046(人類選別)
ーー250年以上前。人間は地球温暖化を食い止める事が出来なかった。カーボンニュートラルも焼け石に水だ。脱炭素の抜け道はいくらでもある。冬でも沖縄の気温が40℃を超える日々が続く。金持ちは避暑地に逃げたが、気温上昇は止まらず、更に南極大陸などに逃げた。棚氷が融けて雪崩が起き、命を落とす者も数多くいた。棚氷が海に流れ出て海面は上昇。先進国、新興国の各国首脳はアメリカを中心にテラフォーミング計画を発動させた。日系アメリカ人の物理学者、輪島博士が数十年前から温めていた計画で、宇宙船のベースを設計した。その情報はSNSを介して拡散され、人々は混乱した。人類選別が始まった。120億人を超える全人類を運べる手段はなかった。多くても1億6200万人ほどだ。金持ちはカネや有価証券、貴金属を遣い、我先にと宇宙船建造が行われているエジプトのルクソールに辿り着く。全世界でハイパーインフレが起きており、カネは紙くず。日本も例外ではなく、社会はカオスだ。
輪島博士の孫、カーマインとバイオレットは日本の大学に通う四年生と一年生だ。ルクソール・オンラインでアールと最初にギルドを組んだキノコはその大学で教鞭を執る准教授。一流大学の関係者だ。だから早めに宇宙船の切符を手に入れた。カーマイン、バイオレット、キノコをはじめ大学関係者は安心していたが、他の一流大学の宇宙船乗船が白紙になったと噂になり、カーマイン達は焦りを見せる。
国会議事堂前でプラカードを持ってデモ行進をする貧乏人達。それを煽る弱小野党。
「金持ちを優遇するのかー!?」
「我々には権利があるー!」
「宇宙船に乗せろー!」
世界は混乱の淵に立たされている。
カーマインは祖父である輪島博士とリモートで話をする。
「じいちゃん、久しぶり。聞きたいことがある」
「テラフォーミング計画のことじゃな? お前とバイオレットは乗船できるよう手配済みじゃよ」
「他の人達は? 移住先は?」
「宇宙船建造の専門家によれば、運べるのは1億6200万人が限界じゃ。それと、これはまだ公表されとらんが、天文学者によると地球から120光年離れた宇宙に第二の地球となる惑星がある」
「家族全員とはいかないのか。移住先は火星ではないの?」
「人類選別で溢れ、火星に向かう者も出てくるだろう。だが、宇宙船建造に必須な資材は限られておる。それに火星へ逃げても長い事、人間は生きていけない」
輪島博士が居る研究室に黒のスーツを着た男が二人、入ってきた。セキュリティポリスだ。
「博士、時間です」
「あ、ああ、分かった。カーマイン、バイオレットによろしくな」
「じいちゃっ……」
カーマインのパソコン画面が突然暗くなる。リモートがシャットダウンされた。二人の男に脇を抱えられて輪島博士はアメリカ大統領との会議に連れていかれた。輪島博士は宇宙船の設計には協力的だが、兵器の開発設計は難色を示している。




