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無題  作者: 結城智
第5章 ~中学3年の冬 そして高校生~
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第33話 神様からの天罰

 楽しい修学旅行が終われば、ついに僕達三年生は追い込みとなる受験モード。修学旅行であれほどはしゃいでいた彼、彼女の顔付きは、カメレオンのように色を変えていた。


 これから僕等三年生は卒業式を迎えるまで、志望高に向け、切磋琢磨して勉学に励むわけだが、どこの高校を志望するかは、一年前(二年生の時)に決めた志望校と同じ、という人が大半を占める。


 もちろん例外もあり、慎重になるがあまり、一つ下のランクに落とす人も少なくはない。逆に努力し、一つ上のランクの高校に志望高を変更する者はほとんどいない実態。


 やはり、誰もが安全な道を選ぶ傾向がある。

 それもそうだ。高校、大学受験は人生を左右する重要なイベントといってもいい。誰も失敗なんて望んでいないはず。


 だから、周りからしてみれば、僕の志望校はバカと言われてもおかしくない選択だった。

 僕が受験する高校はかなりレベルが高い。


 簡単に説明すると、うちの学校は4クラスある。1クラス30人程度だとして、全員で120人いるとしよう。その中にいる学年でも、10位前後にいる生徒達が志望するレベルの高校だ。

 僕の成績はループの力を得る前の時点で中の下。順位で言うと、70~80位くらい。そんな僕が、順位を50位ほどあげたレベルの高校を受験するのだ。普通に見て、無謀としか言いようがない選択だ。


 どうせ、お前、ループの力でインチキするんだろ。と突っ込まれる方々。

 その言葉に対し、僕は胸を張って違います。とも言い切れない。半分ハズレで半分正解だと言っておこう。


 実はループの力を得てからというもの、僕の成績は確実にあがっていた。

 何度もループしてテストを復習し、再テストするんだ。授業中も厳しい場面がちょくちょくあったのも事実で、小心者の僕はループが使えるとしても、同じ失敗をしたくないと考えるようになり、以前よりも勉強するになっていた。


 しかし、一番は七瀬さんの存在だ。

 残念なことに。と言ったら失礼にあたるが、もともと七瀬さんは頭がいい。なので志望校も相当、レベルの高い高校だった。


 最近、学力があがった僕を見て、七瀬さんは「頑張れば名取君、私と同じS高でも合格出来ると思うんだ。私、名取君と一緒の学校に行きたいなぁ」と、甘えた言葉を口にしたことが事の真相。僕はまんまと踊らせれ、猛勉強しているというわけだ。


 色恋沙汰だとバカにするものが多いが、案外、人が我武者羅に頑張れる瞬間というものは、そういう単純な理由がほとんどなのかもしれない。そう思うほど、僕の成績はうなぎ上りに上がっていった。

しかし、それでも模試はC判定の努力圏内。冷静に考えれば、十一月の今でこの状況は厳しい。でも、僕は志望校を変えず、諦めない決意していた。


 諦めない決意? いや、違う。この言葉は適切ではないな。それだと、本当に諦めない決断をしている人達に対し、大きな反感を買ってしまう。


 さっき、僕はループの力を使うことに関して、半分ハズレで半分正解という表現をした。

 

 そう。僕は受験当日まで死ぬ気で勉強するし、当日はループを使わずにテストを受けるつもりだ。


 でも、もし合格発表の時、不合格であれば……僕はループを使用することになるだろう。


 情けないと思うが、僕はプライドよりも、付き合った七瀬さんと同じ学校に行きたいという願望の方が遥かに上回っていた。


 そして、最初に自分の中で決めていた【七瀬さんと付き合ったらループを捨てる】という決意も虚しく、僕は未だにループを捨てられず、人生の障害を守る保険として、手の内に留めていた。


 だからだろうか。そんな僕を見かねた神様は怒りの鉄槌を食らわせてくるのだ。


 そう。遂に神様は僕の大切な者を奪いにきた。




 放課後。その出来事はなんの前触れもなく起きた。

 僕は図書館で七瀬さんと一緒に勉強していると、ポケットの中に入っていたスマホのバイブレーションが振動する。

 スマホを取り出すと、液晶画面に【お母さん】と表示されていた。七瀬さんはこちらの方を見ていたので、僕は「ごめん」と一言告げ、図書館を出た。


「総。あんた今、どこにいるの?」


 僕が電話を出て、もしもし、と言う前に、母さんは早口に切り出してきた。


 普段なら、なんだよ、急に。と言い返すところだが、明らかに母さんの様子がおかしいと、声の第一声で察した。


 それは母さんが普段出す、日常でも聞き慣れた不機嫌な声や怒った声とは違う。今までほぼ聞いたことがない、焦りと不安が入り混じったような声だった。


「学校の図書館だけど。なに、どうしたの?」


 僕は嫌な予感がして、母さんの回答を急かす。ところが、母さんはすぐ答えず、互いに沈黙の時間が流れる。


 しばらくし、母さんの重い口は開かれた。


「お婆ちゃんが交通事故にあったの。病院に運ばれたみたいなんだけど、かなり危険な状態だって」


 婆ちゃんが交通事故だって?

 僕は耳を疑う。しかし、脳で事態を把握するより先に異常は体の方に表れた。


 そう。今まで経験したことがないくらい、恐ろしい寒気が僕の体を襲ってきたのだ。


「なんだよ。交通事故って。大丈夫なんだろ!」


 僕は完全に錯乱していた。危険な状態だと言われているのに、大丈夫であって欲しいという願望が強過ぎる為、母さんの言っていた言葉を裏返すような発言をしてしまう。


 でも、錯乱しているのは母さんも一緒。僕の言葉に対し、冷静に返す余裕などなく「わからないわよ! いいから、あんたも早く病院に来なさい!」と、癇癪気味に言い返された。


 母さんに病院の住所を聞くと、僕はすぐにタクシーを呼ぶ。そして、僕は足早に外へと飛び出して行く。


 タクシーを待っている間、焦りと苛立ちが混じったような心境になり、僕は「早く。早く来いよ。くそ、なにやってんだよ」と呟き、校門前周辺をウロウロしていた。

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