055(ブラックボックス)
ーーアールだけ帝釈天アールタイプの船長室に戻ってきた。アールは一旦お役御免。インストールされた輪島八式が動けないほど壊れたからだ。他の船員は調査作業に当たっていた。モコロが神の姿で、アールを労いに来た。
「お疲れ~、稲葉アール。随分と激闘を繰り広げたのう」
「軽い! もっと気持ちを込めてくれ」
「済まん済まん。ワシもバージョンアップするかのう」
「スマートモンキーみたいにか? そういや、他のSNS案内AIは?」
「眠っておる。またライガー等が現れたら起きてもらうのじゃ」
「ライガーの事をすっかり忘れてた。まだクラッキング、サイバー攻撃を食らう可能性があるのか」
「そうじゃ。54ヶ国も任務に就いてるのだから仲が悪い国もあるじゃろう。現にフランスのエッフェルや我が船で牽引してるエンツォ・フェラーリも仲が悪いしな」
「あ、エッフェルは助けられたの?」
「イギリスの宇宙船、グレートブリテンが牽引しとるよ」
「良かった」
「まあ、イギリスとフランスも仲が悪いがの」
「ガンマスF1のウエストフィールドはどうなった?」
「他に敵が居ないか哨戒任務に当たっておる。広大な土地じゃ。他にも高等生物が居ても不思議ではない」
「また戦うのか…………」
「ジョージに呼び出されたらな」
「それまで俺は何をすればいい?」
「船内の監視でもするんじゃな。杉山のようなはみ出し者が船員に混じっておるし」
「じゃあ、ちょっくら見渡してくるよ」
「いってら~」
アールは監視カメラを伝い、幽霊の様に動く。取り敢えず船尾へ行き、エンツォ・フェラーリの様子を見る。ちゃんと牽引出来てる。次に食料庫を見る。フリーズドライにされた肉や魚、野菜などが大量に積まれてる。水もたくさんある。船室の様子を見に行くと、船員同士で胸ぐらを掴み合い、言い争いをしていた。どうやら一人の男が経口ゼリーを吐き戻して別の男の服にかかってしまったようだ。
「ふざけんなよ、てめー!」
「わざとじゃないだろ!」
アールは音声で止めに入る。
「そこまで! 船長命令で留置場に閉じ込めるぞ」
「「ぐう…………」」
「ケンカをするなら宇宙船から出て行ってくれ」
「「すみません」」
「分かればオーケー」
アールはその場を離れ、船首を見に行く。すると、アールでも入り込めないブラックボックスがあった。5メートル四方の大きさだ。アールは船長室に戻る。モコロが横になりながらポテトチップスを摘まんで食べていた。勿論、本物ではなく、バーチャル内の産物だ。AIはそれを食べて味を検知する。
「何やってんの?」
「ポテチじゃよ。食う?」
「要らない。それより船内にブラックボックスがあるんだけど、あれ何なの?」
「そんなのあんの? ワシは知らんぞ」
「モコロでも分からないのか」
「大方、設計者の輪島博士の遊び心じゃろ。気にするな」
「気になるよ!」
「まあ、こちらでも調べてみる」
「頑張って。ゲームボーイ」
「ぷんすこ!」




