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青旗の依頼です

 魔法工房に青旗が掲げられました。

 その噂は瞬く間に町中に広がりました。誰もがその噂でもちきりで、あの老紳士の耳にも入りました。


 「なんだ、お客さん知らないのかい?」


 魔法工房に青旗が掲げられる、それはどうことなのか。

 老紳士の問いに、カフェの主人は、まるで自分のことのように、自慢げに答えました。


 「青旗はな、魔法工房が今受けてる依頼に総力を挙げているという印さ。二代目になってからは、これで三度目だな。この旗が掲げられている間、他の依頼は受け付けてもらえねえ」


 しかし、それを残念がるような人はほとんどいません。なぜなら、魔法工房の青旗は、奇跡を起こす先ぶれの旗なのですから。


 「今回は、どんなとんでもない物を作るのか、楽しみだねえ」


 一度目の時は、水害に悩む人のために「虹の橋を架ける水晶」を作りました。二度目の時は、干ばつで苦しむ人のために、「いくらでも水が出る壺」を作りました。どちらも依頼主の国で国宝に指定され、大切に使われています。


 「そういや二、三日前に、時計屋の主人が呼ばれていたなあ。時計でも作るのかな?」


 カフェの主人はそう言いながら、老紳士の元から立ち去りました。

 老紳士は、主人のその言葉を聞いて、いても立ってもいられなくなり、魔法工房へ向かいました。道すがら、町中の人が魔法工房の噂をしていました。誰一人として失敗を口にする人はいません。大人から子供まで、魔法工房の職人たちが作っている「何か」の完成を心待ちにしていました。


 老紳士が到着したとき、魔法工房の前には荷物が山と積まれていました。仕入れなのでしょう、スターは帳簿を片手に、届けられた荷物を丹念にチェックしていました。


 「はい、確かになのです」

 「じゃ、こちらに受取印をお願いします」


 老紳士は、どう声をかけたものかと悩みました。すでに依頼はキャンセルしています。いまさら魔法工房に、何の用があるというのでしょうか。


 「あ、お客様!」


 スターが老紳士に気付きました。スターは嬉しそうに笑うと、老紳士に駆け寄りました。


 「ちょうどお訪ねしようと思っていたのです。実は、お願いがあるのです」

 「お願い?」

 「はい。お髭を一本もらいたいのです」

 「構いませんが……」


 老紳士は髭を抜くと、それをスターに渡しました。


 「ありがとうなのです」


 スターは受け取った髭を確認すると、丁寧に紙に包んで胸のポケットにしまいました。


 「その……噂を聞いたんだ。色々と」

 「青旗を掲げたのです。そうすると、噂になるのです。もちろん、作っているのはお客様の時計なのです」

 「し、しかし、あれはキャンセル……」

 「お客様の夢は必ず叶えるのです。当店はそのためのお店なのです!」


 スターは老紳士の言葉を遮るように、強い口調で言いました。


 「マスターを始め、うちの職人は張り切って仕事をしているのです。今度こそ、ご満足いただける時計ができるのです」


 スターは老紳士に真っ直ぐな視線を向けると、手を伸ばし、老紳士の手を握りました。


 「信じてくださいなのです。お客様が信じてくだされば、うちの職人は奇跡だって起こすのです。信じる者は救われると言うのです」


 スターの目は、職人たちを信じ切った目でした。その目を見て、老紳士の心に小さな希望が芽生えました。


 「信じる者は……救われる」

 「そうなのです。いい言葉なのです」


 そうだ、スターが言う通りだ、と老紳士は思いました。信じるものは救われる、なんといい言葉でしょう。


 「……ありがとう」


 老紳士はスターの手を握り返しました。


 「信じて、待っているよ」

 「はいなのです。必ず、お客様に吉報をお届けするのです」


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