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無題  作者: 結城智
第5章 ~中学3年の冬 そして高校生~
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第39話 再会

 季節は秋になり、俺は帰り道、アーケード街を歩いていた。


 今日は一人。いや、今日も一人と言った方が正しいだろうか。


 七瀬さんはテニス部、俺はサッカー部で、それぞれ終わる時間帯が違う為、最近は別々に帰ることが多くなっている。


 最初の頃は部活の終わり時間が別々であっても、どちからが待って一緒に帰っていたのに、最近はそんなこともしなくなった。


 一つ弁解させてもらうと、別々に帰るようになったのは、七瀬さんに嫌われたからじゃない。むしろ、一緒に帰るのを当分の間、やめようと提案したのは俺の方だった。


 学校で俺と一緒にいれば、七瀬さんは別の女の子から嫌がれせを受け続ける。だから、俺は出来るだけ、学校内では一緒にいるべきではないと提案した。


 しかし、七瀬さんは最初、その提案を受け入れてくれなかった。


『なんで悪いことをしているわけじゃないのに、私達が距離を置かなくちゃいけないの? 言いたい人には言わせておけばいいよ』


 と、七瀬さんは首を振り続けていた。


 これでは埒が明かないと思った俺は最終的に「俺が嫌なんだ」と、冷たく引き離す言葉を口にする。

この時、七瀬さんの顔が一瞬にして強ばっていた。気丈にも涙は見せなかったが、体は小刻みに震えていたのを俺は今でも鮮明に覚えている。


 本屋に向かっていた道中で突然、横から「名取君?」と声が聞こえた。


 他校の制服。最初は誰かがわからなかったが、彼女の変わらない、人の事を真っ直ぐに見つめる瞳に俺の心は高鳴る。


「水樹さん?」


 俺が躊躇すると、水樹さんは「あら、酷いわね。私の顔、忘れたのかしら」と笑う。


 凝視するまでは水樹さんだと全く気付かなかった。


 それもそのはず。水樹さんの姿は中学時代と比べ、大きく変わっていたのだ。それはイメチェンして派手になったとかではない。


 水樹さんは長い髪をポニーテールしているのが印象的だったが、今は髪型が大分違う。いや、お団子頭にしたとか、髪を垂らしているとかではない。水樹さんの長い髪はバッサリと切られ、今は首元までのショートカットになっていた。


「髪、切ったんだね。全然、気付かなかったよ」

「あら。髪を切ったくらいで、忘れちゃうなんて名取君、冷たいのね」

「いや、そういうわけじゃ」

「で、どう? 似合うかしら」

「うん。似合うよ」

「じゃあ、可愛いってことでいいかしら」

「あっ、うん。いいと思う」


 久々にも関わらず、以前と変わらない口調の水樹さん。逆に僕は久々なので、少し躊躇してしまっていた。


 やっぱり、水樹さんは水樹さんのままなんだな。何故だろう。少し安心してしまった。


 俺達が顔を合わせていると、不意に横から「すいません」と声をかけられる。振り向くと、そこには女子高生の女の子が二人立っていた。


 二人はちょっとはしゃいだ様子。俺に声をかけたものの、どう切り出していいか迷った様子をみせていた。


 互いに「綾から言ってよ」とか「なんでよ。祐実が最初、声かけようって言ったんでしょ」と、なにやら言い合いをしている。


「あの。もしかして、名取総司君ですか?」

「うん。そうだよ」


 綾と呼ばれた子が俺に対し、おずおずとした様子で尋ねてきた。俺が頷くと、二人はキャー、と突然、黄色い声をあげる。


「あの。サッカーの試合、観ました。凄く感動しました。名取さんは将来、絶対に日本代表になれると思います」

「あっ、うん。ありがと」

「あの、握手してくれますか?」

「いいよ」

「あー。綾ずるい。私もいいですか」


 俺は雰囲気に押されるまま、二人と握手をした。そして、満足した二人は「サッカー。頑張ってくださいね」と言い、そのまま嵐のように去って行く。


 最近、こういったことがよくあるが、やはり慣れないな。正直、始めは煩わしさもあったが、最近はもう何とも思わなくなった。


「今年、S高サッカー部は全国大会優勝した。しかし、それはS高の総合力ではなく、名取総司という選手の力のみで、全てを制圧したといってもいい試合。彼は自分の個人技だけで、全国レベルの選手達を置き去りし、ゴールネットを揺らし続けた。日本サッカー界が創立されて以降、彼ほど飛び抜けた選手は他にいない。将来、必ずバロンドールを取る男であろう」


 いきなり、水樹さんはナレーションのようなセリフと口にすると、悪戯な笑みを浮かべた。


「試合、私も観たわ。優勝おめでとう」

「あ、ありがとう」


 なんだか、水樹さんにおめでとうと言われると素直に嬉しい。中学時代はあまり格好良い姿を見せられなかったから尚更かもしれない。


「ねぇ。名取君は嬉しい?」

「えっ。なにが?」

「全国優勝できて嬉しい?」


 水樹さんは微笑んで尋ねてきた。

 なんだ、その質問。そんなの嬉しいに決まって……あれ、なんだ。

 言葉が出てこない。俺は嬉しいのか?全国優勝出来て? 全然わからない。


 俺が質問に答えらず、硬直していると水樹さんは前髪をかきあげた。


「試合観たわ。会場でね。栞と一緒に」

「えっ、七瀬さんと? 七瀬さんは用事があって、試合は見に行けないって」

「あら、ごめんなさい。そっか、栞は名取君に嘘を言ってたんだっけ。ああ、しまった、口が滑ってしまったわ」


 しまった、と言うわりに全然、しまった感の顔をしていない。きっと、水樹さんは、わざと口を滑らせたのだろう。

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