第24話 修学旅行の計画・出発
中学三年生は基本、夏の大会を最後に部活は終了となり、受験シーズンとなる。しかし、受験シーズンに入る前、一つだけ大きなイベントが待ち構えている。
それは修学旅行。中学で一番のビックイベントといってもいいだろう。
修学旅行は二泊三日。東京付近を自由行動。そして、別の日はディズニーランドへも行けるという贅沢なスケジュールだ。
ちなみに僕の学校は宮城県。東京に行き慣れた人は、自由行動で行く場所を得意げに決め、ディズニーランドで乗る乗り物もサーチ済み。こういう人が同じグループに一人いると非常に心強い。
しかし、残念ながら、僕のグループはそういう人(東京の土地勘が強い者)がいなかった。いないくせに皆、ワガママだった。
僕達グループは、僕、仁、七瀬さん、水樹さんという顔馴染みだったが、いざグループで何処に行くか机を合わせた途端、東京旅行のガイドブックを手にし、それぞれ言いたい放題の意見を出す。
まずは自由行動で何処に行くかについて話し合っていた時のこと。
仁の意見はこうだ。
「東京だとやっぱり、東京タワー、スカイツリーが定番だよな。どこでもいいけど、とにかく高いところから下を見下ろして、見ろ、人がゴミのようだ! って言いたい」
仁よ。多分、東京タワーやスカイツリーから下を見下ろしても、人は見えんと思うぞ。それにその発言、場合によっては著作権に引っかかるになるから気をつけろ。
そして、七瀬さんの意見はこうだ。
「私、秋葉原行ってみたい。そして、メイドカフェに行って、お帰りなさいませ、ご主人様って言われたい。あー、でも、ツンデレカフェにも興味あるだよね。あれでしょ、来店した瞬間『一体、何しに来たのよ?』って罵られた後『さっさと座りなさいよ!』って怒られるんだよね。でも、最終的には『えっ、もう帰ちゃうの? もう少し居てもいいんだからね』とか、言われるんだよね。うわー、たまらないよぉ……あっ、ごめん。興奮したらヨダレが出ちゃった」
七瀬さん、君はツッコミどころが多過ぎる。大体、七瀬さん、女の子だからご主人様じゃないし。ていうか、君はそんなキャラだったっけ?
その時、二人の意見を耳にした水樹さんが「あなた達、なに馬鹿なこと言ってるのかしら」と、呆れたような顔をしていた。
この瞬間、僕は内心ホッとする。良かった、まともな人が一人いてくれたと。
「金閣寺、清水寺には、絶対に行くわよ」
行かねぇーよ! 大体、どっちも東京じゃないないし。一人だけ、京都旅行と勘違いしている奴がいるぞ。
僕が大きく溜息を漏らすと、急に周りがシンとなる。顔を上げると、三人とも僕の顔を見ていた。
「このままじゃ、まとまんねぇ。総司が行く場所決めてくれよ」
仁は突然、責任重大な仕事をぶん投げてくる。
「そうだね。この中では一番まともだし。私もそれでもいいよ。頑張ってね、隊長」
おいおい、七瀬さんまで冗談だろ。勘弁してくれよ。大体、隊長ってなんだよ。グループのリーダーは仁だろ。なんで僕がそんな仕事を。
「名取君。あなたが、ドラえもん展に行きたいというのなら、それには同意するわ。でも、金閣寺、清水寺のどっちかは入れて頂戴。一生のお願いよ」
……えっと、水樹さんは少し黙っててくれるかな。
結果、自由行動の場所は、全て僕が決めることになった。
当然、東京に行ったことがない僕がこの後、責任を感じ、東京ガイドブックの本を穴が開くほど読み、関係ない家族に相談しながら決めたなんて、この三人は知る由もないだろう。
修学旅行当日。朝七時集合だというのに、生徒のテンションはMAX。中には興奮して、昨日あまり寝られなかった人もいるようだ。
あるあるネタかもしれないが、出発前、先生が旅行についての注意事項を話す時、誰一人真剣に耳を傾けてはいなかった。まあ、それは壇上の上で語る校長先生の話しと、被るものがあるのかもしれない。
早速、バスに乗り、仙台駅へと向かう。この後、仙台駅から新幹線で東京まで行くという流れだ。皆口々にこれからある、自由行動の話しに花を咲かせる。
東京駅についたのが十二時前。ここで皆は十六時までの間、グループで自由行動となった。
最初、僕、仁、七瀬さん、水樹さんの四人は秋葉原に向かう。言うまでもなく、七瀬さんの希望であるメイド喫茶に行くためだ。
ラッキーというべきか、僕達の中には、食べるものに煩い食通はいない。だから、食事はメイド喫茶でまあまあ、食事も美味しいという場所で、皆は納得してくれた。
店探すの、本当に大変だったよ。
僕のスマホに【秋葉原 メイド喫茶 食事美味しい 萌え】という履歴を残すのは嫌だったが、一生に一度の修学旅行だ。文句は言えない。
僕達は東京駅から、秋葉原駅へと電車で移動し、僕は人生初の東京というものを肌で感じる。
人がゴミのようだ。なんて言ったら、失礼にあたるから口にしないけど、本当に凄いな。当たり前だけど、仙台以上にごみごみしてるし、駅内も広くて完全に迷子になるな。
でも、初の東京で最初に行った場所が、メイド喫茶というのも面白い。将来、ネタとしては良い想い出になるかもしれない。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様!」
メイド喫茶に入ると、お決まりのセリフで店員さんが出迎えてくれる。年齢は僕達とそう変わらない高校生か、いっても大学生くらいの女の人だった。
「おお。メイドさんだぜ」
と、仁は物珍しそうに店員さんを見つめ。
「うわー、可愛い。後で写真一緒に撮ってくれませんか?」
と、七瀬さんは子供のように目をキラキラ輝かせており。
「お嬢様だなんて、照れるわね」
と、水樹さんが髪をかきあげ、満更でもない顔をしていた。
水樹さんの性格上、メイド喫茶なんて馬鹿馬鹿しいと言うタイプかと思ったが、案外柔軟に対応している。いや、むしろ、楽しんでいるようにも見える。
「うわー、このオムライス美味しそう。ねぇ、紅葉はどうする?」
「そうね、蕎麦にするわ」
「メイドカフェに蕎麦はないよ」
「あら、残念。じゃあ、カツ丼あるかしら」
「あー、残念。カツ丼もない。でも、カツカレーはあるみたいだよ。これも美味しそうだね」
「そう。なら、それにするわ」
隣同士に座った七瀬さんと水樹さんは、メニューを見ながら仲良く話しをしている。いや、実際のところ、七瀬さんはメニュー見ていないけど。
「はい。二人共」
と、そのまま、七瀬さんにメニューを渡された仁。メニューを見ると仁は、珍しく考え込むように唸っている。
「珍しいね、仁がメニュー見て悩むなんて」
いつもメニューを見ると、全部目を通したのか? と疑うくらい選ぶのが早い仁なのに。まあ、普段いかない店だ。慎重になるのもわかる。
「なぁ、総司。このカルボナーラと、ミートソース。それぞれ違う魔法をかけてくれるみたいだが。なんだろう? なんかの調味料かな?」
「仁。そこは迷うな」
僕は恥ずかしくなって、目を逸らした。
ああ、七瀬さんの希望とはいえ、やっぱり、恥ずかしいな。
結果、メニューは、僕と七瀬さんは王道のオムライス、仁はカルボナーラ、水樹さんはカツカレーを注文した。
「お待たせしました。ご主人様、お嬢様」
料理がテーブルに並ぶ。メイド喫茶って接客重視かと思ったが、並ぶ料理は普通に美味しいそうだ。しかも、僕と七瀬さんのオムライスにはケチャップで絵が描いてある。
僕は猫で七瀬さんはウサギだ。成程、メニューのオムライスのカッコが入っていた動物はこういうことだったのか。知らない僕は普通に好きな動物、猫を選んでしまったが。
「あの。お姉ちゃん、恐縮ですが」
注文が全て揃ったところで、七瀬さんは言葉通り、少し恐縮な様子で手を上げる。
「どうなさいました? お嬢様」
声をかけられたツインテールのお姉さんは首を傾げる。
「その……一生のお願いです。私のオムライスにおまじないをかけてくれませんか」
いや、七瀬さん、怖い怖い。瞳孔メッチャ開いてるし。滅茶苦茶、必死だな、おい。
「いいですよ」
「いいんですか!」
笑顔で応じるメイドさんに、七瀬は驚いて立ち上がる。
いや、逆になんで断られると思った? 大丈夫だよ、七瀬さん。ここ、メイド喫茶だから。普通の飲食店で言ったら迷惑行為だけど、ここは大丈夫な場所だよ。
しかし、さすがというべきか。メイドは七瀬さんを見ても笑顔が全く崩れない。きっと、メイド喫茶の店員さんって経験値が半端ないんだろうな。
「じゃあ、いきますよ!」
「はい。お願いします!」
バッチコーイ! とでも言うような勢いで七瀬さんは頷く。
「おいしくなーれ。おいしくなーれ。萌え萌えキュン!」
メイドさんはくねくねと腰を左右に振り、最後は両手でハートマークを作り、七瀬さんのオムライスにおまじないをかけた。
「では、ごゆっくりお過ごしください」
「あざす!」
メイドさんが会釈すると、それ以上に深々と頭を下げる七瀬さん。メイドさんが去った後、七瀬さんは中々顔を上げる気配がない。
「七瀬さん?」
心配して僕が声をかけると、七瀬さんは俯いた状態で応答する。
「ごめん……興奮し過ぎて鼻血出そうだよ。ああ、でも、オムライスにケチャップかかってるから大丈夫か」
いや、なにが大丈夫か。さっぱりわからん。
すると、その様子を隣りにいた水樹さんが黙って見ていた。その表情は心なしか心配しているように見える。ああ、水樹さんはなんだかんだ言って優しいもんな。
「栞ばかりズルいわよ。オムライスに絵まで書いてもらって、その上、おまじないまで。なんで、私のカツカレーには絵が描いていないのかしら? 私、カピバラ書いて欲しいわよ」
いや、あなた頼んだの、カツカレーだからね。カツカレーに絵を書いてるの、見たことないわ。後、カピバラは絵の注文にないからね。
ああ、ツッコミどころが多過ぎて、ツッコミするのも面倒臭い。
不機嫌になる水樹さんに、仁が「まあまあ、そう言わず食べようぜ。水樹のカツカレーにうまそうだぜ」と、なだめていた。
今知ったが、なんだかんだ言って、仁が一番まともなのかもしれないな。
その後、食事を口にしたが、評判通り美味しかった。
その七瀬さんと水樹さんは、メイドさんと一緒に写真を撮ったり思う存分堪能していた。
ちなみにこの後、メイド喫茶に味をしめた七瀬さんが「次、ツンデレカフェ行きたい」と言ったが、そこは即答で却下した。




