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無題  作者: 結城智
第4章 ~中学3年の秋~
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第26話 それぞれの想い

「す、好きじゃないわ」

「名取君。声、震えてるわよ。しかも、おネエ口調になってるし」


 失敗。完全に動揺がだだ漏れしてしまった。

 結果、動揺しているのが、露骨に漏れてしまった。そんな僕を水樹さんは冷めた目で見つめている。


「告白はいつするのかしら?」

「そこまで、まだ考えてないよ」

「ああ。やっぱり、栞のこと好きなのね」

「あっ」

 しまった。僕としたことが、水樹さんの罠にまんまとハマってしまった。もう、誤魔化しても仕方ない。白状するしかなさそうだ。


「好きだよ。でも、告白とかそういうのは、まだ先だよ」

「あら。じゃあ、いつ告白するつもりなのかしら?」

「そんなこと言われても、わからないよ」

「あなた。まさか、100%うまくいくという確信がないと告白ができないタイプ? 酷い、だとしたら、私は今まで名取君を買い被り過ぎていたわ」


 僕は何故か水樹さんに罵られる。なんでこうなったんだろうか。と思いながら、僕は素直な思いを口にした。


「僕は4人が仲良しのままでいられれば、そのままでもいいと思っている」

「ああ、糞ね」

「えぇぇぇー。糞なの?」


 急に糞なんて罵声を浴びせられ、僕はマスオさんみたいな裏声を上げてしまった。


「そう糞よ。名取君、あなた自分を守る口実を、綺麗事で片付けたわね。それ、とても失礼よ。栞だけじゃない。北村君や私にも」


 水樹さんの罵声は収まるどころか、炎上している。僕が喋れば喋るだけ、火に油を注ぐような感じになっていた。


 こういう時、僕の性格上、適当に促してその場をやり過ごすのだが、この時はどうしても誤解したままで終わらせたくないと思ってしまった。


「別に綺麗事じゃないよ。4人で一緒にいたいと思うのは嘘じゃない」


 僕は水樹さんを睨みつけ、はっきりとした口調で言い放つ。

 ここまできたら、もう喧嘩になろうと知ったこっちゃない。それにここは引いちゃいけないと場面だと思った。


 水樹さんは正直な人だし、とても鋭い人だ。中途半端に取って付けた言葉を口にしたら、それは嘘だと察する。そして、その瞬間、僕に対して見切りをつけるだろう。

 それは一番あってはならない。いや、あって欲しくないと思った。


 失礼だが、僕は水樹さんに対して恋愛感情は抱いてない。でも、仁と同じように大事な友達だと思っている。だから、絶対に失いたくはない。

 反論する僕に、水樹さんは更なる罵声を浴びせてくると構えていたが、ちょっと困ったような、それでいて寂しげな複雑な表情を浮かべていた。


「名取君、ごめんなさい。私も少し意地悪なことを言ったわ。そうね、それは名取君の本音よね。あなたは優し過ぎる人だから、そう思うのも仕方ないかもしれない」


 水樹さんは髪をくしゃくしゃにし、難題を目の前にしたような険しい顔をする。


「だけどね、冷静に考えて頂戴。このまま名取君、何もしないで、私達ずっと仲良しでいられるかしら?」

「どういう意味?」

「ああ、そうね。名取君、鈍感だから直球で言うわ」


 はぁぁ。と、長い溜息を漏らすと、急に水樹さんは僕の耳元に顔を近付け囁いてきた。


「このままじゃ、北村君が生殺しじゃないかしら」


 この時、今日は心臓が何度も飛び出す日だな、と思った。


「水樹さん。知ってたの? 仁の気持ち」


 びっくりしながら水樹さんの方を見ると、水樹さんはクスッと小悪魔みたいな笑みを浮かべている。

 しかし、言った瞬間、僕はしまった、と思った。

 これだと僕は仁の気持ちを知っていた事実がバレしまう。


「名取君、女の勘を甘く見ない方がいいわ。でも、安心しなさい。名取君や北村君の気持ち、栞は全然気付いていないわよ。あの子は折り紙つきの天然だから。それに栞も名取君と一緒で、4人がずっと仲良く、一緒にいられればいいと思ってるかもしれない。あの子も優しいから」

「それなら尚更、告白しない方がいいじゃないかな」

「ダメよ。このままで終わったら、名取君。卒業してから絶対、後悔するわよ」

「じゃあ、卒業式に告白するよ」

「そういう風に物事を後回しする人って絶対、当日になって告白できず、後で一人ウジウジ後悔するわよね」


 いや、そうかもしれないけど、僕にはループがあるから、大丈夫だよ。なんて言えない。

 しかし、逆を言えば、ループがなければ、僕もそうなる可能性は高いということだ。

 やっぱり、僕はループに依存している。極力、ループはないものとして、物事を考えないといけない。

 考え事をしていると、水樹さんは僕の頬をツネってきた。


「頑張りなさい。大丈夫、フラれたら私が慰めてあげるわよ」

「それ、お互いに気まずくない?」

「別に。気まずいのは名取君だけでしょ」


 意地悪に微笑む水樹さんに、僕は苦し紛れに目を逸らす。

 僕は水樹さんの優しさを素直に喜べないでいた。

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