ところで二人の勝敗ですが
魔法工房は、時間の神に仕える天使の時計を作った。
その話は、その日のうちに町中へ伝わり、次の日には国中に、そして三日後には世界中に広がっていました。山のような新聞記者や雑誌記者が取材に訪れ、話を聞きたがった国王から使者も来ました。
「うー、目がまわるのです」
スターはそれらの対応を一手に引き受けました。なにせ、五人の職人は全員疲労困憊で、臨時休暇を取ってしまいましたから。
「スタッフの増員を希望するのですー!」
スターは、そんな魂の叫びを残しながら、押し寄せてくるお仕事を片っ端から片付けていきました。
やっとのことで騒ぎが落ち着き、魔法工房に平穏が帰ってきたのは、およそ一カ月後でした。
閉店後の、魔法工房事務室。他の職人はすでに帰り、ドンとスターだけが残っていました。
「ばっちりなのです」
「何が?」
いきなりガッツポーズを取ったスターに、ドンは手を止めて問いかけました。
「これなのです」
スターは、魔法工房のカタログを見せました。カタログには今まで作った作品がすべて納められています。そのカタログの一番最後のページにあるのは、あの時計です。本当は、完成したらすぐにカタログに載せるべきなのですが、騒ぎのせいでやっと今日整理できたのです。
「えーと、なになに?」
ドンはカタログを見ました。
依頼人は、天使。
依頼品は、自分だけの時計。
そして完成した依頼品の名は。
「ソウル・クロック?」
ドンは、ふーん、とうなづきました。
「なるほど、魂の時計か。いいんじゃないか?」
「ちっちっち、甘いのです、マスター」
スターはニヤリと笑うと、辞書を開き、ドンに示しました。
ほらここ、ここ、と言わんばかりにスターが指差す場所は、二箇所でした。ドンはその指差された場所を読みました。
SOUL … 魂
SOLE … たった一つの
「お、おおっ!?」
「これ、発音が同じなのです。まさに当店のための言葉なのです」
「いいね、やるじゃないか」
ドンも、会心のネーミングだと思いました。ここまでズバリと決まったのは、初めてかもしれません。
「たいしたもんだ。いよっ、スターちゃん最高! 君は最高の使い魔だ!」
「お褒めにあずかり光栄なのです」
スターはにっこりと笑いました。
「でも、勝負は勝負なのです」
結局、ドンは勝負には負けたことになりました。だって、一人であの時計を作ったわけではないのですから。ドンは勝負の無効を主張しましたが、スターはしれっとして言いました。
「勝負を取り消した覚えはないのです」
毎日の帳簿付けを自分がやる羽目になっては一大事と、他の職人もスターを支持しました。
「ああ……俺、なんで代表になんてなっちまったのかなあ……」
「愚痴ってもしょうがないのです。ほらほら、お勉強の手が止まっているのです」
「わぁーったよ!」
それから数カ月の間、魔法工房の前を通った人は、眠たそうな目で机にかじりついているドンをよく見ることになりました。
果たしてドンは簿記をマスターし、毎日の帳簿付をこなせるようになるのでしょうか。
「だー、ちくしょう! 俺は職人だあ!」
それは、またいつか、お話しましょう。




