イチ話 おっさんとダンジョン
一週間前。それは突如としてこの街、『モノ』にあらわれた。
中央広場の噴水を突き破るようにあらわれたそれは、塔のような形をしており、目視では頂上が確認出来ないほど高かった。
それには、入口のようなものがあり、あらわれるとともにそこから魔物が湧き出てきた。
街は一時混乱状態となったが、幸いこの街には大きな冒険者ギルドがあったのと、出てきた魔物達がゴブリンなどの低級の魔物だっため、すぐに街の冒険者達の手によって沈静化された。
そして、それはギルドによってダンジョンと名付けられ。調査隊が組まれることになった。
______そして今、俺はその調査隊の一員として、ダンジョンの前にいる。
ダンジョンの調査隊のメンバーは、ダンジョンの危険度が未知数なのを考慮してか、最低ランクのE、Dランクからではなく中堅層のCランク以上の冒険者として募集がかかっていた。
しかし、ギルドが予想していたのよりも応募者が多かったのか、メンバーはその中からC、Bそれぞれ20人ずつ抽選になった。
そして、興味本位で応募した俺は見事Cランク枠として受かり、ここにいる。
「しかし、まあ。まだ集合時間の30分前なのに人が多いなぁ」
「そりゃあそうですよ。なにせ冒険者ですから、未知のものにワクワクしてなんぼのもんしでしょ」
俺がつぶやくと、横から茶髪の若い男が話しかけてきた。
いきなり話しかけられたので驚いて、思わず男の方に振り向いた。
「いきなり話しかけてすいません。自分はBランクのタイトです」
「ああ、自分はCランクの桜華です」
自己紹介を自己紹介で返す。すると、タイトと名乗った男はよろしくと手を差し出してきた。
「ああ、よろしく」
「それで、オウカさん。やっぱりオウカさんもダンジョンに眠ってるって言うお宝目当てですか?」
ダンジョンにお宝?初めて聞いたぞ。だいたい誰も入ったことのないダンジョンにお宝があるってどこからの情報だよ。
「いや、自分はただ面白そうだからなんとなく応募したら受かったって感じですかね」
「へー、そうなんですね。ってかオウカさん敬語使わなくてもいいですよ」
「え?」
実力主義のこの街では基本的にランクが上の冒険者ほど強い権力を持つ。この街で四人しかいないAランクまで上がればそこら辺の貴族よりも強い権力を持つほどだ。
「だから、敬語じゃなくていいですって、オウカさんの方が年上じゃないですか」
「…………ありがとう」
驚いた。この青年は敬語を使わなくていいと当たり前の様に言い放った。ランクが高いからといってランクが下の冒険者に横柄な態度をとる者も少なくない中、この青年は年上だからと34のおっさんを敬ってくれている。
「なんでそこで感謝するんですか」
タイトが笑いながら言った。そして、言い終わるのと同時くらいに「ゴーン」と青銅器のなる音がした。
音の鳴る方を見ると、少し高い台にギルド長と4人のAランク冒険者が立っていた。
「冒険者諸君、今日はダンジョン探索のために集まってくれたことにまことに感謝する。さっそくだが、ダンジョン探索についての説明をする。今回のダンジョン探索ではAランク冒険者のガルム、ルイ、ルチ、ジェーンをリーダーとした4組に別れてもらう。組み分けだが、こちらにくじを用意したので各ランク事にこのくじを引いてもらう。前衛後衛は確率魔法でうまい具合に調整しているから気にするな。そして、報酬だが、中で手に入れた素材は一旦こちらで回収してそれに応じて現金で出す。張り切って探索してくれ。以上だ」
報酬が働きに応じて上がるとギルド長が言った途端全体の士気が上がる。
「こちらがCランクの受付でーす」
「こちらがBランクの受付でーす」
ギルド長が話終わると同時にギルド職員が案内を始めた。
「じゃあ、オウカさん」
「ああ、じゃあまた」
タイトとのあいさつを済ませて列に並んだ。
さてさて、どこの組に入ることになるのだろうか。
******
くじを引き終えて、今、俺はガルムの組に並んでいた。
最悪だ。Aランク冒険者の中でもガルムは特にランク差別がひどい。
「ガルムさん…………か」
隣に立っていたタイトが呟く。
「ああ、俺も苦手だ」
するとタイトが苦笑した。
「BランクCランク止まりの諸君。俺はAランク冒険者のガルムという。せいぜい足でまといにならないように頑張ってくれ」
ガルムがあいさつをした。その瞬間、明らかに全体の士気が下がった。
15分おきに1チームずつ入ることになっており、俺たちが所属しているこのガルムのチームは1番最後に入ることになっている。
そして、ついさっき俺たちの前のチームが入ったところだ。
「ねえ、オウカさん。役職とかで前衛後衛わけなくていいんですかね」
「ああ、そうだな。俺も分けておいた方がいいと思う。だが、あのガルムさんのことだし自分一人でなんとかなると思ってるんだろうな」
こういう未知の場所に潜入する場合、チームでしっかりと話し合うことが鉄則なのだが、ガルムがソロでAランクまで上がってきたのもあるのか、彼は話し合おうとしない。
そして、ほかの冒険者もガルムのチームに入ったのがよっぽど嫌だったのか、ガルムの愚痴をボヤくばかりでそんなことを考えようともしていなかった。
「オウカさんの役職ってなんですか?」
「見ての通り前衛職」
俺が剣と盾を見せながら言う。すると、タイトは「なるほど」と納得した。
「じゃあオウカさんは剣士ですか?」
「いや、魔法も使えるから魔法剣士ってとこだな」
タイトが驚く。魔法が使えること自体は当たり前のことなのだが、魔法を使いながら剣で戦うのは相当な腕が必要になるので基本的に魔法か剣どちらか一本でいく者が多いのだ。
「ちなみにタイトの職は?」
「ああ、自分は後衛職でヒーラーです」
タイトが杖を取り出しながら言う。
護衛職は基本的にアーチャーと魔法士がいる。その中でも魔法士は回復専門のヒーラー、攻撃専門の魔術師、支援魔法専門のサポーターが存在する。
「じゃあ、次ガルムさんのチームお願いします」
そんな話をしていると、ギルド職員が俺たちに呼びかける。
すると、「お前ら、行くぞー」とガルムが声をかけて1番に入っていった。
「じゃあ、行くか」
「そうですね」
そうして、俺たちはガルム達に続いてダンジョンへと入っていった。
書き上げたら投稿、という形にしますので投稿は不定期になるかと思います。