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無題  作者: 結城智
第1章 ~中学2年の夏~
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第2話 好きな人

「名取君。聞いたよ。今度の試合、レギュラーなんだって」 


 休み時間。教科書を机の中にしまっていると、正面から声がかかる。顔を上げ、その人物を見た途端、僕の心臓は高鳴った。


 声をかけてきたのは七瀬さんだった。本名は七瀬栞(ななせ しおり)さん。同じクラスメイトだ。

ショートヘアに小顔でお人形みたいな大きな二重瞼が印象的。クラスでは社交的であり、グループを作る女の子には珍しく、誰に対しても隔たりなく、明るく接する子だ。成績も優秀で部活はテニス部に属している。去年は一年生でありながら、三位に入賞しており、人脈があることから時期部長の呼び声が高い子らしい。


 お前、随分詳しいな。実は女たらしだったか? という誤解を受けそうなので、補足しておくが、僕は女たらしではない。むしろ、名取君って無関心だよね、と言われることの方がおおい。


 じゃあ、何故、七瀬さんに詳しいのか。正解は自ずと導かれると思う。


 そう。僕が100日間、神社に通ってまで、結ばれたいと願った相手こそが、七瀬さんなのだ。

しかし、想定外だった。社交的な子とはいえ、七瀬さんから進んで話しかけてくるなんて。しまった。今、僕の髪型って変じゃないかと、目を散らしてしまう。


「どうして、慌ててるの?」


 挙動不審になっていた僕を見て、七瀬さんは首を傾げている。


「慌ててないよ。首の体操だよ」


 とっさに苦し紛れな言い訳をする。なんだよ、首の体操って。言った張本人がすぐに心の中でツッコミを入れるくらいだ。七瀬さんはもっとポカンとする場面だろう。


 「なに、首の体操って? それ、流行っているの?」


 いや、メッチャ食い付いてきたな。ごめん、とっさに付いた嘘なのよ。あまり掘り下げてこないで。


「ところで、レギュラーってなんの話し?」


 僕は話しを戻した。すぐに、七瀬さんは、ああ、と思い出した顔をする。


「さっき、尚子から聞いたよ。サッカー部で最近、名取君の株が急上昇して、次の大会でレギュラーだって」

「へぇ。そうなんだ」

「あれ、なんか思った反応と違う。てっきり、デヘヘヘッ、照れるぜぇ。って言うのかと思ったのに」


 いや、思っていても言わないよ。好きなこの前で、デヘヘヘッなんて笑い。


 僕はこの時、嘘を付いた。


 七瀬さんの言う通り、この調子でいけば、夏の試合はレギュラーなれる感触は確かにあった。とはいえ、得意げな顔もするもの恥ずかしい。


「また、妙子の早とりちだったかな?」


 僕の反応を見た七瀬さんは、困惑したように眉を下げる。


 顎に指を当て、少し考え込むような仕草をみせるが「でもさ」と、すぐに明るい声で切り返すと、七瀬さんは空いていた僕の正面席に座り、人懐っこく僕の目を直視する。


「最近、調子いいんでしょ。女の子達の間で噂だよ。今年の2トップは3年の相沢先輩とエースの北村君が濃厚って言われていたのに……名取君、完全にぶっ壊しにいってるって。これぞ革命。下克上ってやつだね。名取君!」


 握り拳を作り、目を輝かせる七瀬さん。


 盛り上げてくるのは嬉しいけど僕、下克上とか言われちゃったよ。本人に悪気はないんだろうが、ちょっと複雑な気持ちになるな。


 僕のポジションはFW。うちの中学は毎年、ほぼ初戦負け。勝っても一、二回戦程度。決勝にいくことはこの十年以上ない。中の下といったところだ。

 でも、今年は違う。FW陣には相沢先輩と北村君という期待選手がいるせいで、今大会は決勝まで駒を進め、県大会も夢ではないという期待もされている。


 相沢先輩は体格がよく、DFに競られても競り負けない安定さと、強烈なシュートが強みだ。性格もプレーと似ており大雑把な人。でも、明るい性格でチームのムードメーカー的存在。


 一方、北村君は僕と同級生だが、一年からレギュラーだった。相沢先輩とは対照的で、体の線は細いが、テクニックも非常に高い。ドリブルでDFを一人、二人と抜き去っていく姿も珍しくはなかった。ただ、少し無愛想で性格に難はあるが、先生や先輩に指示されたことは文句言わずやるので、悪い奴ではないと思っている。


 一方、僕は相沢先輩みたいなフィジカルもないし、北村君みたいなテクニックもない。だけど、必ずゴール前の良い位置に立っていて、ゴールを量産する。ゴール臭覚が非常に高いと監督やチームメイトに最近、評価されつつある。まあ、それもループの力があるおかげなんだけど。


「まだわからないよ」


 七瀬さんの下剋上発言に対し、僕は手を振り、謙虚な姿勢をみせた。


 はっ。しまった! ここで、任せろ。と、言ってみせる方が格好良かっただろうか。僕は少し考え込んでしまったが、ここで時間を戻して言い直す気にはなれない。


 僕は僕だ。こんなことで時間を戻し、やり直しているようじゃ、この先、身が持たない。


「まだわからないっていうのは、名取君がレギュラーになる可能性だって、0じゃないってことでしょ。それなら頑張って。私、応援しているからさ」


 七瀬さんはプラス思考に物事を捉え、席を立ち上がると、親指を立てて笑みを浮かべた。


 そして、七瀬さんが去って行った後、僕はしばらく惚けてしまった。


 ああ。やっぱり、七瀬さんは可愛いな。もう一回、ループして七瀬さんと話したいと思ったが、それこそキリがなくなるから、やめておいた方がいいだろう。

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