第22話 男の真剣勝負
運命の悪戯というものは人生で一度や二度あるもの。
僕達サッカー部は怒涛の活躍で、決勝までほぼ圧勝で勝ち進んだ。仁は三試合で7得点、僕も5得点(ループは使っていない)という絶好調の活躍だった。
決勝の相手は去年、同じく決勝戦で負けた強豪校。以前なら、相手校が圧倒的有利となるはずだが、今年はもしかしたら、うちのチームが初優勝するかも。という期待も高まっていた。
ループの力があれば、間違いなく勝てる。でも、僕は今回、ループを使わないと決めていた。
ループを使ってしまえば、皆の努力を否定することになる。だから、この試合は仮に負けたとしても、全てを受け入れると心に決めていた――はずだった。
「二人共、決勝頑張ってね」
決勝前。七瀬さんが僕と仁のところへ、激励にきてくれた。
七瀬さんが去っていった後、仁は七瀬さんが後ろ姿を見つめ、ぽつりと呟く。
「総司。俺さ、七瀬のこと好きなんだ」
それは一瞬の出来事だった。
耳を疑った僕は仁の方を見る。仁はふざけた様子もなく(そもそも仁はあまりその類の冗談は言わない)真剣な眼差しを僕を向けていた。
「今なんて?」
「俺、七瀬のこと好き」
ああ。どうやら、幻聴ではなかったようだ。
参ったな。ある意味、一番起きて欲しくない事態に発展してしまった。
どうしよう。ここはループするか。いや、ループしたって意味ないか。戻れても10日前だ。10日前に戻ったところで、仁の気持ちは変わらないだろう。
「総司は?」
「えっ?」
「総司も七瀬のこと好きだろ」
間髪入れず、仁は言う。僕は度肝を抜かれて、目ん玉飛び出すかと思った。まあ、飛び出しはしないにせよ、目は完全に見開いてしまっただろう。その様子を見て、仁は苦笑する。
「馬鹿だな。見ていればわかるよ」
マジかよ。いつから知っていたんだ。僕なんて仁の気持ち、全く気付かなかったのに。
「勝負しないか?」
「勝負?」
「ああ。この決勝で点を多く決めた方が、七瀬へ対し、先に告白する権利を得る」
「僕はまだ告白する気ないけど」
「はっ? 告白しなきゃ、なにも始まらないだろう」
「それは仁のようにモテる、イケメン君の正論だ」
「なんだよ。嫌味か」
「嫌味だよ」
お互い譲らず、平行線の会話になる。
仁は一瞬、黙ったが「じゃあ、総司が勝ったら告白しなくていいよ。俺が諦めるだけだ」と、無理矢理話しをこじつけてきた。
「仁が勝ったら告白するの?」
「する」
「いつ?」
「試合終わったらすぐ」
ああ、具合悪くなってきた。さっきまで、モチベーション絶好調だったのに。
きっと、仁が告白したら、七瀬さんはOKするだろう。仁と七瀬さんはこの一年で、かなり仲良くなっている。昔、告白されたイケメン君とはわけが違う。仁は僕と違って性格だっていい。僕が女だったら、自分なんかよく、真面目で爽やかな仁と付き合うだろう。
「おい。北村、名取。試合始まるぞ」
岡田先生が離れた位置から声をかけてきた。
「じゃあ、勝負だ。どっちが勝っても恨みっこなしだからな」
僕の肩を叩き、仁は軽快な足取りでピッチに入っていく。
ああ、ここは仕方ない。男の意地。勝つしか選択肢はないだろう。
そう無理矢理、自分を奮い立たせて、僕もピッチに入っていった。
相手は去年、3-0という大差で負けた強豪校。DFの守りも固いため、去年は1点も取れなかった。そう考えると、仁と僕、どちらも点数が入らない可能性もある。
そんなことが頭を過ぎっていたが、うちのチームは想像以上に強くなっていた。
相手チームは強豪というだけ、パスの精度も高く、一人一人の役割もしっかり理解しており、動きに無駄や隙がない。思い返せば、去年はこの名門と呼ばれる、正確な戦術サッカーにやられたんだ。
でも、そんな正確なサッカー戦術に対し、僕達チームは強みとなる運動量を発揮する。
しつこいプレスにより、相手に正確なサッカーをさせない。支配率でうちのチームが優っているかというと、五分五分かもしれないが、どっちが先に点数を入れてもおかしくない試合展開だった。
そして、勝負は動く。
前半27分。うちのチームでトップ下である工藤君が仁にパスをする。しかし、相手はそれを読んでおり、二人のマークが素早く仁に付いた。
僕も同様に一人マークがついている。
仁がスルーパスするところ、裏に抜けようか。と、考えていた刹那の出来事――。
仁は急にボールを前に蹴り、相手DF選手の股下を通す。相手二人は驚き、後ろを振り返るが、少し反応が遅い。その隙を見逃す仁じゃない。
素早く裏を抜け、仁は二人のDFをかいくぐり、ボールを足元に収める。
そして、GKと一対一。仁は焦ることもなく、飛び出すGKを冷静に見て、ループシュートでゴールネットを揺らした。
途端、会場には歓声が起こり、ピッチにいたチームメイトも仁のもとに駆け寄っていく。仁も皆と一緒に喜び、僕は呆然とその光景を見つめていた。
皆が仁から離れて行くと、仁は真っ先に僕の元に歩み寄ってくる。
「なに、世界が終わったような顔してんだよ。まだ、前半だぜ。お前なら追いつけるだろ」
仁は僕の肩を叩くと、自分のポジションへ戻っていく。
どうしよう。仁が1点入れた。僕がこんな強豪相手に点が取れるだろうか。
そうか、こんな時のためにループが……いや、ダメだ! 去年とは状況が違う。
ここでループを使ったら、僕は一生後悔する。
仁の言う通り、まだ試合は終わっていない。是が非でも1点取ってやる!
そう僕は気持ちを切り替え、ひたすらボールを追っていった。




