない。

「俺の魂を切り離して、いつか復活できるような術があれば……。タエは、賛成してくれる?」

 タエの瞳が輝きだした。

「竜杏が、完全に消えないの? 未来でも、また会えるの?」

「ああ……」

「そんなん! 賛成するに決まってるやん!! 竜杏が消えへんなんて、すごい! 奇跡みたい!!」

 喜ぶタエだが、はっと気付いた。

「でもそれ、蘆屋道満の術? あれって禁忌じゃ……」

「実は、ハナ殿に相談して、高龗神様に聞いてもらったんだ。そう言う事が、禁忌を犯さずにできるかって。そしたら、方法を教えてもらったんだ」

「うそ! 二人でそんなんしてたん!? 私にも、相談して欲しかったな」

 タエは眉を寄せて俯いた。一応彼の恋人だ。自分をのけ者にされたのは、少なからずショックだった。

「ごめん。未来に戻って、俺の事を忘れてちゃんと生きるなら、何も知らない方が良いかと思って」

「なにそれ……。竜杏との事、遊びやと思ってんの? 未来に帰っても、竜杏を忘れられる訳ないやんか!」

 竜杏は驚いていた。タエの目には涙が溜まっている。眉を吊り上げて、こちらを睨んでいるのだ。怒っているのに、その顔が可愛くてたまらないと思う自分は重症だろうかと、竜杏は思っていた。タエの頬に触れ、瞳に溜まる涙を拭った。

「ごめん。タエの気持ちを、軽く見てたわけじゃないんだ。どれだけ想ってくれてるか、よく分かってる。だから、俺の我儘に巻き込むのは、悪いと思ったんだ」

 すん、と鼻をすするタエ。竜杏の手を両手で包んだ。

「で、その我儘に、私を巻き込む事にしたの? 話すって事は、そういう事でしょ?」

 竜杏がう、という顔をした。

「その術は、俺一人じゃ出来ないんだ……。タエの協力が必要で……。気持ちが一つにならないと、できないらしくて」

 タエに内緒で出来ないかとも思ったが、ハナはタエの気持ちもないと、成功する確率が減るのだと告げた。それで竜杏は観念したのだ。

「協力するよ。竜杏が消えないなら、私に出来る事なら、なんでも!」

「……ほんとに?」

 竜杏の不安そうな眼差しがタエを写す。タエの顔は自信満々だ。

「まっかせなさい! で、私はどうすればいいの?」

 竜杏が話そうとするが、段々顔が赤くなり、俯いてしまった。

「竜杏?」

 顔を覗き込むと、目が合った。握られた手に力が籠められる。


「……高龗神様に、小さい巾着をもらったって聞いたけど、今も持ってる?」


「へ?」

 上司にもらった小さな巾着といえば、一つしかない。カバンの中にあったはず。

「ああ、あるよ。確か、アレって――」

 高龗神に言われた事を思い出し、タエの顔も赤く染まった。

「え……」

 しばらく見つめ合う二人。

「俺の切り離した魂は、タエの子宮に保存される。それを未来に持って帰ってもらって、高龗神様に復元術をかけてもらうんだ」

 タエは顔が赤いまま、竜杏の話を聞いていた。


「もう分かったんじゃない? 魂を切り離す魂魄解離術は――契りを結ぶ事なんだ」


読んでいただき、ありがとうございました!

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