第46話 ループ消失
僕は三日前に戻り、新庄おじさんが事故に合わないよう、未然防止した。
どうやったの? という説明は長くなるし、あまり重要な内容ではないので省略させてもらう。
あの日、婆ちゃんの仏壇前で、ループして以降、僕はループを唱えても使用できなくなった現実を目の当たりにすることになる。
これからの人生どうしよう。
きっと、僕は不安になり、頭を抱えてしまうだろうと覚悟していたが、いざ手放してみると意外にもそう落ち込まなかった。
うまく表現出来ないけど、とても楽しい夢を見ていた後、目が覚めて、ああ、なんだ夢だったのか。
程度くらいの軽いガッカリ感だった。というか、ちょっとホッとした自分がいたと思う。
今思うと僕は早くループを手放したかったのかもしれない。
ループは麻薬だ。
スーパーマンになったような気持ちになり、周りは尊敬の眼差しで見てくれるから、気分は高揚して、もっと認めて欲しいと欲を持ち、ループを使用し続ける。
でも、どうだろうか?
実際、スーパーマンの僕を尊敬する人は、本当にいたのだろうか?
なにより、僕はスーパーマンになることを望んでいたのだろうか?
答えはNOだ。僕が本当に欲しかったものは名声じゃない。
変わらずに家族がいて。変わらずに友達がいてくれること。
皆から総司は空回りするし、頼りないよな。なんて貶されながらも、傍で笑ってくれる人達が、変わらずに傍にいてくれる。そんな未来を望んでいたはずだった。
でも、気付くのが遅すぎた。
僕は婆ちゃんを見殺しにしたという現実は消えない。僕は一生、償って生きていかなければならないのだ。
母さんがずっと僕にかけ続けてくれた言葉。
優しさだけは手抜きしないで生きていこう。と、僕はループの力を失った後、婆ちゃんの仏壇の前で強く誓った。
元に戻った三日間だけでも、僕の人生はループがある、なしでは全然違っていた。
言うまでもなく、サッカーのことだ。当然だが、僕は全然活躍できなくなった。
プロ顔負けのプレーが、いきなり高校レベルに落ちるんだ。周りの人達は、こいつふざけているのか? と眉間に皺を寄せるものもいれば、あいつ下手くそだし、泥臭せぇな、と笑う人もいた。
こうなることもわかっていたし、本当はサッカーを辞めようとも考えた。その方が正直、楽だし、同じサッカー部の仲間も喜ぶはずだから。
でも、ここで逃げたら、一生後悔すると思った。当然、居心地はすごく悪い。でも、逃げちゃダメだと思った。
サッカー部を滅茶苦茶にした以上、僕はこの三年間をかけて、償わなければならない。まあ、好き勝手にやってたんだ。誰も許すはずないだろう。
そう思っていた。
「あの、岩田君」
僕は練習終了後、同級生の岩田君に、恐る恐る声をかけた。
彼はMFのトップ下のポジションにいる一年生で、まだレギュラーにはなれないものの、一年生の中ではかなり実力がある人だ。
岩田君は一瞬、驚いた顔をしていた。
当然だろう。僕はサッカー部に入ってから、自分から声をかけるどころか、人と目を合わせることも避けていたくらいだ。
「さっき、いいパスくれたのに、シュート決められなくてごめん。次は絶対、決めるから」
僕がそう言うと、岩田君は更に驚き、面食らった顔をする。
次の瞬間、岩田君は僕から目を逸し、頭を掻き始めた。
「いや、いいよ。あれは僕も悪い。あのパスは強く過ぎた。でも、あれを決めようと、突っ込む名取の根性は凄いと思ったぜ」
「いや。でも、決めなきゃ意味ないよ」
そう。ループの力があった時は平然と決めていた。というか、そもそもパスに合わせることも、なかった気がするが。
「なぁ、名取」
「なに?」
「最近、お前、サッカー下手くそになったよな」
グサッ。い、岩田君。それはド直球過ぎるだろ。
さすがに僕も言い訳が出来ず「ごめん」としか、言えなかった。
「でも、サッカー、凄く楽しくやるようになったよな」
「えっ?」
「皆はなんて言うかわからないけど。最近、僕、名取にパス出すの、凄くワクワクするよ。まあ、ほとんど決めてくれないけど。でも、前の名取のサッカー、一人プレーでつまらなかったぜ。でも、点数は決めていたな。今の名取、泥まみれにはなっているけど、点数ほとんど決めてないな」
「岩田君。それは褒めているのかな? 馬鹿にしているのかな?」
なんだ、岩田君。クールぽい反面、毒舌キャラも混じっていたのか。それに岩田君、結構口数多いタイプだったんだな。ていうか、そもそも僕、岩田君のこと、なにも知らないや。
僕が困っていると、岩田君は吹き出したように笑った。
「馬鹿にしてねぇよ。まあ、明日もバンバン、パス出すから。決めてくれよ」
そう言って、岩田君は人懐っこく僕の肩に手を回した。
明日もパスを出すから。
そんな当たり前ともいえる言葉が、今の僕には胸を熱くさせる歓喜の言葉だった。
僕は許されないことをしたのに。
もう一生、口も聞いてもらえないと思ったのに。
僕はそれから勇気を振り絞って、サッカー部の一人一人に謝罪した。嘘だと思うかもしれないが、皆が水に流そうと言って許してくれたのだ。
その後、僕は岩田君とも友達になって、僕の周りには少しずつ、人が集まるようになった。




