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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第28話 告白Ⅰ

 個室の空間。観覧車はゆっくり上昇していく。


 景色を楽しむ気になどなれず、僕は正面に座る七瀬さんに視線を移す。


 七瀬さんは窓の外に視線を向けてたまま、こっちを向かない。普段なら沈黙を嫌って、自分から進んで喋りだすのだが、今のところは違う。


 僕は七瀬さんの横顔を見つめていた。この距離だ。僕の視線に気付いているはずなのに、七瀬さんはこっちを見ようとしない。無表情のまま、頑なに意識を窓の外へ向けようとしている感じもする。


「七瀬さん、ごめん。僕と一緒に観覧車に乗るの、嫌だった?」


 僕がそう聞くと、七瀬さんはしばらく沈黙を通した後「そんなことないよ」と、否定する。だけど、視線はこちらに向けてくれない。


 なにを考えているのだろう? と、考えていると、七瀬さんは急に「ねぇ」と声をかけてきた。


「名取君はさ。この状況、なんとも思わないんだ?」

「この状況って?」


 まさか、七瀬さん。仁と水樹さんの嘘に気が付いていたのか。まあ、冷静に考えれば、あの状況はあまりにも不自然過ぎる。気付かない方がおかしい。


「二人共、トイレに行ったこと?」

「えっ。トイレ? ああ、そういえば、大丈夫かな、二人共。北村君なんて、大だって言ってたしね。間に合えばいいけど」


 七瀬さんは今、そのことを思い出したような顔で、ちょっと心配そうに窓の外を見つめた。

 あれ、話題は二人のことじゃないのか。というか、あの状況を怪しみせず、素直に事実だと受け止めてしまう七瀬さんの無垢さに、心打たれてしまうのと同時に心配にもなる。


「てか、私が言いたいのはそういうことじゃないよ」

「じゃあ、どういうこと?」


 わけがわからないので、僕はそのまま、聞き返す。が、どうやら、それが七瀬さんの逆鱗に触れたようで、七瀬さんは噛み付くような目で僕を睨んできた。


「はぁ? 名取君、失礼にも程があるよ。そりゃ、名取君はさ、私のこと女として見ていないんだろうけど。普通、同じ年の男女が二人きりで、観覧車に乗れば、緊張の一つもするでしょ」


 顔を真っ赤にさせ、七瀬さんは叩きつけるような口調で言う。

 言った後「なんで、私がこんなこと言わないきゃいけないのよ」と、悪態を付き、また窓の外に視線を向けてしまった。


 七瀬さんの表情を見て、僕は今までとんでもない勘違いをしていたんだと気付く。


「七瀬さん。僕のこと、男として見てたんだね」

「はぁ。何それ。意味不明なんだけど。名取君、もうここから飛び降りて」


 七瀬さんは眉間に深いシワを寄せ、また僕を睨み付ける。相当、苛々してるのか、悪態も水樹さんレベルに達していた。


「いや、ごめんね。僕ってさ、クラスでも、かなりの草食系に位置づけられてるから。女の子にも、名取君とは安心して添い寝出来るとか、実はホモでしょとか。全然、男性として意識されたことないから」

「それは言葉の綾でしょ。なに本気にしてるの。バカみたい」


 七瀬さんは呆れたような顔をする。なんだか七瀬さん、今日はやけに辛口だな。


「なんか前も言ってたよね。仁は格好いいし、男らしいからモテるよなぁって」

「それは事実でしょ」


 実際、仁はかなりモテる。女の子に告白だって何回もされているし。


「モテるのは確かに北村君の方だけどさ。だからって、ひがむのはよそうよ」

「僕、そんなひがんでた?」

「ひがんでるよ。いつも私と二人きりになると、仁は格好良いなぁって話しばっかり。私、ぶっちゃけ、名取君と北村君はデキてると思ったもん」


 しまった。仁を警戒するあまり、無意識に七瀬さんの前では、仁の話しばかりしていたのか。今、七瀬さんに言われて初めて知ったよ。


「北村君と一緒にいることで、劣等感に苦しむなら。いっそのこと離れちゃえばいいのに」

「それは嫌だよ」

「なんで?」

「そんなの仁のこと、好きだからに決まってるだろ」


 うわー、なんの告白だよ。七瀬さんに告白しないで、仁に告白をしてどうするんだ、僕は。


「ふふ。そう言うと思った。二人共、本当に仲良いもんね」


 観覧車に乗って、初めて七瀬さんが笑った。それを見て僕は安心する。


「名取君。一つ、自信持たせること言ってあげようか?」

「えっ。なに?」


 七瀬さんは僕を上目遣いで見つめると、照れ臭そうにはにかむ。


「私は北村君より、名取君の方が好きだよ」

「う、嘘でしょ」


 衝撃の告白だった。そんなことあり得るのか。


「ううん。嘘じゃない、本当。ああ、もちろん、北村君も好きだよ。確かに北村君、名取君よりイケメンだし、サッカーうまいし、男としても魅力的だし」

「ちょっと待ってよ。今の発言だと僕、完全に負けているよね。サッカーのスコアでいったら、4対0くらいだ」

「そうだね。今のままだと、4対0で名取君ボロ負けだよ。でも、名取君には5点以上取り返す魅力があるから」


 そんな魅力、僕にあっただろうか? 全く心当たりがなく、宙を見上げていると、七瀬さんは優しげな声で言う。


「名取君。君はとっても優しいよ」

「えっ?」


 七瀬さんの言葉に僕はポカンとしてしまう。

 優しい。その言葉になにかが続くと思ったが、なにもなし。七瀬さんは満足げに頷いているが、僕は拍子抜けしていた。


「優しいって、それだけ? 嘘。今、5点入った?」

「入ったよ。5点どころか、10点の大量得点。凄いね。逆転勝利だよ」

「なんだか、ピンとこないよ」


 僕が素直に喜べないでいると、七瀬さんは弟の面倒を見る姉のような顔で「全く、今日の名取君は欲しがり屋さんだなぁ」と、小首を傾げながら僕を見る。

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