第38話 全国大会優勝
俺はその後、サッカーに入部した。
S高は確かに強豪校を言われるだけあって、レベルが高かった。俺も同級生の中では引けを取らない活躍が出来たが、二、三年生の実力には全然、届かないレベルに直面する。
だから、俺は入部早々、ループの力を最大限に使い、夏の試合レギュラーになれるようアピールした。
結果、俺は一年でレギュラーになる。
当然、俺はサッカー部の連中から妬まれたが、一切気にしなかった。とにかく、俺はこの一年でレギューラとなり、全国大会で優勝する目標を達成させる必要があった。
何故か。理由は簡単。俺はもうサッカーをしたくない。だから、一年の夏に最大となる目標を達成したら、すぐに退部する気持ちでいた。
夏の試合。俺はループを使用し、俺は地区大会、県大会、全国大会、得点王とMVPを獲得した。そして、S高は全国大会で優勝という快挙を成し遂げる。
もちろん、チームの力じゃない。ループの力のおかげだ。
正直、全国優勝を達成するには相当の労力を果たした。全国レベルだ。いくら俺が点数をとっても、点数を取り返される。ループがあるとはいえ、さすがに攻めと守りの両方を対応するには限界があった。全国大会の二回戦目くらいで、チームとして勝つには、限界である状況に直面する。
S高は攻撃的チームであり、フォーメーションも3-4-3であった為、このままでは全国優勝は無理と俺は判断した。
「監督。今の戦術のままでは、大量得点をとられてチームは負けてしまいます。FWは俺一人で十分です。点数は俺が必ず取るので、5-4-1の守備的フォーメーションに変えてください」
生意気にも俺は監督の元へ行き、フォーメーションの変更を提案した。その時、監督が困った顔で腕を組んでいたのは今でも覚えている。
「名取。お前の言うことはわかる。でもな、同じFWの清水や五十嵐はこの夏の試合で引退だ。あいつらは三年間、血を望むような努力をしてきた奴等だ。俺はそんな奴等を途中で外すのは良くないと思っている」
完全な感情論だな。これじゃ話しにならない、思った。
「監督。チームの勝利と選手一人一人の個々の感情、どっちが大事なんですか?」
「そ、それは……」
「わかりました。もし、俺の要望を受け入れてくれないのなら、俺はこの場でサッカー部を辞めます」
「名取。本気で言っていのるのか?」
「本気です。俺はなんとしてもこの大会、全国優勝をしなければならないんです。それなのに監督が個人的な感情を優先するようであれば、うちのサッカー部に未来はありません。俺はすぐに退部します」
これは一種の賭けのようにみえるが、間違いなく監督は俺の要望を読むと踏んでいた。
そりゃそうだろう。監督だって、この試合、全国大会優勝なんていう快挙を残せば、自分の評価だって相当あがる。嫌らしい話し出世にも関わる問題。大人である監督がそんなチャンスをみすみす逃すわけがない。
結果、監督は俺の要望を受け、フォーメーションは急遽、変更となった。当然、その時、サッカー部の皆が抗議の声を上げていた。
「監督。清水と五十嵐をって、どういうことですか! 今まで頑張ってきた仲間でしょ」
「そうですよ。名取が凄いのはわかります。でも、FWが一人では絶対に点数なんて取れない。今まで名取が点数を取れたのは、清水先輩や五十嵐先輩がDFの気を逸らしていたから」
特に三年、二年の先輩が反対の声をあげていた。騒ぎの中、監督がオロオロとし、俺の顔を一瞥し始めた。
全く頼りない監督だ。そう思い、僕は騒ぎの中で口を挟んだ。
「サッカー部の強豪校が聞いて呆れますね」
嫌味たっぷりに俺が呟くと、室内はシンとなり、部員全員の視線が一斉に集まった。
「清水先輩と五十嵐先輩が今まで頑張って来た? なんですか、それ? 頑張ったって点数取れなきゃ意味ないでしょう。僕は地区大会、今時点の全国大会を合わせた7試合で30点。全試合、ハットトリックを決めている。清水先輩と五十嵐先輩はどうですか? 二人合わせても10得点も取ってないでしょ。一年生の僕にここまで活躍されて、よく平気な顔でFWとして試合に出れますね。僕だったら恥ずかしくて、自分から試合に出るの事態しますけどね」
「なんだと。名取、お前!」
三年生の黒田先輩が突然、俺の胸倉を掴む。
「おい、黒田。辞めろ!」
監督は立ち上がり、慌てて声をあげる。
黒田先輩は鬼のような形相をしていた。その一方、俺は呆れたように溜息を漏らす。
「黒田先輩。あなたもいけないでしょう。怒る暇があれば、きちんとパスだしてくれますか? トップ下なのに、僕等三人に決定的となるパス出せてましたか? 前回の試合、相手チームのディフェンスに手も足も出てなかったじゃないですか。自分の無能さも知らず、身の程知らずもいいところですね」
冷めた口調でそう言うと、俺は胸倉を掴まれた黒田先輩の手を振り払った。
「FWは僕一人で十分です。必ず点数は取るので、皆さんは僕の足を引っ張らないよう、守備に専念してください」
と、一言言い残し、俺は部室を出て行った。
その後、三回戦から残りの決勝戦までの試合、俺は全てハットトリックを決める。チームも守備に専念してくれたおかげで、なんとか全国優勝を達成することが出来た。
この全国優勝は当然、学校内でも大ニュースとなり、かなりの盛り上がりを見せることとなる。
そして、その後、俺は同級生や上級生の女の子から告白を受ける機会が増えた。だけど、その中のほとんどが、初めて話す、見ず知らずの奴が大半で、俺が好きなのではなく、俺と付き合うことで自分のスペックを上げたい、というのは安易に想定出来た。
もちろん、俺はその告白全てを断り続けた。俺には七瀬さんがいる。彼女さえいてくれれば、他の誰もいらなかった。
全国大会優勝。七瀬さんの願いも叶い、俺の肩の荷も降りて、サッカー部も辞められる。そう安易に考えていたが、事態は全く違う方向に向かってしまう。
そう。全国大会優勝に加え、俺は得点王にしてMVP。しかも全試合、ハットトリックという過去に類を見ないほどの活躍をしてしまったせいで、俺はマスコミにも大きく取り上げられ、テレビに出るまでになってしまった。しかも、スカウトまで来て、高校卒業後、プロのクラブに入団するように勧められた時はさすがに焦った。
そのせいで、俺はサッカー部を辞めるタイミングを完全に逃すことになる。
一番辛かったのが、七瀬さんが俺と付き合っているせいで、他の女の子達から嫌がらせを受けるようになっていたことを知った時だ。
それも七瀬さんに相談されたわけじゃない。風の噂で聞いた話。負けず嫌いで気が強い七瀬さんは絶対に俺の前では弱音を吐くことはなかった。
それが返って辛い。辛いのに、俺は一度手にした栄光を手放せずにいた。
結局、俺は七瀬さんよりも自分が大事なのだ。
サッカーが出来る名取総司。という目でしか見ていない他人の評価はその後、上がり続けていったが、内面の名取総司を知る人達は少しずつ、俺の元から離れていくようになった。
そして、俺はこの時――いや、もっと前からかもしれない。
孤独になっていた。




