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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第30話 告白Ⅲ

「昔、僕が逃げ出そうとしたのは嫉妬だよ。だって、そうだろう。好きな女の子に友人を紹介されるなんて、これほど辛いものない。七瀬さん、君はそれを二回もした。酷い仕打ちだよ」

「だ、だって」

「だってじゃない。僕は一年生の時、七瀬さんが応援してくれたあの日から、ずっと君を見てきたんだよ。七瀬さんが僕の前で笑ってくれたら、その日は鼻歌を歌いながら帰ったし。七瀬さんが他の男と楽しく話すところを見れば、へこんで帰っていた」


 ああ、格好悪い。とてつもなく格好悪い。せっかく格好いい告白を考えてきたのに、全て台無しだ。これじゃ、完全に八つ当たりじゃないか。


「だって、私ずっと」


 急に七瀬さんの目に大粒の涙がぽろぽろ零れていく。

 やばい、泣かせてしまった。少し言い過ぎてしまったようだ。


「ご、ごめん。言い過ぎたね」


 ああ、やっぱり僕は格好悪い。

 こんな時、出来る男はそっとハンカチを手渡すのだろうが、僕は立ち上がったものの、ただアタフタとして、肩に手をかける勇気すらない。


「私だって一緒だよ。でも、名取君は紅葉が好きだと思ったから。諦めようとしてたんだよ」


 えっ……今、なんて言った?

 僕は立ち上がった状態で、動きが止まってしまう。


 七瀬さんは唇を噛み締めながら、睨むような形相で僕を直視する。僕を見つめる七瀬さんの瞳からは、今も涙がこぼれていた。 


「冗談だよね」

「バカじゃないの。こんなこと、冗談で言うほど私、非常識じゃない」

 七瀬さんが僕のこと好き? いや、嘘だ。そんなはずはない。そんな切っ掛けになるような出来事なんてあっただろうか。


「そんな、いつから?」

「知らないよ、そんなの。でも、修学旅行の班決めの時に私、自分の気持ちに気付いたの」


 さすがに泣いているところをずっと見られるのは嫌なのだろう。七瀬さんは自分の服の裾で、雑に目を拭っていた。


「班分けの時、ひと騒動あったこと覚えてる? 植木さんとか、いろんな子達が北村君と一緒の班になりたいって、群がってきたじゃない。あの時、私は何故かホッとした。言い寄ってくる相手、名取君じゃなくて良かったって。でもさ、その時、名取君が紅葉と小声で話してたよね」


 水樹さんと話しをした? なんだろう。全然、覚えていない。あの時は僕も仁大変だな、と思う反面、羨ましいと思う自分がいたことは覚えているが。


 首を傾げる僕に対し、七瀬さんはバツが悪い様子で顔を伏せた。


「紅葉が『モテる男は大変ね』って言ったの。そしたら、名取君は『いや、大変だけど、男として羨ましいよ』って言ったの」


 ああ、確かにそんなこと言った気がする。


「そしたら、紅葉は『あら、名取君もモテたいの?』って聞いて、名取君は『そりゃ、人並みにはね』と答えた。次の瞬間、紅葉は笑って『大丈夫。名取君が売れ残ったら私が拾ってあげるわ』って言ったの。その言葉に名取君は『それはありがたい』って。そして、二人は顔を見合わせて、微笑んでいた」

「あっ」


 思い出した僕はつい声を漏らしてしまう。その声に気付いたかどうかはわかないが、七瀬さんは俯いた状態で淡々と話しを続けていく。


「あの瞬間、私、胸が一気に熱くなって、きりきりと痛んだ。そこでやっと実感したの。私、名取君のこと好きなんだって。思い返してみれば私、サッカーの試合の時も、普段四人でいる時も、北村君じゃなくて、自然と名取君を見ていた。北村君がシュートを決める時も嬉しかったけど、名取君がシュートを決めた時はもっと嬉しかった。嬉しかったけど、凄く複雑だった」

「なんで?」

「だって、名取君が活躍すれば、他の女の子が名取君を好きになっちゃう。それは困る」


 なるほど。その気持ちはわからなくもない。


「ねぇ」


 不意に七瀬さんは顔を上げ、僕に声をかける。


「名取君の好きな人って、本当に私なの? 紅葉じゃない?」

「本当だよ」

「紅葉のことはどう思うの?」 


 ああ、やっぱりそうくるか。七瀬さんが知りたい気持ちは十分理解できるが、なかなかそれを言葉として表現するのは難しい。


 とはいえ、ここは誤解がないよう、正直に答えるべきだろう。


「水樹さんは本当に友達だよ。仁と似てる感じかな。サッカーの話題も合うし、いろんな趣味も合うから」


 ドラえもんと直球で言うのは恥ずかしいから、僕はいろんな趣味という表現をした。


「趣味が合うなら、私より紅葉の方がいいんじゃないの? 顔だって私より断然可愛いし」


 口を尖らせ、七瀬さんはひねくれたことを言いだした。

 なんだろう。七瀬さんってもっとサバサバしている人かと思っていたが、恋愛が絡んでしまうと人は面倒臭くなってしまうものなのだろうか。


「それとこれは違うよ。それに僕は水樹さんより、七瀬さんの方が可愛いと思ってる」


 普段は絶対に口に出来ない言葉が何故かこの時は自然と口に出せた。


 七瀬さんは顔を真っ赤にさせると「バカ」と、耳を澄まさない聞こえないような声を呟く。


「ねぇ。本当に私でいいの?」

「僕は七瀬さんじゃないと嫌だ」

「そっか。うん、良かった」


 僕の言葉に七瀬さんはホッとしたような笑みを浮かべる。


「でも、どうしようね。私達、付き合うことになったって知ったら、紅葉も北村君も仰天しちゃうよ」

「それはないと思う」

「えっ、どうして?」

「うん。実はさ、僕が七瀬さんを好きという気持ち、前から二人共気付いてたんだよ」

「えっ、嘘ッ! いつから?」

「わからないけど。多分、一年以上前くらいから気付いていたかも」

「そんな……私は全然気付かなかったのに」


 それは七瀬さんが鈍感だからだろう。または変に水樹さんの存在を意識し過ぎてしまったからだろう。まあ、仁を意識し過ぎた僕も同じようなもんだけど。


「ねぇ。私、本当は性格悪いよ。学校では八方美人だけど、実は結構ワガママだし。だらしないし。結構、重い女かもしれないし」


 付き合う前に心配になったのだろうか。観覧車がそろそろ終わりを迎える頃、七瀬さんは事前にマイナスな情報を提示してきた。


 なるほど。なら、僕も事前に提示しておかなくてはな。


「そんなこと言ったら、僕だってだらしないし。全然、男らしくないし。マメさもなくて、マイペースな人間だよ」


 今のうちにいろんなこと言っとけ。と思い、自分の悪いところを口にしていくが、吹き出したように七瀬さんが笑った。


「名取君、大丈夫だよ。それ、いつもの名取君だから」

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