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無題  作者: 結城智
第1章 ~中学2年の夏~
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第7話 予想的中?

「紅葉はどう思う? Wカップの優勝国。もちろん、日本だよね」 


 七瀬さんは横に視線を移す。全然、気付かなかったけど、そこにはもう一人、女の子の存在がいることに僕は今更、気がついた。


 立っていたのは水樹紅葉みずき もみじさん。同じクラスメイトの子だ。


 いつも肩までかかる長い髪をポニーテールにしており、七瀬さんが可愛いタイプだとすると、水樹さんは美人の部類に入る顔立ちだ。


 キリッとしたキレ目で、150センチ前半くらいの小柄な七瀬とは対照的に、水樹さんは160センチくらいはあると思う。こないだの身体検査で165センチだった僕と比べても、ほとんど変わらない。


 部活はなんだっけ? 七瀬さんと一緒でテニス部かな? 失礼だけど、七瀬さん以外の女の子は興味がないから、全然わからないな。


 実際に水樹さんとは会話した記憶がほとんどない。どちからといえば、口数が少ないクールなイメージがある。例えると、仲良くなる前の北村君に似た印象を持っていた。


 話しを振られた水樹さんは表情を変えず、考えるように目線だけ宙に上げる。


「そうね。日本が優勝したら最高だけど。ドイツという意見はちょっとつまらないわね」

「ほう。じゃあ、水樹はどこが優勝すると思う?」


 もったいぶるというか、少し挑発的な水樹さんの言い回しに対し、北村君の闘争は燃える。


「そうね。開催国のロシア、後はクロアチア辺りが面白いと思うわ」


 水樹さんの予想に僕は驚いた。


 あまりサッカーが詳しくない女の子は、優勝国はどこと質問すると、大抵はブラジルとかアルゼンチン、フランス、スペインと言う子が多かったりする。


 ロシア、クロアチアの名前を出すのは珍しい。でも、当てずっぽうではない。正直、僕も個人的にはダークホースに近い国だと思っている。


「確かにロシア、クロアチアは予選通過できる可能性は高いと思うけど。優勝は難しいんじゃない?」


 興味が湧いた僕は割って入り、つい水樹さんに対し意見を求めた。僕の方へ視線を移した水樹さんは、ニヤリと少し勝ち誇った笑みを浮かべる。


「やっぱり、開催国っていうのが強みよね。予選を通過できる可能性があるなら、決勝リーグ行った途端、モチベーションが更に高まって、面白くなるんじゃないかしら。クロアチアアは総合的に評価した結果の予想よ。個人的にはかなり期待してる」


 なるほど。どうやら水樹さんはWカップだけを観るミーハーな女の子とは違い、本当にサッカーが好きなようだ。


 そんな中、少し恐縮した様子で七瀬さんは、水樹さんの肩を叩く。


「ねぇ。日本は優勝しないの?」


 ミーハーな七瀬さんは今だ、日本の優勝を夢見ているようだ。


 うるうると期待した視線を向けられた水樹さんは、困ったような表情を浮かべ「そうね。私も日本に優勝して欲しいわ」と相槌をうっていた。


 そんな中、僕だけは既にサッカーの話題は頭から飛んでいた。


 そう。水樹さんを上目遣いで見つめる七瀬さんも可愛いなと、見惚れてしまっていたのだ。

 

 くそ、反則なくらい可愛いな。いつか必ず告白してモノにしてやるぞ。と、胸に誓う。


 そんなことを考えている間に、七瀬さんは腰を屈め、座っていた僕の目線の位置に顔が出る。顔の距離が近くて、僕の心臓は爆発しそうになった。


「てか、明日試合でしょ。私と紅葉で応援に行くからさ。二人共頑張って」


 な、なんだって! 七瀬さんが応援に来てくれる。それはテンションあがるけど。


「いや、僕は補欠だから」


 気まずいというか、悲しいというか、なんとも言えない心情になり、僕が目を逸らす。すると、七瀬さんは僕の頬をツネってきた。


 痛い。という感覚よりも心臓の高鳴りの方が気になって、僕は目を泳がせる。一瞥すると、七瀬さんは膨れた顔をしていた。


「なに、ふてくされるのよ。補欠だって関係ないでしょ。試合に出られないわけじゃないんだから」


 七瀬さんがそう言うと、北村君も同調するように僕の肩を叩く。


「そうだぞ。先生も名取は、スーパーサブだって期待してたし。チームのピンチを救ってくれよ」


 目を輝かせ、北村君は親指を立てる。


 なんだか知らない内に慰められてしまった。悪い気持ちはしないけど、こういう時、照れ臭くて目のやり場に困る。


 視線を泳がせていると、偶然にも水樹さんと目が合ってしまう。

 水樹さんは腕を組み、少し不機嫌そうな顔で言った。


「あなた、インザーギなんでしょ。ふてくされてないで、チームに貢献しなさい」


 と、水樹さんには何故か説教されてしまった。


 僕、インザーギです。なんて言った覚えないんだけどな。

 てか、話し最初から聞いていたのね。なんだか、ちょっと恥ずかしくなった。




 ちなみに余談だが、Wカップの優勝国は、フランスという結果で幕を閉じた。


 結果だけを見ると、誰の予想も当たらなかったように見えるが、ロシアは決勝リーグでスペインを破りベスト8という活躍。クロアチアは決勝まで勝ち残り、フランスには破れたものの、史上初の準優勝という成績を残した。失礼だが、ほとんど期待されていなかった日本もベスト16。しかも、初戦はコロンビアを破り、決勝トーナメントでは、優勝候補であるベルギーに勝てる一歩手前まで追い詰めるなど、下克上が多い試合だった。


「水樹さんの予想、惜しかったね」


 Wカップ終わった後、教室にいた水樹さんに缶コーヒーを渡した。


 別に賭けていたわけでもないし、的中したわけじゃなかったが、僕は水樹さんとは今後、サッカーを語る友達としてお近づきになりたいと思っていたのだ。


「ありがと。でも、フランスは想像以上に強かったわね。文句なしの優勝だったわ」

「ああ。若い選手が活躍していたしね。これからが楽しみだよ」


 差し渡した缶コーヒーを受け取った水樹さんは、窓の外を見つめながら、満更でもない少し嬉しそうな顔で目を細めていた。


「ねぇ、名取君。私には奢ってくれないの?」


 僕達の間に、ひょこりと七瀬さんの顔が出てくる。


「えっ、なんで?」

「だって、私日本優勝するって言ったじゃん。紅葉だって当たったわけじゃないんでしょ。なら、ベスト16を当てた私も、コーヒーを奢ってもらえる権限あるんじゃないかな?」


 と、七瀬さんは滅茶苦茶なことを平然とした顔で言い放つ。


 ちょっとそれは、とんでもない当てつけじゃないか。


 僕が唖然として言葉を失っていると、七瀬さんは水樹さんに視線を向け「ねぇ。紅葉もそう思うよね?」と、同意を求めていた。


 当然『栞。あなた、なにバカなこと言ってるの?』と、水樹さんの性格上、速攻で突っ込むシーンかと思ったが、顎に手を当て考え込むような仕草を見せると「確かにそうね」と、納得したように頷いていた。

なにが、確かにそうね、だよ。なんだこれは。新しい手法のカツアゲか?


 僕はモヤモヤしていたが、缶コーヒー一本でグチグチ言ってられないので、その後、七瀬さんにも缶コーヒーを奢る羽目になった。


 まあ、好きな子だから、構わないんだけど。

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