第6話 Wカップの優勝国は?
サッカーの試合を明日に控えた金曜日。休み時間に僕と北村君は教室で話しをしていた。
ちなみに今更ではあるが、北村君の本名は北村仁。体の線が細く身長は僕とほぼ同じ160センチ中間くらい。
アイドルにいそうな中性的な顔立ちであり、文句なしにイケメンと言っていい。口数をもう少し増やし、社交的になれば、すぐに女の子にモテモテになると僕は考えていた。とはいえ、七瀬さんの心は奪わないでくれよ。と、内心ヒヤヒヤしたりもしている。名取君、柴犬みたいだね。と言われる僕の顔では太刀打ちできそうもないからな。
「今年はWカップ。どこ優勝すると思う?」
今年はWカップがある。僕達は明日の試合はそっちのけで、Wカップの話題に花を咲かせていた。
僕の質問に対し、北村君は腕を組み始める。どうやら真剣に考えているようだ。
「前回はドイツ優勝だったろ。あの戦術的なドイツを崩すのは厳しいからな。今年もドイツって言いたいけど。それじゃ、面白味にかけるからな。ここは2006年に優勝したイタリアに賭けたいな」
イタリアがそんなに好きなのか、北村君は鼻息荒く熱弁する。
最近わかったけど、北村君は全然クールじゃない。単に人見知りだから、クールに見えてけど、実際は僕よりも断然、感情豊かで口数も多い。
「北村君。残念ながら、イタリアは今回のWカップに出れないよ」
「はぁ? なんでだよ」
「イタリアは予選敗退したからね」
「マ、マジかよ」
「うん。イタリアだけじゃない。オランダも予選敗退」
「おいおい。イタリアは2006年優勝国だし、オランダは前々回のWカップで準優勝した国だぞ」
オーマイガー、とでも言いたげな顔で両手を広げてみせる。本当、感情豊かだ。
「まあ、前回の優勝国は、Wカップに出場できても予選敗退っていうのもざらだし。勝ち続けるっていうのは案外、難しいんだろうね。まあ、僕もイタリアが一番好きだったから、ショックだったよ」
2006年のWカップ。僕はまだ一歳だったから生放送では見てないけど、父さんがサッカー好き(どちらかというとJリーグではなく、海外リーグが好き)なので、2006年のWカップに関わらず、昔の試合は一緒に観たものだ。
「ああ、ロベルト・バッチョが復活してくれれば」
「初代ファンタジスタだね。北村君はバッチョ推しだったんだ」
ロベルト・バッチョ。元イタリア代表。結構昔の選手で、イタリアの至宝と称されていた。
FWの選手でドリブルがうまく、非常にテクニックに長けた選手。同じように、ドリブルがうまく、テクニックに長けた北村君に似たタイプと言ってもいいだろう。
「ああ、俺の憧れだからな。名取は誰が好きなんだ?」
「僕? 僕はそうだね……同じポジションなら、フィリッポ・インザーギかな」
「まんま、名取じゃん」
「なにそれ。褒めているの? けなしてるの?」
「バカ。褒めてるんだろ。FWの仕事は泥臭かろうが、格好悪かろうが、ゴールを決めることに尽きるぜ」
フィリッポ・インザーギ。彼も元イタリア代表。
同じFWでも、バッチョとは真逆といっていいプレースタイルで活躍した選手だ。
テクニックに長けていたわけでもない。といってフィジカルがあったわけじゃない。でも、ゴール嗅覚がずば抜けており、ゴールを量産していた選手だった。
普段からいい位置に立っており、うまい位置でボールに触れ、シュートを確実に決める。
プレーがずば抜けてうまいわけじゃないのに、確実にゴールを決めてくるゴール嗅覚から、相手チームのGKからは他のうまい選手よりも、相手にしたくないと恐れられていたという説も多い。まあ、知らない内にゴールネットを揺らされるんだ。恐怖だよな、それは。
しかし、僕が一番好んでいるのは彼の泥臭いプレーだ。
GKに弾かれたボールを諦めず、体ごと飛び出していく執念の姿に感動し、僕は興奮して何度も巻き戻しボタンを押したものだ。
「ちょっと二人共。黙って聞いていれば。優勝は絶対日本。好きな選手は本田、長友だとか言えないの? いつから、あなた達は非国民になったのよ」
横槍を入れるように横から声が聞こえた。
視線を移すと、僕の心臓はドキリと音を立てる。そこには七瀬さんが腰に手を当てて立っていた。
ああ、七瀬さん。今日も可愛いね。と言いたい気持ちを抑え、僕は代わりに場を和ませる魔法の言葉を口にした。
「いやいや。僕、持ってないから」
と、僕は本田の口調に似せて喋る。ほら、ここで二人は爆笑するはず。
……あれ、可笑しい。時間が止まってしまったようだ。無意識にループを使ってしまったのだろうか。いや、違うな。ループは時間を戻す能力。時間を止める能力ではない。
視線を右に移すと、他の生徒達は動いている。止まっているのは北村君と七瀬さんだけ。いや、正確には止まっていない。視線は僕に向けられており、瞬きはしている。
ただ二人の目は氷のように冷たい。
「いや、今日はやけに冷えるね。北村君」
「そうだな。六月でもこの空間だけは冬なんだろうな」
二人は深い溜息を漏らし、窓の方に視線を移してしまう。説明するまでもないが、僕は完全に滑ってしまったようだ。




