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無題  作者: 結城智
第3章 ~中学3年の夏~
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第20話 衝突と信頼

 また季節は廻りに廻り、僕は中学三年生になった。


 一年前に我がサッカー部は十年ぶりの決勝進出となったが、決勝戦ではボロ負けという結果に終わった。まあ、相手が東北大会の常連の強豪中。それに本来なら準決勝で負けていたはず。ループの力で決勝戦までいったようなものだ。


 決勝でもループを使い、初の東北大会進出といきたかったが、小心者の僕は最終的に相沢先輩へレギュラーを譲る形になった。


「今年は誰かに遠慮することもなく、試合に出られるわね」


 嫌味なのか、素直な気持ちがそのまま言葉に出たのかはわからないが、二人きりの時、水樹さんがそんな言葉を口にしていた。


 三年生が引退後、仁がサッカー部キャプテンになった。噂によると、数ヶ月前までは別の者がキャプテンになる予定だったらしい。

 仁の対するサッカーの活躍は文句のつけようがない。しかし、無愛想な彼はリーダーには相応しくないと、岡田先生は考えていたようだ。


 でも、結果的に仁は夏の大会を通し、ずいぶんと社交的になった。

 前なら誰かが話している会話なんて素通りする仁が、自ら進んで輪に入るくらい、それくらい自然に人と関わるようになった。


 しかし、一番の衝撃だったのが、副キャプテンには僕が任命された事だ。そんなの聞いていないと思い、僕は真っ先に職員室に駆け出した。


 職員室に来た僕に対し、岡田先生は驚いた様子も、困った様子もなく、にやけていた。まるで、僕がここに来るのを、最初からわかっていた顔だ。


「自分が副キャプテンになったら、皆が反対する。あいつが副キャプテンなんて絶対、反対だぜ。そんな異論が出るのが怖いんだろ」


 岡田先生のド直球に僕は図星を突かれ黙り込む。そんな僕を見て、岡田先生は吹き出したように、ガハハハッと笑いだした。

 いや、笑い事ではないのが。と思い、僕は岡田先生を睨み付ける。


「ああ、悪い悪い。心配しなくても大丈夫だぞ、名取。お前を副キャプテンにするのは先生の独断じゃないから」

「独断じゃない?」


 じゃあ、誰が決めたというのだ。


「いや、実はさ、二年の奴、皆には事前に相談したんだ。キャプテンは北村。とすると、副キャプテンは誰がいいかなって」

「誰だったんです?」

「満場一致で名取だって」

「そんなわけないでしょ」


 幻滅だ。どんな状況であっても、嘘だけは付かない先生だと信用していたが。


「いやいや、待てよ。なんだよ、その目は。先生嘘付いてないからな」


 僕の心を読んだのか、単に僕の表情がわかりやすかったのかはわからないが、岡田先生は苦笑いしながら頭を掻いた。


「名取。お前さ、もっと自信持っていいと思うぞ」

「僕は夏の大会で初めて試合に出場しました。でも、同じ二年生でレギュラーは何人かいます。実績だけでなく、僕よりもずっと積極的でリーダーに相応しい人もいるはずです」


 仁は確かに部長に相応しい。実績は十分だし、今は積極的になって、周りを纏めることも出来る器だ。でも、僕は違う。実績どうこうではなく、性格面でリーダーには向いていない。


「まあ、確かに名取。お前は部長には適任ではないな」

「それなら――」

「最後まで話しを聞け。部長には向いてないが、副部長には適任だ。しかも、北村が部長なら絶対に副部長は名取だ」

「どういうことです?」


 言っている意味は全然わからない。一体、何を言いたいのだろう。


「あのな、名取、覚えておけ。積極的、外交的、自発的といったワードを持った人間は確かに人の上に立つのに必要な人材だ。だけどな、それだけじゃ、チームは崩壊する。名取、お前は確かに消極的で目立つことを嫌う奴だ。それなのに時々、誰よりも頑固で面倒臭い時もある」


 突然、僕をディスり始める岡田先生。なんだ、まさかここで説教が始まるのか。


「でも、お前は人が寄ってくる穏やかな性格だ。相槌を打つのもうまくて、人からも相談されやすい。これは北村にはない武器だ」

「その、何が言いたいんです?」


 察しが悪い僕は首を傾げてしまう。その反応を見て、岡田先生は溜息を漏らす。


「察しが悪いな。だから皆、部長が北村なら、副部長は名取だって言ってたんだよ。北村は一直線過ぎるところがあるからな。北村が暴走した時、それをうまくコントロール出来るのは名取しかいない、って皆が言ってたぞ」


 コントロールってなんだよ。なんか嫌な言い回しだな。


「北村はさ、お前と仲良くなって、人が変わったように明るくなったよ。俺さ、実は相沢達三年が引退したら、北村が孤立するんじゃないかって心配してたんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。相沢は面倒見が良かったし、何よりサッカーの実力もあったから、北村は従っていた。でも、三年生が引退した途端、北村は誰の言うことも聞かず、完全に孤立するだろうと危惧していたよ。言い方は悪いけどさ、以前のあいつは友達もいなかったろ」


 確かに仁が孤立していたのは事実だ。

 サッカー部でも相沢先輩と会話するくらいで、他の人達と会話するところは、練習中ならまだしも、教室内ではあまり見たことがなかった。


「名取。北村はさ、だいぶ丸くなったから、人との衝突もないと思ってるだろ」

「そうじゃないんですか?」

「ああ。以前の北村は人との衝突を嫌い、人と距離を置いていた。でも、名取と友達になってから、あいつは人と真正面で向き合うようになったんだ。だからだろう。他の奴等との衝突はむしろ多くなった」


 岡田先生。適当でいい加減な人かと思ったけど、生徒のことをきちんと見ているんだな。意外と言っちゃ失礼だが、少し見直してしまった。


「皆、言ってたよ。北村、他の奴等の前では野犬の狼なのに、名取と話す時は尻尾を振った豆柴だって。多分、北村は名取のことは凄く信頼しているんだろうな」


 野犬の狼か。確かに思い当たる節がないわけじゃない。

 仁は周りにあまり弱いところを見せないけど、よく僕には「総司。聞いてくれよ」と、二人きりになった時、弱音を吐く場面がある。そんな時、稀にアドバイスしたりすると素直に耳を傾けてくれるのがほとんどだ。

 まあ、それは仁だけでなく、僕も一緒。仁のことを信頼しているから、仁にしかしない相談も多い。あっ、といっても、七瀬さんが好き、という話しは絶対にしないけどね。


「まあ、結論を言うとだ。部長が北村なら、副部長は名取しかいないという事だ」


 岡田先生はもう面倒臭くなってきたのか、最後は早口に話しを終わらせてきた。まあ、自分が副部長になる事に対し、周囲に異論がないというのが聞けたのなら、それでいい。


 納得した僕は岡田先生に「ありがとうございます」と一礼して、職員室を去ろうとした。


 背を向けて数歩歩いたところ「名取」と、岡田先生に声に呼び止められた。振り返ると、岡田先生は机に顎肘を付け、険しい表情をしていた。


「さっきの言葉だが、一つだけ、訂正させてくれ」


 訂正? 一体なんの話しだろう。


「先生な。北村が人と衝突するのはいいことだと思っているんだ」


 岡田先生には珍しく、なにかを僕に訴えかけるような、真剣な表情だった。


「まあ、社会に出れば、確かにある程度の我慢や協調性は大事にしないといけない。でも、お前達はまだ若い。今の内にたくさん喧嘩すればいいし、たくさん失敗してもいい。いや、逆にした方がいいんだよ。学生時代に苦労した奴は、社会の荒波にも耐えられる。でも、平坦な道しか歩いていない奴は、社会に出た途端に躓く。躓いても立ち上がればいいが、立ち上がる術を持たない者も少なくない」

「……えっと、岡田先生。なんの話しですか?」


 僕の頭に複数のクエスチョンマークが出て来る。そんな僕を見て、岡田先生は頭を掻きながら大きな溜息を漏らす。


「あー。まあ、いいや。名取、副キャプテン頑張れよ」


 なんだ、その投げやりな言い方。相変わらず、岡田先生は面倒臭がり屋だな。


 僕は問い詰めようか一瞬迷ったが、一番知りたかったことを知れたので、まあいいや。程度に考えて職員室を後にした。


 後になって思ったが、僕はこの時、岡田先生の話しをもう少し詳しく聞くべきだったと後悔している。


 そうすれば、近い将来、待ち受ける惨劇を回避できたのかもしれないのに。


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