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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第28話 観覧車

 翌日。僕達はまた同じ四人で、ディズニーランドを一緒に回った。


 人気のあるアトラクションを中心に回っていき、一時間以上待ちもザラにあったが、会話が弾んだせいで、待ち時間も楽しいものになった。


 この時、僕は会話をしながら、不意に過去の記憶を呼び起こしていた。


 僕は仁、七瀬さん、水樹さんの三人と急激に仲良くなったのは、ちょうど一年前。


 中学二年の六月頃。

 仁が早朝、ロードワーク中に鉢合わせしたのが始まり。それから、一緒に練習するようになり、それを切っ掛けに僕と仁は会話する機会が増えていった。

 前は人を寄せ付けない冷たい印象があったが、僕と仲良くなるにつれて、仁はずいぶんと口数も増えたし、表情も豊かになったように思える。最初は人見知りもしたが、少しずつ他の人とも普通に話すようになり、急激に社交的になった。


 七瀬さんは最初の頃、仁と一緒にいるとよく話しかけてきた。もしかしたら、仁に気があるんじゃないかと、その頃から内心警戒はしていたが、誰に対しても愛嬌ある対応をするので、本性が全く読めない子だという印象が強かった記憶がある。


 でも、去年の冬、水樹さんのプレゼントを一緒に買いに行ったことを切っ掛けに、七瀬さんが僕に見せる態度が少しずつ変わっていく。

 ほとんどの会話で相槌を打っていた七瀬さんが、時々反論してくるようになった。前は「そうなんだ」や「なるほどねぇ」と言っていた彼女が「そうかな?」とか「私はこう思うな」というように、自分の意思や感情を素直に見せてくれるようになった。


 他の人の前ではやはり、八方美人な感じが否めない中、自分には本心を見せてくれるのが、僕にとっては一番嬉しい変化だった。


 唯一、水樹さんに関してはなんとも言えない。

 よく考えてみれば、水樹さんだけはずっと変わらないままだ。一年前から変わらず、僕に対しては容赦なくズバズバ言ってくるけど、それでいて実は優しくフォローしてくれたりする。

 ただ、一つはっきりして言えることは、水樹さんを冷たい奴、と呼ぶ輩が今だに多いが、僕はある意味、この中で一番優しい人は水樹さんなんじゃないかと思っている。


 そう。優しい人だと思うが、今回、水樹さんの優しさがあまりにも、強引さを増すことになることを僕は数分後に体感することになる。




 遊園地にいれる時間も残り僅か。最後の乗り物を前にして、事件は起こった。

 僕達は観覧車の列に並んでおり、もうそろそろ順番が回ってくると思った瞬間、急に水樹さんがとんでもないことを言い出したのだ。


「ごめんなさい。私、急にお手洗いに行きたくなったわ」

「えー! このタイミングで!」


 空気が読めない発言をする水樹さんに対し、七瀬さんは周りに聞こえるくらい、大きな声をあげる。


「我慢できないの?」

「難しいわね。もしかしたら、観覧車の中で、漏らすかもしれないわよ。私、嫌よ。中学校の修学旅行、観覧車で放水しちゃったなんて思い出残すの」

「うー。そりゃ、そうだけど」


 全く悪気もなく答える水樹さんに、七瀬さんは露骨に顔を曇らせる。

 無理もないだろう。今回、遊園地で七瀬さんが一番楽しみにしていたのが観覧車だった。


 そんな時、仁までとんでもないことを言い出す。


「あー。ヤバイ、俺も行きたくなってきたぜ」

「えっ、北村君まで?」

「ああ。しかも、大かもしれない。嫌だぜ、俺。中学校の修学旅行、観覧車でウンコ漏らすの」


 誰も小か大かなんて聞いていないよ。しかも女の子の前で平気でウンコって発言。本当に仁、七瀬さんのこと好きなのか。


「そう。じゃあ、連れションしましょうか、北村君」

「おお、いいな。燃えるぜ」


 なにが燃えるのか、さっぱりわからん。ただ、二人がやりたいことは大体想像がつく。

 仁と水樹さん。きっとこの二人、僕の知らないところで、手を組んだに違いない。そして、観覧車を僕と七瀬さんの二人きりにさせる気だ。


「うー、仕方ない。観覧車は諦めるよ」


 項垂れて七瀬さんは並んでいた列を外れようとすると、水樹さんが引き止めるように七瀬さんの腕を掴む。


「何を言っていの、栞。観覧車、あんなに楽しみにしてたじゃない」

「そんなこと言ったって、仕方ないでしょ。二人共、乗れないんじゃ」

「なんで仕方ないのよ? 名取君と二人で乗ればいいじゃない。ねっ、名取君?」


 突然、水樹さんがとんでもないパスを出してきた。


 瞬間、僕達の間に静寂な空気が流れる。ただ、水樹さんと仁は僕に対し、明らかにガンを付けるような睨みをきかせていた。


 お前、ここで逃げたら殺すぞ。と、そんな目をしている。


 これは完全に脅しってやつじゃないだろうか。全く、二人共やり方が強引だよ。

 しかし、ここで逃げ出したら、この二人に示しがつかない。


 僕の心臓は激しく高鳴っていたが、意外にも頭は冷静でいられた。


「そうだね。七瀬さんが嫌じゃなければ、一緒に乗ろうよ。せっかく並んだんだし、楽しみにしてたんでしょ」


 迷わず僕がそう言うと、七瀬さんは目を丸くする。


 七瀬さんはしばらく黙って俯いていたが、顔を上げると「うん。じゃあ、一緒に乗ろうか」と、ちょっと緊張したような声で頷いた。


 この瞬間、仁と水樹さんが、さりげなく親指を立てていたのを僕は見逃さなかった。

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