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無題  作者: 結城智
第5章 ~中学3年の冬 そして高校生~
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第41話 人生

 あれから、水樹さんはすぐに『無様なところを見せたわ。ごめんなさい』と言って、俺の前から逃げるように去って行った。


『お願いよ、名取君……早く元に戻ってきてよ』


 あの言葉は今もまだ、僕の脳裏を過ぎっていく。


 まるで、水樹さんは僕にループを手放して。と、言っているように思えた。そうしないとドラえもんも手放したのび太君になると。


 それでも、俺はこの呪われた力を捨てられずにいた。自滅し、孤独になろうとも。


 ループの力がある人生は障害物もない、舗装された道を歩いている人生みたいで、味気ない退屈な人生かもしれないが、少なくても不安という感情に押し殺されることはなくなる。


 人が生きていくうえで一番、抱く感情はきっと不安だ。


 志望した学校にいけるだろうか。

 将来、きちんと就職できるだろうか。

 就職した会社で、うまくやっていけるだろうか。そこで、安定した収入を得られるだろうか。

 将来、結婚できるのだろうか。離婚しないでいられるだろうか。

 子供は健康な体で、きちんと生まれるだろうか。

 老後は普通に生活できるほどの貯蓄を得ていられるだろうか。


 不安。不安。不安――歩き続ける限り、人生は不安ばかり。


 確かに今言った全てのことが、ループの力でなんとかなるわけじゃない。でも、少なくてもこの力がある限り、将来ある不安の大半は解消できる。


 人生は霧の中を歩いているようなもの。どこにいけば正解か、歩いてみないとわからない。


 道中には綺麗な花や可愛い動物と会える楽しさもあるが、時には地面に地雷が埋まっていたり、銃弾が飛んでくることだってある。


 完全に予測不能。それが人生だ。


 でも、忘れてはいけない。これは俺だけの不安ではない。

 世界中にいる全ての者がその不安を抱え、生きている。そんな中、この世界で俺だけがズルをして生きている。


 人生は理不尽。そんなの当たり前の事。


 時には大きな失敗をし、時には大事な人に別れを告げられる事もあるだろう。

 でも、人は失敗や悲しみを学んで、それを乗り越えていく。最初は皆レベル1でも、たくさんの経験をして、レベルアップしていく。そう、人生はゲームのRPGと一緒だ。


 倒せない敵(問題)は、レベルを上げて再挑戦しなければならない。もし、一人で倒せなければ、仲間を増やし、協力して敵(問題)を倒せば(解決すれば)いい。


 その苦労を重ねて敵を倒すことで、人はかけがえのない達成感というものが得られる。


 だから、最初からチート設定でゲームをスタートして、そのゲームをクリアしたところで、きっと達成感なんてない。主人公は最後、つまらなく、味気のない冒険(人生)だったと嘆くことだろう。


 だから、元に戻ってこい。と水樹さんは言うのだろう。でも、俺はやっぱり、この力を手放すことは出来ない。


 俺は本屋に行くことも忘れ、ふらふらと家路に向かう。


 考え事をしながら、下を向いて歩いていた俺は自宅の標識近くで顔を上げる。すると、家の玄関前で顔見知りの人物が二人立っていた。


 一人は見慣れた顔。七瀬さん。もう一人は久しぶりの再会。見てすぐにわかった。会うのは中学の卒業式以来かもしれない。


「仁」

「おう、総司。久しぶり」


 仁は他校の制服を着ていた。水樹さんと一緒で、久しぶりだというのに、よそよそしさが全くない。仁の笑顔が懐かしくて、俺は少し救われた気持ちになる。


「二人共、揃ってどうしたの?」


 俺が二人を交互に見て聞くと、七瀬さんは目を伏せて黙り込んでしまう。


「総司。大事な話しがあるんだ。家、入れてくれるか?」

「それは構わないけど」


 仁が明るい表情のまま、切り出す。俺は疑問を抱きながら頷いた。


 大事な話しってなんだろう? 


 俺は今だに目を合わせようとしない七瀬さんの様子が気になっていたが、断る理由もないので、そのまま自宅へと促した。

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