143 魂魄解離術
ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!
夜。
「じゃあ、行ってきます!」
「気を付けて」
「しっかりね、お姉ちゃん」
「はーい!」
元気いっぱいに返事をして、タエが今夜も月明りの中へ飛び出して行った。竜杏とハナは、顔を見合わせる。
「じゃあ、話そうか」
「ああ」
「これが、魂魄解離術の術式が込められてる札よ。中に入ってる」
竜杏の部屋で向かい合って座ると、ハナが彼の前に小さな巾着袋を差し出した。手の平に置いても小さい。それを受け取り、中を見れば、小さな紙きれが一枚あるだけだ。
「これが?」
「そう。術を発動させる前に、その札を飲み込むの」
「え、これを飲むの!?」
竜杏は驚きを隠せなかった。
「この術は、竜杏だけじゃ成立しない。お姉ちゃんの協力も必要よ」
「タエの協力……?」
頷いたハナは、少し言いにくそうだった。
「竜杏の魂を切り離したら、その切り取った魂を入れておく器が必要でしょ?」
そこまで聞いた竜杏がはっとなる。
「その器が、タエ?」
こくり、と頷くハナ。
「自分の中に持っておくことは出来ないの? タエに俺の魂を持っててもらうって、危険じゃないの?」
「竜杏の中にあれば、また一つに戻ってしまう。一つの器の中に、魂が二つ入ってても平気なのは、女だからなの」
竜杏は、首を傾げた。
「竜杏の魂を入れておく場所は、子宮よ」
「え……しきゅう?」
さすがの竜杏も、ハナの言葉の意味が分からなかったようで、何度も反復する。
「しきゅう……しき……。え、子宮!?」
「そう」
「ま、待ってよ。タエの子宮に俺の魂を入れるの!? 子宮って、赤子が宿る所でしょ!?」
医療知識は一通りあるので、正真正銘、焦っている。
「女が魂を二つ以上その身に持てるのは、お腹の中に赤ちゃんの魂も宿せるから」
ハナが分かりやすく説明する。
「だから、この術には、お姉ちゃんが欠かせないの。二人の気持ちが一つにならないと、この術は完成しない。無事成功したら、そのまま竜杏の魂は、お姉ちゃんの中にあるまま未来に行って、高様に復元術を施してもらう事になるわ」
「……」
竜杏は、開いた口が塞がらない。それでもなんとか声を絞り出す。
「じゃ、じゃあ……、この術、どうやって発動させるか、聞いていい……?」
聞きたくないような、聞いてはいけないような。竜杏の心臓はどくどくと脈打っていた。心音が耳の側で聞こえる。
「もう分かってるんじゃない?」
吹っ切れたハナは笑顔だ。その笑顔が眩しすぎる。
「契りを結ぶしかない」
ぱさり。
竜杏の手に乗っていた巾着袋が、落ちた。
読んでいただき、ありがとうございました!