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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第31話 仁と水樹さん

 観覧車に降りた後、仁と水樹さんは二人出口付近で待っていてくれた。


「紅葉。トイレ大丈夫だった?」


 開口一番に七瀬さんが聞くと、水樹さんは「ええ。すっきりしたわ」と答えていた。


「紅葉。トイレって嘘でしょ。北村君も」


 間髪入れず、七瀬さんはむっとした顔で仁と水樹さん交互に見つめる。それとほぼ同時に、仁と水樹さんは僕の顔を見つめた。


「あら。気づいていたの?」


 僕の表情で状況を読み取ったのだろうか。僕が言葉を発する前に、水樹さんは悪気もない顔で答えた。


「ううん。後でなんとなく気付いた」

「そう。で、観覧車は楽しかった?」

「楽しかった。ありがとね。私達のために二人きりにしてくれたんでしょ」

「私達? それは語弊があるわね。正しくは名取君のためよ」

「嘘ばっかり。紅葉だって、私の気持ち気付いていたでしょ」


 なんだって? 僕は七瀬さんの言葉に耳を疑う。しかし、そっぽ向いてしまった水樹さんは「どうだったかしらね」と誤魔化していた。


「二人共ありがとう。僕、七瀬さんと付き合うことになったよ」


 僕が改めて、二人に報告をすると仁は「マジか。良かったな、総司」と、自分のことのように喜んでくれた。


 なんて優しい奴なんだ。本来、自分の好きな子が他の男に取られる瞬間を目にしたら、我を忘れて逃げ出しても可笑しくない状況なのに。


 付き合う以上、これは避けては通れない道。僕達、四人の関係も今後どうなるか懸念されるが、こればっかりは仕方ない。

 そう思ったのも束の間、僕と七瀬さんは思いもしない出来事に直面することになる。


「そう。本当に良かったわ。もし、ダメだったら私達が気まずいものね」

「ああ。そうだな」


 仁と水樹さんが顔を見合わせ、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 確かに。僕に告白を後押しして、ダメだったとなれば、二人だって気まずいはずだ。


 しかし、この時、僕が思っていた二人の気まずい、という意味合いはたいぶ違っていた。


 そう。僕達が観覧車の中で、甘い青春を迎えている時、この二人にもドラマがあったのだ。


「あのね。おめでたい話しに、更におめでたい話しを加えるようになるけど、私と北村君も付き合うことになったわよ」


 はっ。今、なんて言った?

 僕は耳を疑う。それは七瀬さんも一緒だったようで、口をあんぐり開けて、仁と水樹さんを見つめていた。


「あら、なによ、二人共。おめでとうの言葉がないのかしら。失礼しちゃうわ」

「本当だよな。二人共、喜んでくれないのかよ」


 人懐っこく仁は僕の肩を組んできた。僕は仁の顔を見つめ、口をパクパクさせてしまう。

 お前、七瀬さんのこと好きだったんじゃないのかよ。と、突っ込みたかったが、さすがに七瀬さん、水樹さんがいる手前、それも口にできない。


「嘘。どっちから告白したの?」

 

 七瀬さんが聞くと、水樹さんは「当然、私よ」と即答する。


「紅葉。北村君のこと好きだったの? 私てっきり」


 と、一瞬、僕の方に視線を向けるが、いけないと察し、慌てて目を逸らした。


「ええ、好きよ。別に不思議じゃないでしょ? だって、北村君、格好いいし。男らしいし。中学生になって、ドラえもんを電子書籍で読む名取君よりは、十分魅力的だと思うけど」

「そんなことないよ! だって……だって、名取君は優しいし」


 総司は100ポイントのダメージを受けた。


 ああ、水樹さんの言葉はごもっともだけど、ドラえもんのくだり、皆の前で暴露しないでくれ。それに七瀬さんのフォロー、あまりフォローになっていないし。


 結果、この修学旅行で僕達4人は晴れて2組のカップルが誕生した。


 めでたし、めでたし……なんだろうか?

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