思考と解答
正直思い付きである。ムシャクシャしてやった、見たいな。
「人肉ってどんな味がすると思う?」
ふいに投げられた質問は猟奇的なものだった。
普通の人が聞いたらドン引きの発言だが、彼女にとっては至って平常運行だ。
靡く黒髪と本当に人を喰らいそうな挑戦的な瞳、嗜虐的な表情は背筋がゾクッとする。
「・・・・・・聞かれてもわかんねぇよ。俺だって食ったことなんてない。」
彼女の猟奇的な質問が平常運行なら、俺の返しも平常運行だ。
それが嬉しいのか彼女の表情に喜色の色が混じる。
「まぁそうだよね、もし食べたなんて言ったら今から警察突き出しちゃうな。」
「酷い誘導尋問だ、俺が人を殺してるとでも?」
軽く鼻で笑い返す。彼女も呆れた感じでまさかと首を振る。
「ちょっと気になったんだよ、人の味が。」
「流石に殺人事件は起こすなよ、大体のことに対して俺はお前の味方だが殺人は擁護できん。」
しないってーなどと軽く返してくるが、その後に遠くを見つめる瞳はよく知っている。
夢と妄想に耽っている瞳。
「……ただ私は君の肉は美味しいのかなって思っただけだよ。」
――あぁ、本当に背筋がゾクゾクする。
――凄く心地いい。
相手は俺かよ等と返す口角は自然と上がってしまう。きっと彼女も気が付いているだろう。
「君は思わない?好きな人と一つになりたいって。それはどんな味なんだろうって。私は君の全部が好きだからさ、きっと君の肉ならおいしく食べられる自信があるんだ。」
呆れるほど直情的で、思考が常識とかけ離れている。
でも、これが彼女の愛であり俺が信じる数少ないものだ。
「思うよ。例えば俺と君の肉を交換して食べたいなんて素敵だと思う。でもね、俺は死んだらそいつは物になると思ってる。知ってるか?死体は鉄みたいに固く冷たい。」
死体に触れた手のひらの感触を思い出す。
それは家族の死体だったが、冷たさと硬さで動いた心は悲しみとかではなかった。
自分の知らないモノへの恐怖に他ならない。知っているものが知らなくなった。それは想像より遥かに恐ろしい。
「なるほど、じゃーうーん。私も君が死んだらその肉は君じゃないから食べても美味しくないのかな。それはなんか残念だなぁ。」
顎に手を当てて考える彼女は対して残念そうではない。不審に思ったが、そんな気に留める必要もないだろう。
俺が彼女と話すだけで嬉しいように彼女もそういうことはあるだろう。
だから流した。
でも彼女の結論は違った。彼女は理想を求めた。桃源郷を夢見た。
結果俺たちは二人で一つになった。きっと彼女にとっては大変うれしいことなんだろう。
俺が嬉しいのかはわからない。意識も感覚もないまま全てが終わった。
そう、彼女は心中という形を選んだ。
眠らせた俺から血を抜き、飲み、あとは毒を摂取する。
眠った俺には彼女が自分の血を注射し、毒も摂取させる。
邪魔な肉体は切り捨て、体に繋がりを作り、死ぬ。
あぁ、なんて常識外の行為だろうか。だけど、俺はこの結論を否定しない。
まじな話意外と楽しく1000字程度はかけたなと思っています。
短編とすら呼べないレベルの量だけど気が向いたら伸ばすかな。