限定にしたらホクホクです
さらに一週間が経ちました。
一日の営業を終えた魔法工房に、一人の女性がやってきました。
「はあーい。お久しぶり」
「あ、エイミ。お帰りなのです」
両手一杯のお土産を持って現れたのは、魔法工房の職人、エイミでした。
エイミはドンの幼なじみで、ドンと同い年の二十七歳。小さい頃から絵を描くことが大好きで、美術学校で学んだ芸術家肌の職人です。魔法工房では主にデザインを担当しています。アウトドア大好きの行動派でもあり、休暇が始まると同時に、南の海へダイビングへ行っていました。
「日焼けして真っ黒なのです」
「いやー、この二カ月、泳ぎまくってたわ。うわ、何そのお金?」
エイミは、スターが持っている札束に目を丸くしました。かなりの厚さで、紐で止めたら立つんじゃないか、ていうぐらいです。
「ふっふっふ、これは今日の売り上げなのです」
「なんと。どこかの貴族の注文でも取ったの?」
「違うのです。時計が売れたのです」
「時計?」
スターは、これまでのいきさつをエイミに話しました。
あの老紳士のために作った時計は、全部で七つ。老紳士を満足させることはできなかったのですが、時計としての出来はいいものです。せっかく作ったのにしまいこんでいてはもったいない、とスターが店先に飾っておいたのですが、それが噂になって、売って欲しいという問い合わせが殺到しました。
もちろん、こんなチャンスをスターが見逃すはずがありません。
「今日、オークションで売ったのです。予想の三倍の値段で売れたのです。原価はバッチリ回収できたし、儲けもバッチリ出たのです」
「ほー。そりゃすごい」
エイミは机の上のチラシを手に取りました。
『後にも先にもこれっきり。七つ限定の魔法工房モデル! 早い者勝ち! オークションは本日正午から!』
チラシには、そんな威勢のいい文字が踊っています。
スターは、このチラシを関係各所へ配ると同時に、この町の主要な通りにある取引先にお願いして張り出しました。そして、今後、魔法工房がこんなふうに作ったものを売ることなんてないだろう、という話を、さりげなく取引先に伝えました。ここで買い逃したらもう二度と入らない、そう思わせるためです。
「限定というと、とっても売れるのです。ホクホクなのです」
「商売上手ねえ。で、うちの大将は?」
「奥にこもってるのです」
エイミが奥の工房へ行くと、山のような資料に埋もれてうなっているドンがいました。
「はあい、マル。帰ったよお!」
「マルじゃない、ドンだ」
「もー、勘弁してよ、子供の頃からマル、て呼んでるだから」
実は、ドンの本当の名前は、マルティネスといいます。魔法工房の二代目代表になったときに、先代からドンという名前も継ぎました。ですが姉弟のように育ったエイミは、ドンのことを今でもマルと呼んでいます。
「お土産買ってきたぞ、感謝しろ」
「おー……置いといて」
ドンは何やら必死になって書いていました。エイミがのぞき込むと、時計の設計図のようでした。
「それ、私だけの時計、てやつ?」
「そうだよ……あ、これじゃだめか」
ドンはイライラしたように電卓を叩き、設計図に消しゴムをかけました。床には消しゴムのカスがたくさん積もっていました。相当、悪戦苦闘しているようです。
「大変そうね。できるの?」
「魔法工房にできないものはない」
ドンはきっぱりと言い切ると、ようやく顔を上げてエイミを見ました。
「そうだろ?」
「まあね」
「ま、何とか突破口は開けそうだ。よろしく頼むぜ」
「あら、私も?」
「もちろん。こいつは『青旗の依頼』さ」
「……マジ?」
ドンの言葉に、エイミは驚きました。
「悪いけどみんなに連絡しておいてくれないか。一カ月ほど、忙しくなるからな」




