ゴ話 おっさんと能力
Aランクとなってはや数日、その間に何度かダンジョンへと潜り『管理者権限Lv1』の検証をしてみて、『管理者権限Lv1』にダンジョンから脱出できる能力があることが分かった。
ダンジョンから帰還して、数日間、Aランク冒険者がいなくなったことでこの国の冒険者達が大きく動きだした。
空いたAランクの枠を我こそにと名高いBランク冒険者達が手を上げたが、どの冒険者もAランクへと上がることはなかった。全く目立った功績もない俺だけが上がったことに抗議の声が上がったが、未知のスキルを持っていると言うギルド長の一言で渋々とほかの冒険者たちも引き下がった。だが、当然それをよく思っていないものがいないわけでもなく街を歩くと他の冒険者達から絡まれることも少なくはない。
そして、今日、二度目のダンジョン探索の日になっている。
「それにしても今回は人が少ないんですね」
「ああ、今回は抽選じゃなくてこちらから選んだBランク10名じゃからのお」
俺は今回、前回とは異なり前回Aランク冒険者達が立っていた台にいる。
集まった冒険者たちの中には俺のことをよく思ってないものも居るようでちらほらとこちらを睨んでくる者がいる。
「えー、今回ダンジョン探索のために集まってくれたこと________」
と、ギルド長が前回と同じ内容の挨拶をした。
ギルド長が礼をして1歩下がる。次は俺の番だ。
「皆さんこんにちは、今回の探索のリーダーを務めさせていただくきます。桜華と申します。今回のダンジョン探索に当たって皆さんに一つだけ守って欲しいことがあります。それは、私ダンジョン内での私の命令は絶対に守ってください。守れなかった場合は地上に戻ります」
一部の冒険者が不満そうな顔をする。だが、この程度は想定内だ。
「そして、先にもう一つ言っておきたいことがあります。ダンジョン探索の時、私は後衛に就きます」
一部の冒険者から、非難の声があがる。そりゃそうだ、剣と盾を持った明らかに前衛職のガタイのいいおっさんがいきなり後衛にまわると言い出したのだ、非難するのも無理はない。
だが、この言葉に非難の声をあげず当たり前のような顔をしている冒険者もいた。
「落ち着いてください。これはちゃんとした理由があります。まず第一に純粋な戦闘力。自分はCランクからの成り上がりですので、実際のところAランク相当の戦闘力がなく、足でまといになるため」
ここで、さっき非難してきた人達がさらにざわつく。
大丈夫だ、ここまでは予想どうり。
「そして、第二の理由がスキル発動のタイミング。一番後ろで全体を見渡せる位置にいる方が、スキル発動のタイミングがとりやすく、一番犠牲者を出さない確率が高いと判断したため、そして、第三の理由が指揮。私は今回このチームの指揮を取らせていただきますが、チーム全体を見渡せないと指揮の取りようがないためです」
理由をいい終える頃には非難してきた者達もおとなしくなっていた。
「以上で終わります。何か質問がある方はいますか?」
誰も手をあげない。どうやらこれで良かったようだ。
人生34年の中で一番と言っていいほどの緊張だったが、無事終わってよかった。
と、ほっと胸を撫で下ろす。
「それでは、皆さんダンジョン前に並んでください」
ギルド職員の掛け声で冒険者たちはダンジョンの前へと足を運んでいった。
******
「それにしても、良かったんですか?」
冒険者たちがダンジョンの前へと向かう中、1人のギルド職員がギルド長へと訪ねる。
「何がじゃ?」
「いや、オウカさんのことですよ。俺の命令は絶対だ的なことを言ったり、俺は後衛しかしないぞ、俺を守れみたいなことを言ったり。後者はまだ納得出来ましたが、前者は納得いきませんよ。なんであんな人を選んだんですか?」
ギルド職員が率直な疑問をぶつける。すると、「ふおっふおっふおっ」と笑って、懐から数枚の紙を取り出した。
「これを見て見なさい」
「これは?…………オウカさんの活動記録?どれも、しかもCランクの中でも上位の集団クエスト…………中にはAランクなみのものもあるじゃないですか。それにどれも死者がいない」
「もっとよく見て見なさい、もう一つ共通点があるじゃろ」
「…………あっ」
「そうじゃ、それらは全部彼がリーダーとして受けたものじゃ」
そう、ギルド長が桜華をAランクとして、選んだのは桜華の並外れたリーダーシップ、統率能力、指揮能力という、基本的に少人数や、個人でで戦う冒険者には必要のない能力があることを見抜いて、それがダンジョン探索に必要だと考えたからであった。
「なるほど、でもさっきのわざわざ自分が後ろに行くのを先に言ったのはなんの意味があるんですか?」
「それは時期にわかるわい、オウカくんをよく見て勉強することじゃな」
そう言ってギルド長は台から降りて、冒険者たちの方へ向かった。
******
「さて、皆さん今からダンジョンに入る訳ですが。ダンジョンに入ってすぐに魔物が襲ってくる可能性もありますので、ここで隊列を組んで入ります。組み方は、さっきの私の話の途中に少しでも不満があった方は後衛、不満がなかった方は前衛に並んでください。そしてその中でさらに前衛と後衛に別れてください。」
俺も何も考え無しにこんなことを言っているのではなく、さっきの一見、不満が生まれるような言い方でも少し考えれば理解できるような内容で、瞬時にそれを察せるのかを試して、それを察せた者が判断能力が高いと考えて、臨機応変な対応が必要な前衛へと回したのだ。
それを理解できなかったのか、発言に少し戸惑っていたが、前衛が先に並ぶと後衛も続くようにして並んだ。
そして、前衛が4人、後衛が6人という形になった。
「それでは、今からダンジョンにもぐります。前衛に続いて、入っていってください」
そうして、俺は二度目のダンジョン探索へと向かったのであった。
今回は少なめですが、これで終わりです。
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