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月夜の代行者  作者: うた
第三章
138/330

136 代行者とは

ブックマーク・評価・感想、ありがとうございます!

 タエは竜杏を見た。


 竜杏が見たタエの表情には、迷いが見える。

「タエ?」

「うん……」

 ハナと約束したのだ。竜杏にちゃんと話して、納得してもらって、引き受けてもらわなければいけない。そうしなければ、未来の京都はないのだから。


「竜杏が寿命を全うしたら、私達は、竜杏の魂を高龗神様の所へ連れて行く事になってるの……。私達と同じ、代行者になってもらう為に」


 竜杏は驚いて目を見開いた。

「俺が、代行者?」

 頷くタエ。

「高様の眷属になるの。そうなると、輪廻の輪から外れて、魂の故郷には戻れないし、もう転生は出来ない。代行者は、高様の管轄であるこの京を守る為に、戦い続けなくちゃいけないの……。敗北して、魂が消えるその時まで、ずっと……」

 竜杏は以前、ハナが言っていた事を思い出した。



――神の眷属になるということは、通常の魂の循環の全てを放棄することだから――



(この事だったのか)

 ようやく合点がいった。

「それが、代行者の契約か」

「うん」

 タエの表情は暗かった。

「ずっと、妖怪に苦しんできたのに、死んでからも妖怪と関わり続けろなんて……辛いと思う。ずっと竜杏を見て来たから、なんか、申し訳なくて……」

 タエは、竜杏を気遣っているのだ。彼の境遇を知っているからこそ、この話は重い。

「ハナ殿に聞いたけど、タエは代行者になる時、即決したって。迷わなかったの?」

 タエは、え? と彼を見た。

「そうだなぁ」

 契約した時の事を思い出す。

「ハナさんは、私を代行者にはしたくなかったから、最初は反対してたね」

「そりゃそうでしょ。恩人の姉の魂を戦いに巻き込むわけには、いかないと思ってたから」

 ハナは肩をすくめていた。

「私にとっての恩人は、もちろんハナさんもだけど、高様への感謝が大きかったから、その恩を返したいって思ったんよ。だから、あんまり迷わなかったかなぁ」

「神様が、恩人?」

 竜杏が首を捻った。タエは少し照れくさそうに話す。

「ハナさんが生きてた頃、病気になって、もう治らないって自覚した時、貴船神社に行ってお願いしたの。『ハナさんが、苦しまずに逝けますように』って」

 その話はハナから以前聞いた。タエは一度決めたら迷わない、潔いと。

「その願いを高様はちゃんと叶えてくれたから、今度は、私が恩返ししなくちゃと思って。ハナさんを一人で戦わせるわけにもいかなかったし。私と二人なら、最強になれるって言ってくれたから、決断できた」

「タエは、義理堅いんだね」

「そう、かな? あはは」

 照れて笑っている。彼女はそれを自然とやってのけているが、実際、そう簡単にはいかないと竜杏は分かっていた。誰かの為に、自分も共に困難を背負うという覚悟は、なかなか出来ないものだ。自分の身はかわいいものだから。タエとハナの関わり方や、戦いを見てきたので、本当にこの二人は凄いと思う。

「まぁ、それだけじゃないけどね」

「?」

 ハナの言葉に竜杏が首を捻ると、にやりと笑っていた。

「神様に報酬を要求するなんて、前代未聞な事をやったしねー」

「その話ね!」

 タエは頬を赤くした。

「報酬?」

「基本給に、妖怪一体に付き、いくらって金額設定して、しっかり稼いでるの」

 ハナが笑いながら話す。呆れた竜杏の視線が痛い。

「いやもう、タエは人間超えたな」

 竜杏の正直な感想だ。神様から報酬とは。

「こっちは生身の体での生活もありますからぁ? 命がけの戦いだし、ちょーっとばかり頂いてもバチは当たらないんじゃない? と思ったら、高様もノッてくれたし~」

 あははーと笑っている。竜杏も笑っていた。

「でもタエらしいな。尊敬するよ」

「本当!? いやぁ、照れるなぁ」

「褒められてへんよ、それ」

 ハナが突っ込む。そして三人で笑った。こんな会話が楽しくて、幸せで。竜杏は本気でタエ達を尊敬していた。過酷な運命を背負っているはずなのに、いい感じで気を抜いている。

「二人と同じ代行者になんて、俺に出来るのかな……」

 自信など全くない。自分がタエとハナのように戦えるのかと考えれば、到底敵わないと自覚している。

「私達は、竜杏の事をこう聞いてるの。『京の歴代代行者で最強』だって」

 ハナの言葉に、竜杏は目を瞬かせた。

「……俺が?」

 タエも頷いた。

「私との鍛錬で、私の動きに着いてこられるでしょ。今じゃ互角に動けてる。普通の人で、そんな事できる人はまずいないよ。剣の腕も超一流だし、素質は十分ある」

 しかし、タエの表情は曇っている。

「でも私は、無理強いはしたくないよ。代行者は、人を守るけど、私達の存在を知る人は滅多にいない。やってる事が無駄じゃないかって、思う事だってあるかもしれないし。何より、竜杏の気持ちが一番だから、すぐに決めろとは言わない。ちょっと、考えてみて」



 それから少し話して、タエは代行者の仕事に、ハナは竜杏の部屋で寝ている。彼はハナの寝顔を見ながら考えていた。

(俺も代行者になったら、夜に妖怪と戦うのか。負けて魂が消えるまで、永遠に……)

 しかし、永遠という言葉はないのだと気付いていた。

(二人が一番新しい代行者なら、俺の魂は未来でとっくに消滅してる。それに、タエが言っていた……)

 竜杏はちゃんと覚えていた。


――叉濁丸は、瘴気を全部出して抵抗しました。その瘴気を一人で受けたのが、京都歴代の代行者で、最強と言われた先輩だったんです――


(それが俺か……。俺は、叉濁丸と戦って、負けるのか……)

 自分の最期を知ってしまった今、どうすべきか。この話を断れば、タエ達はまた別の代行者を見つけるだろう。そうしてまた、時は変わらず過ぎていく。自分は普通に、輪廻の輪の中で、周りと同じように、また新たに生まれ変わるのだ。それが、普通の自然の摂理だろう。


 だが、そうすれば、未来は変わってしまう。


 タエ達にどんな影響があるのかは分からないが、叉濁丸から人々を守ろうとしても、被害が出たと言っていた。最強の称号をもらっていたとしてもだ。もし、自分よりも力の劣る代行者が叉濁丸と相対した時、その被害はどうだろう。

 京の都が、タエ達の生きる時代にどんな変化をもたらすのだろうか。愛するタエの生活が、変わってしまうかもしれない。それを思えば、簡単に断る事も出来ない。


(高龗神様はそれも全て分かって、タエをここに送ったのか? 俺がタエに惚れると知っているから。二人の生きる未来を守りたいなら、この話を受けるしかないのは目に見えている……)


 全ては、初めから決まっていた事だと理解するのに、時間はかからなかった。


 タエとハナは、出会った時からずっと守ってくれた。どんな妖怪にも怯まず、睨みを利かせて自分を守ってくれた。それだけではない。心も救ってくれた。幸せをもたらしてくれた。

(俺は、義理なんて言うのとは無縁の生活をしてきたから、自分が義理に厚いなんてこれっぽっちも思ってないけど)

 ハナを見た。幸せそうな寝顔だ。

(二人には恩がある。返しきれないほどの恩が。二人の為なら、神様の手の平の上だろうと、踊ってやろうって気になる。ちっぽけな義だろうけど、俺にとっては、その義を貫く立派な理由になる……)



 心は決まった。


読んでいただき、ありがとうございました!

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