エピローグ
「おっ。道端で100万円拾った。警察に届けたが、持ち主が現れなかったので、100万を手に入れた。いいねぇ、調子あがってきてるぜ」
「うわ、いいなぁ。私なんて、さっき家が火事になって、200万円損したばかりなのに」
「だから、火災保険に入った方がいいと言ったのよ。栞は昔から、計画性がないのよ」
「う、煩いな。ゲームの世界くらい冒険したいんだよ。紅葉は逆にどんだけ保険入っているの。火災保険はいいとして、ペット保険入る意味あった? 紅葉、今ペットいないじゃん」
「馬鹿ね。お金なんてある分だけ使っちゃうんだから、保険や寄付に使った方が堅実なのよ。お金はある分だけ、人を狂わせるわ」
「紅葉。これ、人生ゲームなんだから、もっと気軽にやろうよ」
ある日の休日。今日は皆、僕の家に集まって、すごろくの人生ゲームを楽しんでいた。
メンバーはいつもの4人。仁、七瀬さん、水樹さん。そして、僕の4人だ。
仁が先日、押入れの中を整理していたら、小学生の頃に家族や友達と遊んでいた、すごろくの人生ゲームがあったので、何故か僕の家まで持ち込んできた。
久々にやろうぜ。と、仁が言った時、水樹さんは「そんな子供みたいなゲーム」と文句を言っていたのに、始まった途端、一番真剣にやっていたのが水樹さんだった。まあ、水樹さんの場合、真剣過ぎてゲームとして楽しんでいるかは不明だが。
あの日、水樹さんにループのことを告白。その後、仁と七瀬さんに友達として、最初からやり直したいとお願いした日から、早くてもう半年が経つ。
あれからの僕達の繋がりを話そうと思う。
まずは仁。仲を取り戻したあの日から、頻繁に連絡がくるようになった。
昔みたいに二人で遊ぶことも増え、たまにサッカーの練習を一緒にする。仁は昔以上に上手くなっていた為、僕はかなり差を付けられてしまった。
無理もない。僕はサッカー部で活躍していたが、実際のところ、ほとんど練習をしていなかったようなものだ。そういうこともあり、僕は巻き返そうと今、我武者羅に頑張っている。全然うまくいかないけどね。
次に七瀬さん。同じ学校ということもあり、別れた後も変わらず、仲良くしている。周りは僕達が別れただなんて、微塵も感じちゃいないようだ。
だけど、お互い別れたという認識がある為、手を繋いだり、キスしたり等、恋人同士として今後、発展する関係性になることはない。昔みたいに、友達として仲が良い状態が、緩やかに継続していくだけだろう。
そして、サッカーの練習もたまに見に来てくれる。
残念ながら、全然活躍できず、空回りしてばっかりだけど、帰り道、七瀬さんは嬉しそうに「いいねぇ。やっぱり、名取君のサッカーは人を熱くさせるよ。全然、点数入らないけどね」と、意地悪に笑っている。
でも、なんでだろう。サッカー部の皆。いや、それだけじゃない。ループを手放してから、クラスメイトも、僕に歩み寄ってくる人達が格段に増えていった。
最後に水樹さん。実はあの日、神社で互いにループの力について話し、水樹さんが去っていった後、彼女は僕や七瀬さんの前から姿を消した。
そう。あの日、僕が感じた嫌な予感は的中していたのだ。
実は水樹さんはあの日の夜、七瀬さんに電話していた。
そして、僕に告白し、フラれたことを報告してきたらしい。続けさま、名取君は元の名取君に戻ったから、よりを戻しなさい。と、そう言ったそうだ。
その連絡を最後に水樹さんは音信不通となった。
水樹さんの悪いところが出た。また自己犠牲だ。他人の幸せばかり考えて、自分は潔く舞台から消える。
僕達の前から去るだと? そんなこと許すものか。僕達四人はパズルのピースだ。誰一人欠けてはいけない。
七瀬さんの話しを聞いた途端、怒りが込み上げ、僕は七瀬さんにある提案をした。すると、七瀬さんは「私もそうしようと思ってた」と、意地悪に笑った。
そう、僕達は水樹さんに嫌がらせをしようと考えた。
幸いにも水樹さんは学生。学校には自宅から通っている。電話が繋がらないのなら、やることは一つだ。
僕と七瀬さんはその後、毎日、学校終わりに水樹さんの家の前で待ち伏せすることにした。
最初、水樹さんと鉢合わせになった際、本人はびっくりしていたが、なにも言わず、僕達の横を素通りしていった。
その行動は想定内だった。それなら、水樹さんが足を止めるまで、毎日のように待ち伏せしてやろうじゃないかと、僕と七瀬さんは変なところで、負けず嫌いな性格が発揮する。
戦いの期間は5日間。勝者は僕と七瀬さんだ。
さすがに休みの日まで待ち伏せしているとは思わなかったのだろう。
土曜日、僕達は朝の八時から、水樹さんを待ち構えていると、ちょうど家から出てきた水樹さんと目が合う。
水樹さんは嫌そうな顔をしていたが、長い長い溜息を漏らした後、覚悟を決めた様子で、僕達の前に歩み寄ってくる。
そして、「私の負けよ」と言った。負けを認めた状況なのに、水樹さんの顔はどこか安堵に似た表情を浮かべていた。
こうして、婆ちゃんが死んでから止まってしまっていた僕達の時間は、また緩やかに動き出していく。
「次。総司の番だぜ」
「ああ。僕か」
人生ゲーム。今、水樹さんがダントツで一位。七瀬さんは二位。仁が三位。悲しいことに俺がダントツで最下位。ループを失った今、せめて人生ゲームでは輝きたいものだ。
僕はルーレットを回す。よし、ここで一攫千金だ。
ルーレットの数字は1。1マス進むだ。
たどり着いたすごろくの文字には【お婆ちゃんが、ひったくりにあって一文無し。家に帰れずに困っている。放っておけないので、10万円渡した】と書かれている。
「えっ、嘘。僕、もうお金ないよ。それに家に帰れず困っている、見知らぬお婆ちゃんに、10万も渡す人いないでしょ。せめて、1万にしようよ」
僕がショックを受けていると、その姿がツボだったのか仁と七瀬さんが爆笑する。
「ついてねぇな、総司。でも、なんだろう。総司なら普通にありそうな状況だわ」
「そうだよね。お金渡した後に、あっ。お金渡し過ぎて、僕が家に帰れなくなっちゃった。とか、言って一人で歩いて帰る、名取君の姿が想像できちゃう」
そう言って、二人は遠慮というものを知らないのか、腹を抱えて笑い続けていた。
そこまで笑うことないじゃないか。
面白くないと思った僕は、助けを求めるわけじゃないが、水樹さんの方に目を向ける。
すると、爆笑はしていないが、水樹さんも笑いを堪えていた。
「本当、名取君らしいわね」
水樹さんは、仁達の言葉に同調して頷いていた。
「でも、一つ進めたのなら、良かったじゃないの。お婆ちゃんも助けられたのよ。失ったのはお金だけ。幸せな気持ちに浸れる、最高のマスじゃない」
なにバカな言ってるんだ、水樹さん。と、普通なら突っ込む場面。
でも、なんでだろう――。
水樹さんが言うなら、そうかもしれないな、と。
僕は不思議と、そう思ってしまった。
完




