営業妨害でしょうか
次の腕時計では、文字盤の飾りに工夫を凝らしました。
ですが、やはり老紳士を満足させることはできませんでした。
その次は斬新なケースにしてみました。
さらに次は、色を変え、ベルトにアルファベットをあしらった文字を飾りに入れました。
腕時計ではなく懐中時計にもしてみました。
置き時計にもしてみました。
ですが、どんな時計も老紳士を満足させられませんでした。
老紳士は時計を見ると、
「素晴らしい時計です」
と誉めてくれます。
ですがその後で、悲しそうに付け加えるのです。
「でも、私だけの時計ではありません」
スターとの勝負はもちろん、職人としての意地をかけて、ドンは時計の製作に取り組みました。カタログを分析し、デザインを考え、最高の部品を、持てるすべての技術を駆使して組み立てました。
そして、二カ月が過ぎました。
今度こそ、会心の出来の腕時計が完成しました。
その時計が完成した日のお昼過ぎに、魔法工房の職人の一人、刀鍛冶のカンがお店に顔を出しました。三十二歳で、がっしりした体格。刀を打つだけでなく、自身も相当な使い手です。
「ほー。たいしたものだ」
カンは時計を見て、感心しました。
「これを一人で作ったのか。大変だっただろう」
「ああ。早いとこ休暇が明けてくれないかねえ。俺一人じゃ、忙しくて仕方ないよ」
「半年も休みなしだったんだ。みんなぱーっと遊びたいさ」
カン以外の職人は、まるで顔を見せに来ません。
旅行にでも行っているのでしょう。
「しかしすごいな。これなら俺も欲しい」
「だろ。今度こそ満足させてみせるぜ」
「だが、今までのもたいしたものだぞ。もしかしたら、営業妨害じゃないのか?」
魔法工房は有名なお店です。それゆえ、いやがらせのような営業妨害もよくありました。もしあの老紳士が、魔法工房を困らせるためだけに時計を注文しているのなら、この時計だって駄目でしょう。
でも、ドンは感じていました。あの老紳士の、必死な思いを。
「それはないと思うがな」
「まあ、金は払うと言っているから、うちを破産させるつもりではないだろう。だが魔法工房にも作れない物がある、と言いふらすことならできるぞ」
何でも作れる魔法工房。それが売り文句なのです。一つでも作れない物があれば、魔法工房の看板に傷が付くのは確かでしょう。
「明日は俺もいようか?」
「いや、いい。そうだな、これも駄目だったら、ちょっと探りを入れてみるよ」
「そうしてくれ。それと、あんまりスターとケンカするなよ。お前たちの尻拭いはごめんだぞ」
ドンとスターのケンカが元で、ヤヤコシイことになったのは、一度や二度ではありません。十度や二十度でもありません。おそらく三桁です。いい加減懲りて欲しいというのが、他の職人共通の思いでした。
「なあスター」
カンが帰ると、ドンは難しい顔でスターに問いかけました。
「お前はどう思う?」
「よくわからないのです」
スターも難しい顔をしました。
ドンが二代目店主となり、先代が世界旅行に出かけてしまってから、悪質な嫌がらせが増えたのは確かです。無論、スターが全身全霊をかけて完膚なきまでに返り討ちにしていますが、ドンにはまだ、先代ほどのカリスマ性がありません。もしも悪意のある注文なら、うまく対応しないと、お店の評判を落としてしまうでしょう。
「でも……」
「なんだ?」
「あのお客様、とっても寂しそうなのです。あんなに寂しそうなお客様は、初めてなのです」
夢を叶えたい。
魔法工房に来るお客はその思いを胸にやってきます。そのためでしょう、多くの人が輝くような目をしているのです。
悪いことを企んで依頼してくる人は、とても目が濁っています。それはもう、一目でわかるぐらいです。普通の人はだませても、魔法工房の職人はだませません。
ですが、あの老紳士の目は、とても澄んでいます。悪意は感じません。でも、輝いてもいません。
必死で、思いつめた、悲しい思い。そういうものが、伝わってきます。
「とっても気になるのです」
「そうだな」




