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勝負が始まります

 「よおーし、わかった」

 「後悔しても知らないのです」

 「そっちこそ。覚悟しとけよ」


 魔法工房の事務室で、まるで火花を散らすようにして、にらみ合っている二人がいました。

 いつものことです。

 いまさらかもしれませんが、その二人を紹介しておきましょう。

 一人は、魔法工房二代目代表、ドンです。

 ドンは、世界でも数少ない魔道具の職人です。歳は二十七、初代ドンからお店を任されて、はや六年。男としても職人としても脂が乗り始めた頃で、この町ではもちろん、魔道具の業界でとても有名な若手職人でした。

 そのドンとにらみ合っているのが、魔法工房会計係、スター。

 スターは、頭の真ん中にある角が示している通り、人間ではありません。ドンが、生まれ故郷で出会い、どつきあいの喧嘩をした後に契約を交わした、使い魔と呼ばれる者です。見た目は七、八歳のものすごく可愛らしい女の子ですが、実は世界の半分を統べる大魔王の、五万四千三百二十一番目の娘です。

 事の発端は、いつもの通り、お店の帳簿についてでした。


 「経営者たるもの、店の財務状況は常に把握するものなのです」


 スターは、超一流の使い魔である(本当にそうなんです。スターと契約できる職人は、それだけで一流と言えます)自分の主人にふさわしい男とすべく、ドンを凄腕職人から一流経営者に鍛え上げようとしています。そんなわけで、まずは基本の帳簿管理からと、毎日毎日ドンに自分で帳簿をつけるように言っています。


 「俺は職人だ。数字は知らん」


 しかし、ドンはいつもそう答え、帳簿はスター任せです。だってめんどくさいですから。

 そして、たいていは大げんかとなり、魔法工房に勤める他の職人が「やかましい!」とハリセンではたいて、ケンカを止めることになります。

 ところが、今日はいつもと違います。

 他の職人がいません。このところずっと忙しくて休みが取れず、やっと仕事が片付いたので、今日から他の職人は長期休暇をとっていました。

 そんなわけで、二人のケンカは果てしなく続き、ついには勝負となりました。


 次の依頼をドンが一人でできたら、以後帳簿については何も言わない。

 もし一人でできなかったら、ドンは簿記の勉強をし、自分で帳簿をつける。


 勝負の内容はそう決まりました。


 「では、勝負開始だ」

 「望むところなのです」


 さて、この勝負、どうなることでしょう。

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