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無題  作者: 結城智
最終話 ~謎の真相。そして、ループ消失後の僕の未来は~
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第47話 取り戻したいもの

 残念ながらというか、当然というか、ループの力を失った後もあの日、僕の家に仁と七瀬さんが来て、七瀬さんに別れを告げられるという結果は変わらず、発生してしまった。


 でも、それは仕方ないことだと最初から腹を括っていた。


 半年以上も七瀬さんを蔑ろにし、傷付けたのだから、三日という月日で崩壊していた人間関係が修復出来るはずもない。


 でも、ループを持っていた時とは一つ違う展開があった。


 それは七瀬さんから平手打ちを受けるという悲劇を回避したというのもあるが、その件については、今回の変化点としてカウントしてないでおく。


 僕は七瀬さんに別れを告げられた時「七瀬さん。一つだけお願いを聞いて欲しい」と、超が付くほど格好悪いが、土下座する体勢をとった。


 完全に意表をつかれたような顔をする七瀬さんは「なに?」と、聞き返してきた。チャンスと思い、僕は七瀬さんと仁、二人の顔を交互に見つめ、頭を床に付ける。


「別れるのはいいんだ。今まで七瀬さんを蔑ろにしたんだ。当然な事だと思っている。でも、もう一度、中学時代のように七瀬さん、仁、水樹さんの四人で仲良くしていきたいんだ。別にそこで七瀬さんともう一度、関係を修復しようとか企んでいるんじゃない。ただ、中学の時、四人一緒にいたあの頃に戻りたい」


 虫がいい話しだ。


 でも、僕は婆ちゃんが死んでからというもの、七瀬さんとは一緒にいたが、仁や水樹さんとはほとんど接点を持たない時期が続き、そのまま後味悪く卒業したという後悔がある。


 本当はループを捨ててでも、仁や水樹さんという友達は手放してはならなかった。


 僕を支えてくれたのは、けして七瀬さんだけではない。


 腹の探り合いなく、男同士の話しが出来た仁。


 言葉はきついが、僕が誤った方向にいかないよう影で優しく見守ってくれた水樹さん。

 あの二人がいたから、僕はループという麻薬を手にしている間も正常でいられたのだ。


「いいよ」


 七瀬さんは僕の目を覗き込むと、優しく微笑んだ。


 それは久々に見た七瀬さんの笑顔だった。


「本当?」

「うん。本当。もう悪い名取君になっちゃダメだよ」


 どこかホッとしたような微笑みで七瀬さんは言う。そのまま、僕は仁の方を見て「仁は?」と許しを問う。


 仁もその時、笑っていた。それは久々に見る仁の爽やかな笑顔だった。


「なに心配そうな顔してんだよ。いいに決まってんだろ」


 と、土下座していた僕の体を起き上がらせ、力強く肩を抱いてくれた。

 ホモみたいな発言になるが、その感触はとても懐かしく、いきなり感極まってしまった。


「おいおい。なんで、泣くんだよ」


 仁の言葉通り、僕は泣いてしまう。


 今まで酷いことをしてきたのに、それでも手を差し伸べてくれた二人の優しさに僕は救われた。


 そして、次の瞬間、僕は体中に溜まった黒いなにかが浄化するような、そんな感覚に包まれていくのだった。




 この出来事の数時間前。僕はある人に呼び出されていた。

 ここに来るのは約二年ぶりだ。


 山奥にある神社。そう、ここは僕がループの力を得た始まりの場所。

 そこには二年前と変わらず、祠があった。


 全てはここから始まったんだなと、感傷に浸りたい気持ちがあったが、それよりも真実をはっきりさせなければならない。


 今、僕の目の前に立つ彼女に。


「久しぶりだね、水樹さん」

「ええ。私は久しぶりだけど。名取君は久しぶりになるのかしら?」


 僕を呼び出したのは水樹さん。


 携帯のメールで【始まりの場所で待ってる】と一文を送信してきたのだ。


 そのメールに対し、普通なら【何処のことを言ってるの?】と質問するはずだが、僕は【わかった】と返信を返した。


「三日前に会ったよ。その時はここじゃなくて、アーケード街でたまたま会ったんだけど」


 ループを使っているから、果たして三日前という表現であっているかわからないが。


「あのね、名取君。いきなりだけど、質問いいかしら?」

「どうぞ」

「いつから、私が名取君の力のこと、知ってると気付いたの? 正直、始まりの場所で待ってると送って、わかったと返信きた時は私、面食らったわ。本当なら名取君が、えっ。何処のこと言ってるの? って困惑した回答が返ってきて。私はずっとその答えを教えず、そのまま名取君を困らぜて、放置するという意地悪をしたかったのに」


 どんな意地悪だよ、それ。やってる水樹さんも楽しいのか?


「水樹さんがヒントだしてくれたでしょ」

「なんのことかしら?」

「アネモネの花言葉だよ」

「そう」


 水樹さんは髪をかきあげ、短くなった髪が風に揺れていた。


 そう、アネモネの花言葉。


 色によって花言葉は異なるが、紫のアネモネ。


 花言葉は【あなたを信じて待つ】だ。


「確かにヒントを与えたつもりだけど、絶対に気付かないと思っていたわ」


 意外、とでも言いたげな顔をする水樹さん。


「もしかして、塔子さんが? いや、それはないわね。私に気付かれていると自覚している状態で、塔子さんを助けなかったという選択をしていたなら名取君、あなたは相当なクズよ。ああ、違うわね。気付かれている、気付かれていない関わらず、私は塔子さんを助けなかった時点で、名取君のこと救いようもないクズだと思ったわ。出来ることなら名取君の顔、自分の拳の骨、砕けるまで殴り続けたかったくらいよ」


 僕は水樹さんの非難の声に対し、耳を塞ぎたいとは思わなかった。


 おかしいかもしれないが、むしろ、初めて婆ちゃんを見殺しにした事実を知り、責めてくれる人がいてくれることが、僕には救いに感じた。


「出来ることなら、そうして欲しかった。どうして止めてくれなかったの?」

「愚問ね。そんなの禁じられていたからに決まっているでしょ」


 水樹さんは眉間に皺を寄せ、なにバカなこと言ってるの、みたいな顔をする。


 それもそうか。水樹さんの性格上、口に出来ていたのなら婆ちゃんが死んだ瞬間、僕がループを手放すように、力ずくでも説得してきただろう。


「まさか、水樹さんもループの能力者だったとか?」

「名取君は私がループを使っているくらい、器用に生きてるように見えたのかしら? まあ、名取君の場合はループの力があっても、中学時代、全然器用には使っていなかったけど。ああ、でも、器用に使うようになってからは自滅していく一方だったわね」


 器用に使う前、というのは婆ちゃんが死ぬ前の頃だろう。僕はループを手にしていても、極力使わないようにしていた。力に溺れることを恐れていたからだ。


 器用に使っていた頃というのは婆ちゃんが死んだ後のことだろう。器用というが、完全に自暴自棄になり、ループを使いまくっていた。水樹さんの言う通り、使えば使うだけ、僕は自滅し、孤独という道を歩いていたが。


「私がここにいる神様と契約したのは、名取君とは全く別のものよ」


 水樹さんは祠を見つめ、静かに語り始める。


 水樹さんが神様と交わした契約。そして、その能力が今、明かされる。

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