083(爆誕)
ーー今から約300前。令和時代に物凄いサッカー選手が爆誕した。俺、稲葉リュウだ。11歳の時、地元の松本市の少年サッカークラブに所属していた。俺のポジションはセンターフォワード。11歳にして身長170センチメートル、体重65キログラムだの恵まれた体格だ。厳しい筋力トレーニングを課して、当たり負けはまずしない。小学6年生だが、高校生クラスのチームに入り、対等以上に渡り合う。
ある日、金曜日の夕方。俺はサッカークラブでいつも通り、トレーニングの紅白戦に励んでいると、今日は調子が良いのか4得点2アシストで大活躍した。すると試合後、一人のスーツを着た男性が話し掛けてきた。見たところ40歳くらいの人だ。
「君、基本的な事が出来てるね。決定力があるだけじゃなく、ポストプレーも出来る。周りがちゃんと見えてる証拠だ」
「おじさん、誰?」
「これは失礼。私はこういう者なんだ」
男性は名刺を渡してきた。そこにはJ3のクラブチーム〝松本ミヤビ〟のユース監督、〝竹田〟と書かれていた。
「ミヤビの監督なのか」
「正確には次世代を担う若い選手を育てる監督ってとこだよ」
「知ってる」
俺はドキドキワクワクだ。これはJリーグのクラブからのスカウトだろう。
「君の名前は?」
「稲葉リュウだよ」
「やっぱり。よかったらうちのクラブに入らないかい? 君の噂はかなり知れ渡ってるよ。凄い子が居るって」
「ユースって高校生が入る所でしょ? ちょっと無理かな~」
「何で? いきなりトップチームに入るつもりかい? それとも他のクラブから声が掛かってる?」
「知れ渡ってる割にはリサーチ不足だね。俺、まだ小学生だよ」
「な~に~!? その体格で小学生なの? 嘘じゃないよね」
「すぐバレる嘘吐いてどうすんの。冗談にしてはつまらんし」
「そうか! 小学生か! 稲葉君、君は光る原石だ。ぜひうちのクラブのジュニアユースへ」
「それは俺としても嬉しいんだけど。まず親を説得しないと」
「それなら今から行こう。親御さんに挨拶するよ」
ーー俺は竹田監督の車で一緒に自宅マンションに帰る。車内で俺の父親は頭が固いとだけ竹田監督に伝えた。
俺は自宅のドア開けた。3LDKで両親と3人暮らしだ。
「お母さん、お客さんだよ!」
リビングから母が出てきた。
「お客さんって。どちら様?」
「私、松本ミヤビのユース監督をしています、竹田と申します。御子息をうちのクラブへスカウトしたいのですが、まず親御さんにご挨拶をと思いまして」
「そうですか。遂にお声が掛かったのね、リュウ」
「まーね」
「立ち話もなんですから、どうぞ入ってください」
「はい、お邪魔致します」
俺達はリビングへ行く。母はなんだかウキウキしてる。嬉しいんだろうな、息子の将来の事を考えて。
父親が緊張した面持ちでソファーに座っていた。話し声が聞こえたんだろうな。竹田監督は堂々としている。
「失礼します」
「どうぞ座ってください」
「では」
竹田監督が父親の対面に座った。
「お父さん。松本ミヤビのユース監督をしています、竹田と申します。早速ですが、御子息をうちで預からして頂きたい。稲葉君はサッカー選手になれる可能性が非常に高いです」
「あ、お、お断りしします」
父親のバカ。恥ずかしいだろ、吃りやがって。
「なせですか? 将来有望ですよ」
「ど、どうせプロになんてなれやしない。帰ってください。リュウは公務員になるよう矯正するので」
俺は会話に割って入る。
「プロフェッショナルがサッカー選手になれるって言ってて、素人がなれないと言う。しかも今まで聞いた事もない公務員なんて話が出てきた。俺の人生を邪魔しないでくれる? それに知らない人が来てビビってるだろ」
「子供は黙ってなさい。周りで誰がプロになれた? どうせプロになんてなれやしないんだ」
「お父さん。ハッキリ言っておきます。他人と比べてる内は三流ですよ」
「何だと!?」
「ビビりが吠えてやがるぜ。そこまで反対するなら、俺はこの家を出る」
「11歳の子供が独りで生きていけるか!」
「お父さん。稲葉君の実力なら特別奨学金の可能性があります」
父親は黙ってしまった。何を考えてるか解らない。普通なら子供のやりたい事を応援するのが親の務めだろ。威厳のない奴。だからナメられるんだよ、ばーか。