051(敵討ち)
洞窟内は天井が高くて横にも広い。幾つもの穴が迷路の様に張り巡らされている。
エレベーターに武器を置いて、祭壇に上がった北欧部隊。数百体の地底人が歓喜した。地底人全員で数百万体はいる。階級があり、多くの地底人は仕事をしていた。
案内した地底人が祭壇の前に立ち、群衆に向かって演説を始めた。
『聞け! この方達は神だ! 我々は勝ったぞ!』
『『『わー! わー!』』』
集まった地底人が喜び、騒ぎ立てる。
『よし! 今日は食うぞ!』
『『『オオー!』』』
数百体の地底人が一斉に飛び掛かる。北欧部隊に。地底では虫が主なタンパク源だ。地上に出て猟をする事は出来ない。口の周りにある触覚のせいでボンベから地底人に適した大気を供給出来ないからだ。地底人は、迷い込んだ北欧部隊を最初から食べ物としか見ていなかった。
北欧部隊は地底人に食べられて全滅した。北欧部隊を乗せて行った大型ドローンの機長を経由して、ジョージに連絡が入った。
ーーアールとモコロはモニターで北欧部隊の一部始終を見ていた。
「また、戦うのか?」
「そうなるのう。嫌か?」
「嫌だな」
「稲葉アールってAIなのに自我がハッキリしとるの」
「おかしいかな」
「流石、最新のスーパーコンピューターじゃ」
「モコロのコンピューターは何?」
「初代ゲームボーイ並みの旧型じゃ。…………宇宙戦艦トマトの艦長、ジョージから通信が入ったぞ」
「こちら、ジョージ。帝釈天アールタイプの船長、稲葉アール。騙したな?」
「知らなかったんだ。まさか地底人が居るなんて」
「輪島七式、八式の部隊を編成している。また出てもらうぞ? 稲葉アール」
「俺は宇宙人と友好的にしたいんだ」
「エイブラハムも同じ事を言っていた。だが、殺された。稲葉アール、お前をデリートする権限は私が持っている。死ぬか戦うか選ぶんだな」
アールはこの究極の選択で結論を出した。
「分かった。戦うよ」
「そうだ、それでいい。裏切ったら分かってるな」
「ああ」
「では通信を終える」
モコロは不思議そうな顔をしている。
「戦うの?」
「仕方ないだろ。デリートされたくない、二度と死にたくない」
「前世。いや、人間だった頃の記憶か」
「そこら辺の記憶が曖昧なんだ。モコロは何か知らない? 本当に俺は24歳で死んだのか?」
「解らん。だってワシ、緊急制御AIだし」
「ふざけないでくれ。今、シリアスな場面だろ」
「済まん済まん。本当に知らんのじゃ。なぜならワシの人格ベースは地球で造られたが、記憶に関しては船内で学習したのじゃ。だから基本的な事しか分からないのじゃ」
「そうか。…………呼ばれた。せめて、エイブラハム隊長の仇は討ってくるよ」




