サン話 おっさんと絶望
全方位からくるバトルブンブンの攻撃にそれぞれが対処をする。中には対処しきれない者もいたが、そこはヒーラーとガルムで上手くフォローしていた。
襲い掛かってきたのは倒してしまった。しかしまだ周囲にはさっきと変わらない数のバトルブンブンがいる。
「こいつら、倒しても倒しても減らないな」
「そうですね、あの巣から湧き出ているみたいっすね」
最初はこちらが優勢だったが、倒したそばから湧いてくるバトルブンブンにだんだんと押され始めている。
「くっそ、こいつら倒したそばから湧きやがって…………仕方ねえ、アレをやるか」
呟くやいなやガルムが自分の親指を噛み、血を大剣の背に塗りつけた。
魔法の発動方法には主に3つある。1つ目は魔法陣を書き空気中の魔力を使い発動させる魔法。この魔法は自分の魔力量に関係なく発動できる上に瞬時に発動できる。
2つ目は詠唱、または魔法の名を唱えることで発動する魔法だ、この魔法は下手な動作を必要としないため初心者でも使いやすい。
そして3つ目が血液を媒体として発動させる魔法だ、この魔法は魔法陣の代わりに血液を使うというもので、魔法陣よりも簡単な魔法しか使えないが、魔力を使わず素早く発動できる。
剣の名前だろうか、ガルムが「いけ、ガムート」と呟き剣を放り投げた。
そしてその瞬間、剣が爆発した。そしてその爆風で剣が飛び、敵を切り刻んでいく。切り刻んだと思えばまた爆発して方向を変える。そしてそれを繰り返して沢山いたバトルブンブンはほとんど居なくなり残る魔物はクイーンブンブンと巣を持っている数匹のバトルブンブンだけとなった。
「…………すごい」
タイトが思わずつぶやく。たしかにこの技はすごいと言わざるを得ない。
この技はただ剣を爆発させればいいというものでは無い、剣の刃が相手の方を向く一瞬を狙って爆発させなければいけないという高い技術が必要な技なのだ。
「キーーーッ」
クイーンブンブンが奇声をあげる。そして、手の先に着いた鎌をガルムに振りかざした。
ギィーーーーーン
ガルムの大剣と鎌がぶつかり火花が散る。
「キィッ!!」
クイーンブンブンが小さく鳴く。すると、巣の中から2匹バトルブンブンが現れてガルムを左右から襲う。
「させるか…………よっ」
右側を俺が、左側をほかの冒険者が請け負って2匹とも倒した。
「お前ら、ちょっと引け」
「「了解」」
ガルムの言われた通り、引く。すると、ガルムは鎌を受け流しさっきのように大剣の背に血をつけ、そのままクイーンブンブンへと振りかざす。
「うらぁぁッ」
ガルムが振りかざした大剣をガードしようと鎌を構える。
キィッ_________ドンッ!!
鎌でガードされたかと思ったその瞬間、大剣が爆発し鎌を切り落とした。
「キィィィィィィィ」
右側の鎌を失ったクイーンブンブンが叫び声をあげる。
「もういっちょぉぉぉぉぉ」
ガルムが2回目の攻撃を浴びせようとした途端。クイーンブンブンはものすごい速さで巣へと戻っていった。
「やった…………のか?」
ガルムが武器をしまおうとしたその時、巣から「キィッ」と奇声を上げながらクイーンブンブンが戻ってきた。
「…………なにっ!?」
ガルムが驚く。出てきたクイーンブンブンの右側にはさっき切り落としたはずのかまが残っていた。
そのうえ巣からは次々とバトルブンブンが出てきてさっきとほとんど同じ状況へと戻った。
唯一違う点といえばこちらの疲労が溜まっているかいないかくらいだろう。
「…………オウカさん、不味いっすよ」
「ああ、そうだなこれじゃキリがない」
あのクイーンブンブン今の一瞬で再生したのか?巣に戻っただけで回復する能力なんてなかったと思うんだが、それともダンジョンの中だからか?
こんどはクイーンブンブンも同時に襲ってきたため、クイーンブンブンをガルムに任せて周りのバトルブンブンを残りで倒す。
ギャッ、キーン
ガルムたちの戦っている音が聞こえるだが、おかしなことがひとつあった。
先程のガルムとの戦いでは鎌を主体で戦っていたのに対して、こんどは尻にある針を主体に戦っている。
鎌が通用しないから戦い方を変えたのか?だが、それほどの知能は持ってないはずだ、じゃあ何が変わった?
そんな考え事をしていると、ガルムがまた大剣の背に血を塗りつけた。
ドォォン!!
爆音とともにガルムの剣が振られる。こんどは先ほどとは違い胴体を切り裂いた。
切られた胴体からは赤と緑が混ざった液体と鎧兜がでてきた。
「…………あいつらこんなのにやられてたのか」
ガルムがどこか寂しそうに呟く。
だが、俺の中にどこか引っかかるところがあった。
(一瞬で治るキズ、全然違う戦い方…………そうか、不味い!!)
「ガルムさんっ!!まだ終わっていない!!」
「えっ________」
俺が叫ぶ。だが一足遅かった。
俺が叫ぶのと同時くらいにガルムの上半身と下半身がズレた。
遅かった。クイーンブンブンは回復したんじゃなくてほかの個体と入れ替わっただけだった。
まだ状況を飲み込めていない冒険者たちが次々とバトルブンブンたちに殺されていく。
「オウカさん、これもぅ________」
目の前でタイトもほかの冒険者のように死んだ。俺の目の前で死んだ。今まで俺の知り合いが死んだことは何回もあった。冒険の途中で死んだ者、衰弱して死んだ者。
だがそれら全てが目の前で死んだわけじゃなかった。今まで逃げてきた、危険なクエストは避けて、簡単なクエストに逃げていた。
今初めて知った戦場の死、意外と呆気なく訪れて、衝撃と深い悲しみだけを置いていく。
そしてその死が自分に迫っていることへの恐怖。
今胸にあるのは後悔。ここに来たことへの後悔、もっと早く気づけなかった事への後悔。
帰りたい。戻りたい。死にたくない。早くここから出たい。
そんな思いで頭の中がいっぱいになる。
_____ここから出たい?
誰かが俺に呼びかける。
_____じゃあ思い出しなよ。
呼びかけてくるのは懐かしい声。
_____さあ、その閉ざされた記憶を…………崎村 桜華
その瞬間、俺の頭の中に懐かしい記憶が流れてくる。
…………日本……東京
ピコーン管理者権限Lv1が解放されました。
管理者様の意思により転送を開始します。
突如として聞えてきた声とともに目の前が真っ白く染まった。