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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第27話 告白への決意

「うおー、夜景が綺麗だぞ。総司」


 自由行動を終え、宿泊するホテルで夕食はバイキング。その後、大浴場で入浴を終えた後、僕と仁は部屋に戻った。


 部屋は二人一組であり、僕と仁は同じ部屋だ。遅れて部屋に戻ってきた仁は、真っ先にカーテンを開けて感激の声をあげている。


 僕は読んでいた小説を机に置き、部屋に戻ってくるなり、妙にテンションが高い仁に違和感を覚える。仁がこういうテンションの時は、決まってあれだ。


「今度は誰に告白されたの?」


 間髪入れず、僕が聞くと、仁は驚いたように振り返る。


「えっ、なんで?」

「馬鹿だな、わかるよ。仁が変にテンション高い時はいつもあれだ。告白されて、フッた時。その後、必ず罪悪感に潰されそうな顔をしている」


 告白されたのも、これで一、二回目でない。もう、十桁いっていると思うが、仁は慣れることはない。仁は優しい過ぎるからな。


 告白する子の大半は、仁の容姿やサッカーの上手さに魅力を感じているが、実際はそうじゃない。大雑把な口調だから、冷たい印象を持つ者が多いが、常に相手の気持ちを汲もうとする優しい性格。それが仁の最大の魅力といってもいい。まあ、告白してきた子の何人がその魅力に気付いているかは知らんが。


「誰に告白されたの?」

「同じクラスの植木だよ」


 仁は狼に追い詰められたウサギみたいな顔をすると、僕の正面にあった椅子に腰を落とす。


「ああ、植木さんか」

「なんだよ。驚かないんだな?」

「いや、まあ……」


 仁は残念なことに、自分のことに関しては超が付くほど鈍感だ。

 実は修学旅行のグループ組みの時、多少揉めたのだ。

 結果論を言うと、グループは僕、仁、七瀬さん、水樹さんになったが、仁と同じグループになりたいという女の子は非常に多くいた。その中でも最後まで、諦めが悪かったのが植木さんだった。


「モテる男は辛いね」

「別に俺は辛くねぇよ。辛いのは相手の方だろ。きっと、告白ってのは勇気がいることなんだろうからさ」

「えっ。仁、今まで告白したことないの?」

「ねぇよ」


 と、仁が言った瞬間、互いに気まずい空気が流れる。きっと、仁も同じことを考えている。


「あーあ。総司が早く七瀬に告白してくれればなぁ」


 仁には珍しく、投げやりで、攻撃的な言葉を口にする。


 そうだ。このまま、僕は告白しなければ、仁も七瀬さんに告白できない。いくら勝負に勝ったとはいえ、これでは水樹さんの言う通り、仁は生殺しだ。


「そうだよね。僕が告白して、七瀬さんにフラれれば、仁も告白できるもんね」

「はぁ? なんでフラれる前提なんだよ」


 意味不明だ。とでも言いたげな感じに、仁は不愉快そうな顔をする。その反応が逆に僕にとってみれば、意味不明だった。


「いや、だって僕は仁みたいにモテないし」


 実際、僕は仁のようにイケメンでもなければ、運動神経抜群でもない。頭も良くなければ、これといって面白いわけでもない。クラスメイトに数十年後、名前を出されても、誰だっけ? と首を傾げられるタイプの一人だろう。


 途端、仁は眉間を抑えながら「あー。今日は頭がよく痛くなる日だぜ」と、椅子へ倒れ込むように寄り掛かる。


「あのな、総司。今から俺、凄く格好悪いこと言うけど、友達辞めるとか言わないでくれよ」

「なに? 逆に怖いんだけど。実は俺、男が好きなんだとか言わないよね」

「ああ、それはない。俺、お前のこと愛してるけど、お前の裸見たいとか思わないから」

「なら大丈夫だよ」


 なにが大丈夫なのか自分で言っておいて知らんが、仁は僕の言葉に安堵した顔をし、椅子に寄りかかっていた体を前のめりにした。


「二つあるけど、まず一つ。仮に総司が七瀬にフラれても、俺は七瀬には告白しない。俺はあの試合が一つのケジメで、負けたらきっぱり諦めようと思っていた。嘘かと疑うかもしれないけど、今の俺に未練はない」


 未練はないか。仁を信用していないわけではないが正直、疑わしいと思う。


 人を好きになって、誰かに奪われたからといって、そう簡単に諦められるものじゃない。

 女々しいと思うかもしれないが、仮に僕が勝負に負けたとして、仁と七瀬さんが付き合うようになったら、間違いなく嫉妬に狂う。四人一緒で仲良くなどいられる自信はない。


「もう一つは正直、言いたくない」

「今日は夜景が綺麗だし。汚い言葉も浄化されるさ」

「総司。お前、話しのこじつけ方、滅茶苦茶だな」


 僕は仁の本心が聞きたいがために、窓の方を一瞥して適当なことを言う。仁は苦笑しながらも、少しホッした顔をしている。


 喉まででかかった言葉。そういう言葉を胸にまた戻すのは苦痛。なら、滅茶苦茶でも、背中を軽く押せば、人は簡単に本音を吐き出してしまうものだ。


「俺さ、怖かったんだ」

「怖かった?」


 なんだ、いきなりおぼろげな単語が飛び出てきたな。一瞥すると仁は俯いたまま、唇を噛み締めていた。


「七瀬は多分、総司のこと好きだと思うよ」

「はっ? なに、寝ぼけてるの?」

「寝ぼけてねぇよ。俺の勘だけどよ。間違いない」


 仁の奴、なにを根拠に言っているのだろう。まあ、仁の勘だ。当てにはならないだろう。

 しかし、本人は大真面目な顔だ。


「だからよ、総司に告白される前に俺が告白したかった。対等に渡り合ったら、総司には勝てないからよ。あーあ、最低だよな。だから、勝負を仕掛けて、総司より先に俺が七瀬へ告白する権限を得ようとしたんだ。まあ、結果、俺が負けたから、意味ねぇんだけどさ」


 自己嫌悪に陥った様子で、仁は窓の外に目を向けている。気まずいのか、僕と目を合わせるのを避けているようだ。


 別に僕は仁を最低だと思わない。むしろ、凄い。本人を目の前にして、汚い感情も素直に話すのだから。そんな中で僕は複雑な感情を覚えていた。


 それは罪悪感かもしれない。僕はループを使っていけない男同士の真剣勝負にズルをした。そんな卑怯な僕の姿を仁は知らず、反省の言葉を口にしている。


「でも、負けてすっきりしたよ。これは本音だぜ」

「仁はそれでいいの?」

「いいさ。総司が相手なら文句はない」


 仁は真っ直ぐに僕を見据え、優しげに笑みを浮かべる。


 仁、違うんだ。僕は仁が思うような人間じゃない。と、一瞬口に出しそうになったが、僕はグッと口を噤んだ。


 そして、償いだろうか。いや、僕は無意識に決意の言葉を口にする。


「わかった。僕、明日、七瀬さんに告白するよ」


 僕はこの時、もう後戻りはできない選択をした。


 七瀬さんへの告白。もし、ダメだったとしても、ループは使わない。

 全てを受け入れようと思った。


「もし、ダメだったら、やけ酒に付き合ってね」


 僕がそう言うと、仁は微笑んで「ああ。その時は朝まで飲もうぜ」と、告白に後押ししてくれた。

 お前達、まだ酒飲めねぇだろ。と、突っ込んでくれる第三者は誰もいなかった。


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